【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、車両のアイドリング回転数制御装置に関し、特に、吐出容量が変化する可変容量型コンプレッサをカーエアコンシステムの一部として搭載した場合のアイドリング回転数を、安価かつ適切に制御できるようにしたものである。 【0002】 【従来の技術】車両のアイドリング回転数はエンジンの負荷変動によって変化する。 たとえばカーエアコン用として搭載されている可変容量型コンプレッサが駆動されると、その駆動力分が負荷としてエンジンに加わり、アイドリング回転数が低下する。 【0003】特に、可変容量型コンプレッサでは圧縮冷媒ガスの吐出容量が変化するが、吐出容量が大きい状態でコンプレッサが駆動されている場合には、エンジン負荷が大となり、アイドリング回転数が低下し過ぎてエンジン停止という状況に陥ってしまう。 【0004】このような不具合を回避するために、可変容量型コンプレッサが駆動されている間は、その吐出容量が最大の場合を想定してアイドルアップを行い、アイドリング回転数を維持しているが、このようなアイドルアップでは、上記の通り吐出容量が最大となる場合を基準としているため、吐出容量が減少してエンジン負荷が小さくなると、必要以上にエンジン回転数が高くなって燃費が悪くなってしまう。 【0005】そこで、この種の可変容量型コンプレッサをカーエアコンシステムの一部として用いる場合には、 吐出容量の増減に応じたアイドルアップを行うため、吐出容量をたとえば下記(1)または(2)の方法により算出し、この算出結果に基づきエンジンの出力を調整してアイドリング回転数を安定させている。 【0006】(1)可変容量型コンプレッサの吐出容量とその吐出容量を制御する制御機構部品の位置との間に一定の相関関係があることに着目し、制御機構部品の位置を検出して吐出容量を算出する。 【0007】(2)吐出圧と吐出容量との間に一定の相関関係があることに着目し、その吐出圧を検出して吐出容量を算出する。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のような従来のアイドリング回転数の制御によると、可変容量型コンプレッサの吐出容量の算出と、その算出結果に基づくエンジン出力の調整から、吐出容量の増減に応じたアイドルアップが可能となったが、制御機構部品の位置あるいは吐出圧に基づいて吐出容量を算出していることから、制御機構部品の位置検出センサまたは吐出圧検出センサが必要不可欠であり、それだけ制御費用が高価で、車両自体のコスト高をも招いている。 また、この種のセンサの動作不良が生じると、正確な吐出容量を算出することができず、現在の吐出容量相当のエンジン負荷に応じた適切なアイドルアップを行うことができない等の問題点も有している。 【0009】本発明は上述の事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、吐出容量が変化する可変容量型コンプレッサをカーエアコンシステムの一部として搭載した場合のアイドリング回転数を、安価かつ適切に制御できるアイドリング回転数制御装置を提供することにある。 【0010】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、制御圧力と吸入圧力の差圧により吐出容量が決定される可変容量型コンプレッサを搭載した車両のアイドリング回転数制御装置であって、 上記差圧を制御するための制御弁に送出される差圧制御用の外部信号に基づいて、上記車両のアイドリング時におけるエンジン出力を制御することを特徴とする。 【0011】請求項2記載の発明は、制御圧力が制御弁の調節により制御され、差圧制御用の外部信号が該制御弁に送出される制御弁電流値のデューティー比からなり、このデューティー比に基づいてアイドリング時のエンジン出力を制御することを特徴とするものである。 【0012】本発明では、可変容量型コンプレッサの差圧制御用の外部信号に基づいて車両のアイドリング時におけるエンジン出力が制御され、そのアイドリング回転数が調節される。 【0013】 【発明の実施の形態】以下、本発明に係るアイドリング回転数制御装置の実施形態について図1乃至図7を基に詳細に説明する。 【0014】カーエアコンシステムの一部として車両に搭載されるコンプレッサは、吐出容量が変化するものと固定のものとに大別されるが、本実施形態のアイドリング回転数制御装置は、このうち吐出容量が変化する可変容量型コンプレッサの搭載車両を対象としている。 【0015】図1は、制御プレートにより吐出容量を制御する形式のコンプレッサの断面図、図2は、図1に示したコンプレッサのA−A線断面図、図3は図1に示したコンプレッサの制御プレートによる吐出容量の制御機構の説明図である。 【0016】これらの図を用いて可変容量型コンプレッサの概要を説明すると、図1に示したコンプレッサ1にあっては内周楕円状のシリンダ室2を有し、シリンダ室2は制御プレート3表面、サイドブロック4内面、ロータ5外周面、およびベーン6の先端側両側面によって圧縮室7と称する複数の小室に仕切られ、この圧縮室7がロータ5の回転により容積の大小変化を繰り返す。 そして、圧縮室7の容積増加時に、吸入室8側からフロントヘッド9の吸入口10と制御プレート3外周の切り欠き部11を通じて圧縮室7側への低圧冷媒ガスの吸入が行われ、また圧縮室7の容積減少時に、圧縮室7での低圧冷媒ガスの圧縮と、圧縮室7から吐出室12側への高圧冷媒ガスの吐出が行われる。 【0017】このような高圧冷媒ガスの吐出容量を制御するのが制御プレート3であり、制御プレート3はロータ軸13を中心に一定角度の範囲内で回動可能に設けられている。 このような制御プレート3が図中矢印イで示すように時計回りに最大に回転すると、高圧冷媒ガスの吐出容量が減少する。 これは、圧縮室7の容積が最大から最小に移行し始める圧縮初期から圧縮中期に至るまでの比較的長い間、制御プレート3外周の切り欠き部11 を介して吸入口10と圧縮室7側とが連通することから、一度圧縮室7に吸い込まれた低圧冷媒ガスの一部が圧縮室7の容積減少により該切り欠き部11を介して吸入口10側に吐き戻される、いわゆるバイパス効果が生じ、これにより低圧冷媒ガスの圧縮容量が減るためである。 また、制御プレート3が時計回りに最大に回転している位置から反時計回りに回転し始めると、その回転角度に応じて上記のような切り欠き部11を介する低圧冷媒ガスの吐き戻し量が減り、それだけ低圧冷媒ガスの圧縮容量が増え、高圧冷媒ガスの吐出容量が増大する。 【0018】次に制御プレート3の回動機構について説明する。 フロントヘッド9の内面側にはプレート駆動軸14がスライド可能に設けられており、このプレート駆動軸14の先端側に駆動ピン15を介して制御プレート3が連結されている。 またプレート駆動軸14の先端側には吸入室8の吸入圧Psが、該プレート駆動軸14の後端には制御圧力Pcがそれぞれ作用する。 このような制御圧力Pcが高くなり該制御圧力Pcと吸入圧力Ps との差圧ΔP(Pc−Ps)が大きくなると、プレート駆動軸14がばねの力に抗して図中矢印ロで示す方向に前進し、この前進移動が駆動ピン15を介して制御プレート3の回転運動に変換され、該制御プレート3が反時計回りに回転する、これにより前述の如く高圧冷媒ガスの吐出容量が増大する。 このような状態から制御圧力P cが低くなり該制御圧力Pcと吸入圧Psとの差圧ΔP が小さくなると、プレート駆動軸14がばねの力で押し戻されて後退し、その結果、上記とは逆に制御プレート3が時計回りに回転する。 これにより前述の如く高圧冷媒ガスの吐出容量が減少する。 【0019】このように、図1に示したコンプレッサ1 では、プレート駆動軸14の後端に作用する制御圧力P cと吸入室8の吸入圧力Psとの差圧ΔPの大小により吐出容量が決定される。 この場合、差圧ΔPは制御圧力Pcの増減により変化し、また制御圧力Pcは制御弁1 6の操作により制御される。 このように差圧ΔPは制御弁16の操作により制御されるが、本実施形態では、その制御弁16に送出される制御弁電流値のデューティー比(図4参照)を外部信号Sとし、この外部信号Sとしてのデューティー比を変更することにより、該制御弁1 6を操作して制御圧力Pcを制御している。 【0020】図5は差圧ΔPと吐出容量(%)との関係、図6は該差圧ΔPと制御弁16に送る外部信号S、 すなわち制御弁電流値のデューティー比との関係を示したものである。 これらの図から分かるように、制御弁電流値のデューティー比が大きくなると、制御弁16の開時間が長くなり、これにより高圧冷媒ガス吐出圧相当のオイル17が制御弁16を介してプレート駆動軸14の後端側に大量供給されることから、該プレート駆動軸1 4の後端に作用する制御圧力Pcが高まり、吸入圧Ps との差圧ΔPが大きくなる。 このように差圧ΔPが大きくなると、吐出容量が増大することは上述の通りである。 一方、制御弁電流値のデューティー比が小さくなると、制御弁16の開時間が短くなり、これにより制御弁16を介してプレート駆動軸14の後端側に供給される高圧冷媒ガス吐出圧相当のオイル17供給量が減少することから、該プレート駆動軸14の後端に作用する制御圧力Pcが低くなり、吸入圧Psとの差圧ΔPが小さくなる。 このように差圧ΔPが小さくなると、吐出容量が減少することは上述の通りである。 【0021】次に、上記のような構成のコンプレッサをエアコンシステムの一部として搭載した車両での温度制御と、アイドリング時のエンジン回転数制御について、 図7を基に説明する。 【0022】温度制御は次のように行われる。 まず、制御したい部位(車内等)の目標温度Tsetと同部位の現在温度Tとに基づき、エアコンシステムの目標冷媒流量Grを演算する(ステップ100)。 次に、この演算結果の目標冷媒流量Grを基にコンプレッサの吐出容量Vを演算する。 ここで、T−Tset>0のときについて説明すると、この場合は、室内等をさらに冷やすために、エアコンシステム現在の冷媒流量を増やさなければならない。 そのためコンプレッサ吐出容量Vを相対的に増大させて冷房能力を高くする必要がある。 そこで、コンプレッサ回転数Ncを用いて、エアコンシステム現在の冷媒流量を目標冷媒流量Grとするために必要なコンプレッサ吐出容量Vを演算し(ステップ102)、そのコンプレッサ吐出容量Vになる差圧ΔPが図5の実線グラフの関係式から演算で求められる(ステップ10 4)。 さらに、その差圧ΔPになる制御弁電流値のデューティー比が図6の実線グラフの関係式から演算で求められる。 そして、この演算結果のデューティー比が外部信号Sとして制御弁16に送出される(ステップ10 6)。 これにより、制御弁16がコントロールされて(ステップ108)制御圧力Psが高まりプレート駆動軸14が前進すること、およびプレート駆動軸14の前進移動が駆動ピン15を介して制御プレート3の回転運動に変換され、該制御プレート3が反時計回りに回転してコンプレッサ吐出容量が増大することは上述した通りである。 【0023】次に、アイドリング時のエンジン回転数制御について説明すると、これは次のように行われる。 本実施形態では、アイドリング時に、上記のような外部信号Sとしての制御弁電流値のデューティー比がエンジン制御器にも送出される(ステップ106)。 ここで、エンジン制御装置はデューティー比に基づいてエンジンの出力を制御する(ステップ110)。 【0024】具体的には、図5および図6から分かるように、デューティー比が小から大となるときは、現在のコンプレッサの運転状態をみると差圧ΔPが大きくなり、吐出容量が増大する方向にあることから、エンジンに大きな負荷が加わることが予想される。 したがって、 この場合は大きなデューティー比に合わせてエンジン出力を制御しアイドリング回転数を一定にする。 【0025】一方、デューティー比が大から小となるときは、現在のコンポコンプレッサ運転状態をみると差圧ΔPが小さくなり、吐出容量が減少する方向にあることから、エンジンに加わる負荷の減少が予想される。 したがって、この場合は小さなデューティー比に合わせてエンジン出力を制御しアイドリング回転数を一定にする。 【0026】なお、アイドリング回転数の制御については、ステップ102における演算結果のコンプレッサ吐出容量Vをエンジン制御器へ送出し、このコンプレッサ吐出容量Vに基づいてエンジン出力を制御してもよい。 【0027】以上のように、本実施形態のアイドリング回転数制御装置にあっては、可変容量型コンプレッサ1 の差圧制御用の外部信号Sであるデューティー比に基づいて車両アイドリング時のエンジン出力を制御するものである。 このため、従来、アイドリング回転数の制御に用いていた吐出容量制御機構部品の位置検出センサや吐出圧検出センサを別途用いることなく、アイドリング回転数を制御することが可能となり、これらのセンサを省略できる分、制御費用が安く済み、車両自体のコスト低減を図れるほか、この種のセンサの動作不良によるアイドルアップの制御性悪化もなく、吐出容量相当のエンジン負荷に応じた適切なアイドルアップを行うことができる。 【0028】 【発明の効果】本発明に係るアイドリング回転数制御装置にあっては、上記の如く可変容量型コンプレッサの差圧に着目し、この差圧制御用の外部信号に基づいて車両のアイドリング時におけるエンジン出力を制御するものである。 このため、従来のように吐出容量制御機構部品の位置検出センサや吐出圧検出センサを別途用いることなく、アイドリング回転数を制御可能となり、これらのセンサを省略できる分コスト低減を図れ、また、この種のセンサの動作不良によるアイドルアップの制御性悪化もなく、吐出容量相当のエンジン負荷に応じた適切なアイドルアップを行うことができる等の効果がある。 【図面の簡単な説明】 【図1】制御プレートにより吐出容量を制御する形式のコンプレッサの断面図。 【図2】図1に示したコンプレッサのA−A線断面図。 【図3】図1に示したコンプレッサの制御プレートによる吐出容量の制御機構の説明図。 【図4】外部信号として制御弁に送出される制御弁電流値のデューティー比の説明図。 【図5】コンプレッサの差圧と吐出容量との関係の説明図。 【図6】コンプレッサの差圧と制御弁に送る外部信号との関係の説明図。 【図7】図1に示したコンプレッサをエアコンシステムの一部として搭載した車両での温度制御と、本発明に係るアイドリング回転数制御装置の動作説明図。 【符号の説明】 1 コンプレッサ 2 シリンダ室 3 制御プレート 4 サイドブロック 5 ロータ 6 ベーン 7 圧縮室 8 吸入室 9 フロントヘッド 10 吸入口 11 切り欠き部 12 吐出室 13 ロータ軸 14 プレート駆動軸 15 駆動ピン 16 制御弁 17 高圧冷媒ガス吐出圧相当のオイル Ps 吸入圧 Pc 制御圧力 ΔP 差圧 ─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】 【提出日】平成12年1月25日(2000.1.2 5) 【手続補正1】 【補正対象書類名】明細書 【補正対象項目名】0025 【補正方法】変更 【補正内容】 【0025】一方、デューティー比が大から小となるときは、現在のコンプレッサ運転状態をみると差圧ΔPが小さくなり、吐出容量が減少する方向にあることから、 エンジンに加わる負荷の減少が予想される。 したがって、この場合は小さなデューティー比に合わせてエンジン出力を制御しアイドリング回転数を一定にする。 【手続補正2】 【補正対象書類名】図面 【補正対象項目名】図7 【補正方法】変更 【補正内容】 【図7】 |