【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は気体圧縮機に係わり、特に気体圧縮機の仕様によらず安価かつ鋳造・加工が容易で、鋳造欠陥や加工ミスによる損失の少ないケースを備えた気体圧縮機に関する。 【0002】 【従来の技術】気体圧縮機は、室内空調用や冷凍用に用いられている。 気体圧縮機50は図5に示す如く圧縮機本体1を有し、圧縮機本体1は一対のサイドブロック2、3間に介挿されたシリンダ4を備えてなり、シリンダ4内にはロータ5が回転可能に配設されている。 【0003】ロータ5には端面間を貫通する回転軸6が一体に設けられており、回転軸6は両サイドブロック2、3のそれぞれに設けられた軸受孔7、8に回転可能に嵌合し、また、その回転軸先端側6aは軸受孔7より突出し、さらにフロントヘッド9を貫通するように延長形成されている。 回転軸先端側6aの外局面側にはシール室10が設けられており、このシール室10には軸受孔7と回転軸6との軸受すきまGを介し潤滑油が供給される。 【0004】図6に、図5中のA−A矢視線断面図を示す。 ロータ5の外周面には径方向にベーン溝12が形成され、ベーン溝12にはベーン13が摺動可能に装着されている。 そして、ベーン13は、ロータ5の回転時には遠心力とベーン溝底部の油圧とによりシリンダ4の内壁に付勢される。 シリンダ4内は、一対のサイドブロック2、3、ロータ5、ベーン13、13・・により複数の小室に仕切られている。 これらの小室は圧縮室14、 14・・と称され、ロータ5の回転により容積の大小変化を繰り返す。 【0005】このような圧縮機本体1においては、ロータ5が回転して圧縮室14、14・・の容積が変化すると、その容積変化により吸入口35に通じる吸入室15 の低圧冷媒ガスを吸気し圧縮する。 圧縮機本体1は、右側端部に周状の開口端41を有するケース52内に開口端41より挿入固定されている。 【0006】サイドブロック2、3の外周囲には、気密性を保持するため、Oリング42A、42Bが取り付けられている。 サイドブロック3とケース52により吐出室19が形成されている。 そして、圧縮後の高圧冷媒ガスは吐出ポート16、吐出弁17、油分離器18等を介して吐出室19に吐出される。 【0007】このとき、油分離器18では高圧冷媒ガスから油分を分離し、分離の油分は吐出室19の底部に溜り、潤滑油の油溜り20を形成する。 油分の分離された高圧冷媒ガスは、吐出口36より外部の図示しない熱交換器等に供給される。 油溜り20の潤滑油は、オイル通路21を介してベーン溝底部や軸受すきまG(摺接部) 側に圧送供給される。 【0008】一方、図示しないエンジンやモータ等の外部駆動源による動力は、図示しないベルト等によりプーリ31に伝えられる。 プーリ31とフロントヘッド9間には、ベアリング32が配設されている。 回転軸先端側6aの右端には、アマチュア33が固着され、クラッチ用電磁コイル34の励磁により、このアマチュア33はプーリ31の右端面に吸着若しくは離脱される。 アマチュア33がプーリ31の右端面に吸着されたとき、ロータ5はプーリ31の回転に連れて回転する。 また、ケース52の適所には、外部ブラケット等への取り付けボルト用ネジ穴43A、43Bが配設されている。 【0009】ここで、上述の気体圧縮機50(例えば、 排除容積200〔cc/rev〕)を便宜上図7のように簡略化する。 図7において、気体圧縮機50は、圧縮機本体1及びプーリ31が一式で構成され、運転回転数範囲が狭く、圧縮された冷媒ガスの単位時間当たりの吐出量の可変範囲が狭い場合(例えば、1台の室外熱交換器に対し1台の室内熱交換器を装備しているような、冷暖房能力の最大最小の比が2〜3:1程度と小さく、冷媒回路内に封入された冷媒ガスや冷凍機油の量が少ない場合)を想定しており、吐出室19の容積は比較的小さい。 このような気体圧縮機50は、説明の便宜上シングルショートケースタイプと定義する。 【0010】一方、図8に示す気体圧縮機60は、気体圧縮機50と同様に圧縮機本体1及びプーリ31は一式で構成されるが、運転回転数範囲が広く、圧縮された冷媒ガスの単位時間当たりの吐出量の可変範囲がやや広い場合(例えば、1台の室外熱交換器に対し2台の室内熱交換器を装備しているような、冷暖房能力の最大最小の比が3〜6:1程度とやや大きく、冷媒回路内に封入された冷媒ガスや冷凍機油の量が比較的多い場合)を想定しており、吐出室19の容積は大きい。 ケース62は軸方向に長く形成されている。 このような気体圧縮機60 は、説明の便宜上シングルロングケースタイプと定義する。 【0011】更に、圧縮機の運転回転数範囲が広く運転台数も変化し、圧縮された冷媒ガスの単位時間当たりの吐出量の可変範囲が広い場合(例えば、1台の室外熱交換器に対し複数台の室内熱交換器を装備しているような、冷暖房能力の最大最小の比が6〜10:1程度と大きく、冷媒回路内に封入された冷媒ガスや冷凍機油の量が多い場合)には、図9〜図11に示すような圧縮機本体1及びプーリ31が2式配設され、吐出室19が一つで兼用される気体圧縮機70が用いられている。 【0012】図9は、気体圧縮機70の平面図、図10 は、気体圧縮機70の図9中のB−B矢視線断面図、図11は気体圧縮機70の正面図を示す。 この気体圧縮機70の簡略図を図7、図8と同様に対応させて図12に示す。 ケース72はケース52と同程度の軸方向長に形成されている。 このような気体圧縮機70は、説明の便宜上マルチショートケースタイプと定義する。 【0013】また、更に前述以上に冷媒ガス吐出量の可変範囲を広く必要とする場合には、図13に示すように気体圧縮機80の吐出室19の容積を大きくすることも可能である。 ケース82は軸方向に長く形成されている。 このような気体圧縮機80は、説明の便宜上マルチロングケースタイプと定義する。 【0014】 【発明が解決しようとする課題】ところで、従来の気体圧縮機では上述したように、各仕様に応じて様々のタイプのケースが存在している。 この仕様には、排除容積や吐出量等の機能的仕様の他に、ボルト用ネジ穴43A、 43Bの配設位置等の構造的仕様も含まれる。 そして、 圧縮機本体1が挿入固定されるケース内周部分は、気密性を高めるため高精度が要求される。 【0015】このため、各ケースを製造するに際しては、複雑な鋳造用金型を使用し、加工精度の高い旋盤やフライス盤等を用いる必要があった。 また、その加工もマルチショートケースタイプやマルチロングケースタイプの場合には、一軸回りの回転による単純切削が出来ないため、製造コストが高くなる傾向にあった。 また、製造中のケースに一部の鋳造欠陥や加工ミスが存在しても、ケース全体が不良品扱いとなっていた。 【0016】このように、精度が要求され、複雑な形状を有するケースの鋳造や一品ずつの加工は、量産に不向きであり、コスト高の大きな要因となっていた。 本発明はこのような従来の課題に鑑みてなされたもので、気体圧縮機の仕様によらず安価かつ鋳造・加工が容易で、鋳造欠陥や加工ミスによる損失の少ないケースを備えた気体圧縮機を提供することを目的とする。 【0017】 【課題を解決するための手段】このため本発明は、少なくとも一つの開口端を有し、内部に吐出室が形成され、 該吐出室と外部とを連絡する吐出口が配設されたケースと、該ケースに前記開口端より挿入固定され、冷媒ガスの吸入、圧縮、吐出を行う少なくとも一つの圧縮機本体と、前記開口端に固着された少なくとも一つのフロントヘッドと、該フロントヘッド及び前記圧縮機本体を貫通する少なくとも一つの回転軸と、該回転軸を前記フロントヘッドの外側より回転駆動する少なくとも一つの回転駆動手段とを備える気体圧縮機において、前記ケースは、前記圧縮機本体の個数に対応して独立する前部ケーシングと前記吐出室及び前記吐出口を有する後部ケーシングとに分割され、該後部ケーシングの分割された端部と前記前部ケーシングの分割された端部には、相互に結合可能なようにフランジが配設されたことを特徴とする。 【0018】ケースは、シングルショートケースタイプやシングルロングケースタイプのように一つの開口端を有する場合であってもよいし、またマルチショートケースタイプやマルチロングケースタイプのように複数個の開口端を有する場合であってもよい。 このケース内部には吐出室が形成され、吐出室と外部とは吐出口で連絡されている。 【0019】圧縮機本体は、このケースに各開口端より挿入固定される。 各開口端には、それぞれフロントヘッドが固着されている。 回転軸がこのフロントヘッド及び圧縮機本体を貫通している。 回転軸は、回転駆動手段によりフロントヘッドの外側より回転駆動される。 この回転軸の回転に伴い、圧縮機本体は冷媒ガスの吸入、圧縮、吐出の各行程を行う。 【0020】ここに、ケースは、圧縮機本体の個数に対応して独立する前部ケーシングと、吐出室及び吐出口を有する後部ケーシングとに分割する。 前部ケーシングは、圧縮機本体との間の気密性を保つため内壁は高精度に加工する。 一方、後部ケーシングには、特別な精度が要求されない。 後部ケーシングの分割された端部と前部ケーシングの分割された端部には、相互に結合可能なようにフランジを配設する。 【0021】以上のように、高精度の要求される前部ケーシングは一つずつ独立して構成される。 このため、前部ケーシングの開口端は単純な円形の開口が一つ開けられた状態になり、ケース鋳造用金型が簡単な割り型で製作出来、ケース内部の加工もし易い。 また、前部ケーシングは各ケースタイプによらず互換性及び汎用性を持たせることが出来る。 【0022】従って、前部ケーシングは量産に向き、安価に容易に製造出来る。 同一形状の単純な曲面加工をすればよいので、不良品の発生する可能性も少ない。 一方、後部ケーシングは、特別な精度を要求されないため加工が容易かつ安価である。 【0023】また、本発明は、前記フランジの規格は、 前記吐出室の容積の大小、前記圧縮機本体の配設個数及び前記圧縮機本体の排除容積の大小に係わらず同一であることを特徴とする。 【0024】フランジの規格は統一する。 このことにより、例えば排除容積の異なる圧縮機本体を使用しても同じ後部ケーシングを用いることが出来る。 また、これとは逆に、吐出室の容積が異なっても同じ前部ケーシングを用いることが出来る。 従って、一層の低コストを図ることが出来る。 【0025】更に、本発明は、前記後部ケーシングの所定部には、該後部ケーシングを外部固定するための気体圧縮機固定手段を備えて構成した。 【0026】気体圧縮機固定手段の配設位置は、固定される相手である外部ブラケット等の取り付け位置等により様々に異なる。 このため、この気体圧縮機固定手段を後部ケーシングに配設してこの様々な取り付け位置等に対処する。 気体圧縮機固定手段は、一般的にはそれほどの精度を要求されない。 【0027】このため、共に精度のそれほど要求されない後部ケーシングに配設するのが望ましい。 このとき、 気体圧縮機固定手段の製造不良に伴う損失を極力小さく抑えることが出来る。 このことにより、精度の要求される前部ケーシングの標準化を一層図ることが出来る。 【0028】 【発明の実施の形態】以下、本発明の第1実施形態について説明する。 図1に、本発明の第1実施形態の簡略構成図を示す。 図1において、気体圧縮機150は、図7 の気体圧縮機50に対応したシングルショートケースタイプである。 圧縮機本体1が挿入固定された前部ケーシング91は、左端部にフランジ93Aが固着されている。 【0029】また、後部ケーシング53の右端部にフランジ93Bが固着されている。 フランジ93Aとフランジ93Bとは、ボルトにより固定されている。 このフランジ93Aとフランジ93Bの接する位置は、丁度図5 中のC−C切断線に対応している。 【0030】次に、図2に、本発明の第2実施形態の簡略構成図を示す。 図2において、気体圧縮機160は、 図8の気体圧縮機60に対応したシングルロングケースタイプである。 本発明の第1実施形態の前部ケーシング91及びフランジ93Aは、本発明の第2実施形態でもそのまま用いられている。 後部ケーシング63の右端部にフランジ93Bが固着されている。 【0031】次に、図3に本発明の第3実施形態の簡略構成図を示す。 図3において、気体圧縮機170は、図12の気体圧縮機70に対応したマルチショートケースタイプである。 本発明の第1実施形態の前部ケーシング91及びフランジ93Aは、本発明の第3実施形態でもそのまま用いられている。 後部ケーシング73の右端部には、2箇所に円形の開口を有し、その周囲にフランジ93Bが形成された側壁75が配設されている。 【0032】次に、図4に本発明の第4実施形態の簡略構成図を示す。 図4において、気体圧縮機180は、図13の気体圧縮機80に対応したマルチロングケースタイプである。 本発明の第1実施形態の前部ケーシング9 1及びフランジ93Aは、本発明の第4実施形態でもそのまま用いられている。 後部ケーシング83の右端部には、2箇所に円形の開口を有し、その周囲にフランジ9 3Bが形成された側壁75が配設されている。 【0033】以上の構成によれば、第1実施形態〜第4 実施形態で前部ケーシング91及びフランジ93Aを共通に使用している。 このため、後部ケーシング53、6 3、73、83のみを専用品として製造しておけば、従来品と変わらない機種を揃えることが出来る。 【0034】ここに、前部ケーシング91は、圧縮機本体1が挿入固定されるため精度を高く要求される部分である。 この前部ケーシング91は円筒状の単純な形状を有するため、ケース鋳造用金型が簡単な割り型となり、 鋳巣等の欠陥が発生しにくくなると共に、一軸回りの回転切削加工が行え、加工し易く精度も出し易い。 後部ケーシング53、63、73、83は、比較的精度を要求されない部分である。 このため、専用品として生産しても安価である。 【0035】また、この後部ケーシング53、63、7 3、83には、気体圧縮機固定手段に相当する図示しないボルト用ネジ穴を配設することが望ましい。 ボルト用ネジ穴の形状は、図5の取り付けボルト用ネジ穴43 A、43Bと同様なので記載は省略する。 ボルト用ネジ穴を後部ケーシング53、63、73、83に配設することで、精度の要求される前部ケーシングの標準化を一層図ることが出来る。 【0036】但し、ボルト用ネジ穴の位置が常に確定している場合には、後部ケーシング53、63、73、8 3の配設に加えて、この前部ケーシングに対してもボルト用ネジ穴を配設してもよい。 また、後部ケーシング5 3、63、73、83に配設されたボルト用ネジ穴を補強するためのボルト用ネジ穴を標準的に前部ケーシングに対し配設する等してもよい。 【0037】なお、圧縮機本体1の排除容積が異なる場合でも、同一のフランジ93A、93Bを用いることで、一層の低コストを図ることが出来る。 以上に述べたマルチケースタイプの圧縮機本体の個数は2個として説明したが、これ以上の個数の圧縮機本体を備える気体圧縮機であっても同様である。 【0038】 【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、ケースを前部ケーシングと後部ケーシングとに分割して構成したので、精度の要求される前部ケーシングに互換性及び汎用性を持たせることが出来る。 【0039】このため、前部ケーシングは量産に向き、 安価に容易に製造出来る。 簡単な形状の金型による鋳造欠陥の少ない加工前素材に対し、同一形状の単純な曲面加工をすればよいので、不良品の発生する可能性も少ない。 また、後部ケーシングは、特別な精度を要求されないため加工が容易である。 従って、ケース全体としても安価に構成可能である。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の第1実施形態の簡略構成図 【図2】 本発明の第2実施形態の簡略構成図 【図3】 本発明の第3実施形態の簡略構成図 【図4】 本発明の第4実施形態の簡略構成図 【図5】 従来の気体圧縮機の縦断面図 【図6】 図5中のA−A矢視線断面図 【図7】 シングルショートケースタイプ気体圧縮機の簡略構成図 【図8】 シングルロングケースタイプ気体圧縮機の簡略構成図 【図9】 マルチショートケースタイプ気体圧縮機の平面図 【図10】 図9中のマルチショートケースタイプ気体圧縮機のB−B矢視線断面図 【図11】 マルチショートケースタイプ気体圧縮機の正面図 【図12】 マルチショートケースタイプ気体圧縮機の簡略構成図 【図13】 マルチロングケースタイプ気体圧縮機の簡略構成図 【符号の説明】 1 圧縮機本体 6 回転軸 6a 回転軸先端側 9 フロントヘッド 19 吐出室 31 プーリ 36 吐出口 41 開口端 43A、43B ボルト用ネジ穴 50、60、70、80、150、160、170、1 80 気体圧縮機 52、62、72、82 ケース 53、63、73、83 後部ケーシング 75 側壁 91 前部ケーシング 93A、93B フランジ |