【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】この発明はベーン型圧縮機のベーン及びその製造方法に関し、特にベーンの軽量化と摺動性の向上とを両立させることができるベーン型圧縮機のベーン及びその製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】ベーン型圧縮機においては、カムリングにロータが回転可能に収容され、このロータには複数のベーン溝がほぼ半径方向に設けられ、各ベーン溝にはベーンが摺動自在に挿入されており、ロータの回転にともなってベーンが遠心力及びベーン溝底部のベーン背圧によってカムリングの内周面に押し付けられながらベーン溝内を摺動し、ベーンで仕切られた圧縮室の冷媒ガスは圧縮される。 【0003】カムリングやロータやベーン等の材料としては軽量化を図るためアルミニュウム系の材料が用いられる(特開平1−182592号公報等)。 カムリングやベーンがいずれもアルミニュウム系の材料の場合、摺動による凝着を防ぐため、ベーンの表面にニッケル−リン系(Ni−P系)の表面処理を施すことがある。 【0004】図7は従来のベーンの製造方法を示す図である。 まず、図7(a)に示すように、粉末アルミニュウム114aを押し出し、次に、押し出した粉末アルミニュウム114aを、図7(b)に示すように、ベーンの形状に加工し、最後に、図7(c)に示すように、ベーンの形状に加工した粉末アルミニュウム114aの表面にニッケル−リン系のメッキ114bを施す。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】ところが、ニッケル− リン系のメッキはコストが高く、またある条件下では剥離を起こし、凝着や焼付の原因になっていた。 【0006】これを解決するためにベーン全体を鉄系の材料で成形したものを使用すると、良好な摺動特性を得ることはできるが、重量が増大し、ベーンのチャタリングによる騒音が大きくなるとともに、カムリングに対するベーンの衝撃も大きくなって摩耗を生じさせるという問題があった。 【0007】この発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その課題は重量及びコストを増大させずに焼付を防ぐことができるベーン型圧縮機のベーン及びその製造方法を提供することである。 【0008】 【課題を解決するための手段】前述の課題を解決するため請求項1記載の発明のベーン型圧縮機のベーンは、カムリング内に収容されたロータのベーン溝に摺動可能に挿入され、前記ロータの回転時に先端が前記ベーン溝から飛び出して前記カムリングの内周壁を擦りながら回転するベーン型圧縮機のベーンにおいて、アルミニュウム系の母材と、前記母材の表面を被覆する鉄系の被覆部とを備えている。 【0009】また、請求項2記載の発明のベーン型圧縮機のベーンは、前記アルミニュウム系の母材に空洞部が設けられている。 【0010】更に、請求項3記載の発明のベーン型圧縮機のベーンの製造方法は、鉄系のパイプをアルミニュウム系の母材の表面に、押し出し、引き抜き又はプレスによって密着させる。 【0011】また、請求項4記載の発明のベーン型圧縮機のベーンの製造方法は、前記押し出し、引き抜き又はプレスの際に、前記鉄系のパイプを約200〜300゜Cに加熱する。 【0012】 【作用】請求項1記載の発明のベーン型圧縮機のベーンでは、アルミニュウム系の母材と、前記母材の表面を被覆する鉄系の被覆部とを備えているので、アルミニュウム系の母材の表面にメッキ(例えばNi−P系のメッキ)を施したものと異なり、メッキの剥離による焼付が生じないとともに、メッキに代えて鉄系の被覆部を採用することにより、コストを低減することができ、高い摺動特性を維持できる。 また、ベーン全体を鉄系材料で成形したものに較べ、軽量であり、ベーンのチャタリングによる騒音を抑えることができる。 【0013】また、請求項2記載の発明のベーン型圧縮機のベーンでは、前記アルミニュウム系の母材に空洞部が設けられているので、空洞部によって母材と被覆部との熱膨脹差を吸収し、ベーンの変形を防ぐことができる。 【0014】更に、請求項3記載の発明のベーン型圧縮機のベーンの製造方法では、鉄系のパイプをアルミニュウム系の母材の表面に、押し出し、引き抜き又はプレスによって密着させるようにしたので、鉄系の被覆部に例えば成形の容易な軟鉄等を使うことができ、母材も粉末アルミニュウムではなく例えば6000系や2000系等の一般材を使うことができ、コストダウンを図ることができる。 また、ほとんど最終製品としてのベーンに近い形(ニアネットシェイプ)に成形できるので、大幅なコストダウンを図ることができる。 【0015】また、請求項4記載の発明のベーン型圧縮機のベーンの製造方法では、前記押し出し、引き抜き又はプレスの際に、前記鉄系のパイプを約200〜300 ゜Cに加熱するので、アルミ系の母材の表面に鉄パイプが強固に密着し、実用使用条件での母材と被覆部との分離を防ぐことができる。 【0016】 【実施例】以下この発明の実施例を図面に基づいて説明する。 【0017】図2はこの発明の一実施例に係るベーンを備えたベーン型圧縮機を示す縦断面図、図3は図2のII I −III 線に沿う断面図である。 このベーン型圧縮機は、カムリング1と、カムリング1の両開口端を閉塞するようにそれぞれ固定されたフロントサイドブロック3 及びリヤサイドブロック4と、カムリング1内に回転自在に収納されたロータ2と、両サイドブロック3,4の端面にそれぞれ固定されたフロントヘッド5及びリヤヘッド6と、ロータ2の回転軸7とを備えている。 回転軸7は、両サイドブロック3,4にそれぞれ設けた軸受8,9に回転可能に支持されている。 【0018】前記フロントヘッド5には冷媒ガスの吐出口5aが、リヤヘッド6には冷媒ガスの吸入口6aがそれぞれ形成されている。 吐出口5aはフロントヘッド5 とフロントサイドブロック3とにより画成される吐出室10に、吸入口6aはリヤヘッド6とリヤサイドブロック4とにより画成される吸入室11に、それぞれ連通している。 【0019】前記カムリング1の内周面1aとロータ2 の外周面との間には、図3に示すように、上下2つの圧縮空間12が画成されている(図2中には一方の圧縮空間12だけが見えている)。 ロータ2には複数のベーン溝13が設けられ、これらのベーン溝13内には後述するベーン14が摺動自在に挿入されている。 圧縮空間1 2はベーン14によって仕切られて圧縮室が形成され、 圧縮室の容積はロ−タ2の回転によって変化する。 【0020】また、カムリング1の外周壁には、2つの圧縮空間12に対応する2つの吐出ポート16が設けられている(図2には片方の吐出ポート16だけが見えている)。 更に、カムリング1の外周壁には、弁止め部1 7aを有する吐出弁カバー17がボルト18により固定されている。 カムリング1の外周壁と弁止め部17aとの間には、吐出弁カバー17側に保持された吐出弁19 が介装されている。 吐出ポート16が開口したとき、圧縮室12内の圧縮された冷媒ガスは吐出ポート16、連通路2a,3a、吐出室10及び吐出口5aを通じて吐出される。 【0021】前記リヤサイドブロック4には上下2つの圧縮空間12に対応する上下2つの吸入ポート(図示せず)が設けられている。 吸入ポートを介して吸入室11 と圧縮空間12とが連通している。 【0022】図1はベーンを示す拡大断面図、図4はベーンの製造方法を説明するための説明図、図5はベーンの他の製造方法を説明するための説明図である。 【0023】この実施例のベーン14は、図1に示すように、アルミニュウム系の母材14aと、母材14aの表面を被覆する鉄系の被覆部14bとで構成されている。 【0024】図4は引抜工法によるベーン14の製造方法を説明するための説明図である。 被覆部14bとなる鉄パイプ34b内に棒状のアルミニュウム系の母材34 aを挿入し、ヒータ20で鉄パイブ34bだけを200 ゜C以上に温めて熱膨脹させ、鉄パイプ34b及びアルミニュウム系の母材34aをダイス21の孔21a(ベーンの断面形状の孔)に差し込み、冷風を吹き付けながら鉄パイプ34bを引き抜く。 実用使用条件(−30〜 +200゜C)を考慮して、鉄パイプ34b内にアルミニュウム系の母材34aを挿入する際、アルミニュウム系の母材34aを−30゜C以下に冷却するようにしてもよい。 【0025】図5はプレス工法によるベーンの製造方法を説明するための説明図である。 この製造方法では、ダイス22の孔22aに鉄パイプ44bを挿入し、ヒータ23で鉄パイブ44bを200゜以上に温めて熱膨脹させておき、ポンチ24でアルミニュウム系の母材44a を鉄パイブ44b内に圧入する。 圧入の際、上述の工法と同様にアルミニュウム系の母材34aを−30゜C以下に冷却するようにしてもよい。 【0026】次に、このベーン型圧縮機の動作を説明する。 【0027】図示しないエンジンの回転動力が回転軸7 に伝わるとロータ2が回転する。 図示しないエバポレータからの出口から流出した冷媒ガスは吸入口6aから吸入室11に入り、この吸入室11から吸入ポートを通じて圧縮空間12に吸入される。 圧縮空間12内はベーン14によって仕切られており、各圧縮室の容積はロータ2の回転にともなって変化するので、ベーン14間に閉じ込められた冷媒ガスは圧縮され、圧縮された冷媒ガスは吐出弁19を開き、吐出ポート16から吐出室10に流出し、更に吐出口5aから吐出される。 【0028】ベーン14は、ロータの回転にともなって遠心力及びベーン溝13の底部のベーン背圧によってカムリング1の内周面13に押し付けられながらベーン溝13内を摺動する。 【0029】前述のように、この実施例のベーン14によれば、アルミニュウム系の母材の表面にNi−P系のメッキを施したものと異なり、メッキの剥離による焼付が生じないとともに、Ni−P系のメッキに代えて鉄系の被覆部14bを採用したことにより、コストを低減することができるし、高い摺動特性を維持することもできる。 【0030】また、ベーン14全体を鉄系材料で成形したものに較べ、軽量であり、ベーン14のチャタリングによる騒音を抑えることができる。 【0031】また、前述のように、図4又は図5に示す引抜やプレス等の製造方法によってベーン14を作るようにしたので、鉄系の被覆部14bには成形しやすい軟鉄等を使うことができ、母材14aも粉末アルミニュウムではなく6000系や2000系等の一般材を使うことができ、コストダウンを図ることができる。 【0032】更に、いずれの製造方法も、ほとんど最終製品としてのベーンに近い形(ニアネットシェイプ)に成形できるので、大幅なコストダウンを図ることができる。 【0033】また、いずれの製造方法も、鉄パイプ34 b,44bをベーンのマックス温度の200゜C以上に温めて熱膨脹させておき、引抜又はプレスを行うようにしたので、アルミ系の母材の表面に鉄パイプ34b,4 4bが強固に密着し、実用使用条件(−30〜+200 ゜C)での母材14aと被覆部14bとの分離を防ぐことができる。 【0034】図6はこの発明の他の実施例に係るベーンの拡大断面図である。 【0035】前述の実施例では平板状のアルミニュウム系母材14aを用いた場合について述べたが、これに代え、図6に示すように、空洞部25を有するアルミニュウム系母材54aを用いるようにしてもよい。 この実施例のベーン54によれば、空洞部25によって母材54 aと被覆部54bとの熱膨脹差を吸収し、ベーン54の変形を防ぐことができる。 【0036】 【発明の効果】以上説明したように請求項1記載の発明のベーン型圧縮機のベーンによれば、アルミニュウム系の母材の表面にメッキを施したものと異なり、メッキの剥離による焼付が生じないとともに、メッキに代えて鉄系の被覆部を採用したことにより、コストを低減することができるし、高い摺動特性を維持できる。 また、ベーン全体を鉄系材料で成形したものに較べ、軽量であり、 ベーンのチャタリングによる騒音を抑えることができる。 【0037】また、請求項2記載の発明のベーン型圧縮機のベーンによれば、前記アルミニュウム系の母材に空洞部が設けられているので、空洞部によって母材と被覆部との熱膨脹差を吸収し、ベーンの変形を防ぐことができる。 【0038】更に、請求項3記載の発明のベーン型圧縮機のベーンの製造方法によれば、鉄系のパイプをアルミニュウム系の母材の表面に、押し出し、引き抜き又はプレスによって密着させるようにしたので、鉄系の被覆部に例えば成形の容易な軟鉄等を使うことができ、母材も粉末アルミニュウムではなく例えば6000系の一般材を使うことができ、コストダウンを図ることができる。 また、ほとんど最終製品としてのベーンに近い形(ニアネットシェイプ)に成形できるので、大幅なコストダウンを図ることができる。 【0039】また、請求項4記載の発明のベーン型圧縮機のベーンの製造方法によれば、前記押し出し、引き抜き又はプレスの際に、前記鉄系のパイプを約200〜3 00゜Cに加熱するので、アルミ系の母材の表面に鉄パイプが強固に密着し、実用使用条件での母材と被覆部との分離を防ぐことができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】図1はこの発明の一実施例に係るベーン型圧縮機のベーンの断面図である。 【図2】図2はベーン型圧縮機の縦断面図である。 【図3】図3は図2のベーン型圧縮機のIII −III 線に沿う断面図である。 【図4】図4は図1のベーンの製造方法を説明するための説明図である。 【図5】図5は図1のベーンの他の製造方法を説明するための説明図である。 【図6】図6はこの発明の他の実施例に係るベーン型圧縮機のベーンの断面図である。 【図7】図7は従来のベーンの製造方法を説明するための説明図である。 【符号の説明】 1 カムリング 2 ロータ 13 ベーン溝 14,54 ベーン 14a,34a,44a,54a アルミニュウム系の母材 14b,54b 鉄系の被覆部 20,23 ヒータ 21,22 ダイス 25 空洞部 34b,44b 鉄パイプ |