【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、ヘリウムを作動流体とし、主に、絶対温度20Kレベルの極低温を得るヘリウム膨張機に接続する極低温用スクロール圧縮機に関する。 【0002】 【従来の技術】従来、この種の20Kレベルの極低温を得るヘリウム膨張機に接続する圧縮機として、油インジェクションによるガス冷却機構付きのスクロール圧縮機を用いたものは特開平4−47192号公報等で知られているが、その圧縮機に具備する一対のスクロールの設定容積比は、特開平3−229983号公報その他で多数開示されているように、フロンを作動流体とした一般空調用と同様に2.5〜2.7程度つまりスクロール渦巻体の巻数で2.5巻強程度に定めるのが専らであった。 又、特殊用途として、特開平3−271583号公報等で、ヘリウム膨張機よりも更に低温の4Kレベルを得るヘリウム液化装置等に直結するスクロール圧縮機において、その設定容積比を3.4〜4.5程度つまり巻数で4巻前後に定めるものが提案されている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかし、以上のように設定容積比を2.5〜2.7或は3.4〜4.5に定める従来公知のスクロール圧縮機では、高圧ラインの低圧ラインに対する圧力比が4〜20程度と比較的高い条件下では高効率を発揮し得るが、20Kレベルの極低温を得るヘリウム膨張機のように圧力比が2.5〜3.0という低い条件下で使用する場合、油インジェクションによる冷却機構を付加していても、効率が著しく低下する問題が起こる。 【0004】即ち、図6中実線で示すように、設定容積比Vrを例えば2.7、油インジェクションによる冷却を加味してヘリウムの比熱比Kを1.4(通常1.6 6)、低圧圧力PL時の吸込容積を1.0として描いたPV線図で明らかにした通り、高圧圧力PHを越えて過剰な圧縮が行われ、実線斜線で示すような大きな過圧縮損失が生じて、動力ロスを招き、効率が著しく低下するのである。 【0005】本発明では、設定容積比を適切に定め、更にガス冷却機構との併用により、ヘリウム膨張機の運転など圧力比が2.5〜3.0の条件下で使用する場合に高効率を発揮し得る極低温用スクロール圧縮機を提供することを主目的とする。 【0006】 【課題を解決するための手段】そこで、上記主目的を達成するため、図1〜図4に示すように、ヘリウムを作動流体とし、圧力比が2.5〜3.0の条件下で使用する極低温用スクロール圧縮機であって、一対のスクロール1,2の設定容積比を1.8〜2.2の範囲に定めていると共に、圧縮途中の作動流体を冷却する冷却機構3を備えている構成とした。 【0007】この場合、冷却機構3が、スクロール1, 2間に画成する圧縮室4の内部に油を注入する油インジェクション装置であるのが好ましい。 【0008】 【作用】設定容積比を1.8〜2.2の範囲に定め、圧縮途中の作動流体を冷却する冷却機構3を付加したことにより、図6に示すように、設定容積比が上記範囲よりも大きい例えば2.7の場合のような過圧縮損失(実線斜線)を低減できると共に、設定容積比が上記範囲よりも小さい例えば1.4の場合のような逆流損失つまり圧縮不足損失(点線斜線)の発生も抑制でき、図5に示すように、圧力比が2.5〜3.0の条件下で高い効率を発揮し得るのである。 【0009】冷却機構3を油インジェクション装置で構成したことにより、冷却機構としてスクロール部材を覆う水ジャット等を用いる場合に比べて、構造簡易で、しかもヘリウムの比熱比を1.4程度に容易に設定することができ、スクロールの設定容積比を上記の通り1.8 〜2.2の範囲に定めたことと相俟って、良好に所期の目的を達成できるのである。 【0010】 【実施例】図3及び図4に示すスクロール圧縮機は、ヘリウムを作動流体とし、クライオポンプやジュールトムソン回路の予冷機等として利用するヘリウム膨張機に接続し、圧力比2.5〜3.0の条件下で使用する極低温用のものである。 その構造は、密閉ケーシング9の内部上方に、基板11にインボリュート曲線に沿う渦巻体1 2及び外周部支持壁13を突設した固定側の第一スクロール1と、基板21に同様なインボリュート曲線に沿う渦巻体22を突設した公転側の第二スクロール2を配設し、その下方に、クランクピン部51を介して第二スクロール2を駆動する駆動軸5をもつモータ50を配設している。 又、駆動軸5の下端には、二連式のポンプロータ60と、これに嵌合して小容量の第一ポンプ室61a と大容量の第二ポンプ室62aを画成する一対のポンプヨーク61,62と、各ポンプ室61a,62aに接続する一本の油吸入穴63と、各ポンプ室61a,62a から延びる一対の油吐出穴64,65とを備えた容積式の給油ポンプ装置6を設けている。 【0011】こうして、駆動軸5の回転により、第二スクロール2を図示しないオルダムリングで自転を阻止した状態で第一スクロール1に対して公転させ、ヘリウム膨張機から排出し、吸入管7を介して密閉ケーシング9 内に取り込む低圧ガスを、各スクロール1,2の外周領域から該各スクロール間に画成する圧縮室4内に吸入して圧縮し、圧縮後の高圧ガスを、第一スクロール1の中心部に開口する吐出口14から隔壁15で区画する高圧チャンバー16を経て吐出管8に取り出し、再びヘリウム膨張機に供給するようにしている。 又、この運転に伴い、給油ポンプ装置6における第一ポンプ室61a側の給油経路を介して、底部油溜90から駆動軸5内に設ける給油穴52に油を汲み上げ、上下のハウジング91, 92に設ける各主軸受53,54及びピン部軸受55等に給油を行うようにしている。 【0012】以上の構成において、図1及び図2に明示するように、前記第一スクロール1及び第二スクロール2に備える各渦巻体12,22の巻数を2巻前後とし、 その設定容積比を1.8〜2.2の範囲に定める。 この場合、当初から設定容積比を1.8〜2.2に定めた専用のスクロールを設計する他、設定容積比が2.7程度の空調用スクロールの渦巻体の外周側壁部又は中心側壁部を削除することにより、設定容積比を1.8〜2.2 の範囲に定めるようにしてもよく、このようにした場合には、生産面でコストダウンが図れるメリットも得られる。 【0013】更に、図4に示すように、給油ポンプ装置6における第二ポンプ室62a側の油吐出穴65を、ポンプロータ60の頂部段部と上部の間座66との間に画成する環状油室67に連通させると共に、この環状油室67を、駆動軸5に設ける横穴68並びに主軸受54に設ける環状連通路69及び内部取出管31を介して送油管32に連通させ、且つ、該送油管32の出口側を、図3に示すように、油冷却器33及び第一開閉弁34を経て内部連絡管35から固定スクロール1に設ける油注入穴36に接続し、更に、この油注入穴36を、一対の出口穴37,38を介して圧縮途中にある圧縮室4の内部に開口させる。 そして、このように形成する油インジェクション装置により、圧縮途中の作動流体を冷却する冷却機構3を構成する。 尚、送油管32の出口側は、第二開閉弁39をもつ分岐管32bを介してモータ50の上部にも開放しており、モータ50を冷却してその発熱による吸入ガスの加熱を抑制し、容積効率を改善できるようにもしている。 【0014】こうして、第一及び第二スクロール1,2 の設定容積比を1.8〜2.2の範囲に定め、更に、圧縮途中の作動流体を冷却する油インジェクション装置による冷却機構3を付加したことにより、図5に示すように、ヘリウム膨張機の運転範囲である圧力比が2.5〜 3.0の条件下で高い効率を発揮し得るのである。 【0015】尚、以上の実施例では、冷却機構3を油インジェクション装置で構成して構造の簡易化を図ったが、各スクロール1,2の周りを水ジャットで覆い、水冷により冷却を行うようにしてもよい。 【0016】 【発明の効果】以上、本発明では、一対のスクロール1,2の設定容積比を1.8〜2.2の範囲に定め、圧縮途中の作動流体を冷却する冷却機構3を付加したから、ヘリウム膨張機の運転など圧力比が2.5〜3.0 の条件下で使用する場合に高効率を発揮し得るのである。 【0017】又、冷却機構3を油インジェクション装置で構成したから、冷却機構としてスクロール部材を覆う水ジャット等を用いる場合に比べて、構造簡易で、しかもヘリウムの比熱比を1.4程度に容易に設定することができ、スクロールの設定容積比を1.8〜2.2の範囲に定めたことと相俟って、良好に所期の目的を達成できるのである。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明に係る極低温用スクロール圧縮機に備える第一スクロールの下面図。 【図2】同第二スクロールの上面図。 【図3】同圧縮機の上部断面図。 【図4】同圧縮機の下部断面図。 【図5】同圧縮機の効率を示す図。 【図6】従来技術の問題点を指摘すると共に本発明の作用を説明する図。 【符号の説明】 1;第一スクロール、2;第二スクロール、3;冷却機構、4;圧縮室 ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 中川 義明 大阪府堺市築港新町3丁12番地 ダイキン 工業株式会社堺製作所臨海工場内 (72)発明者 大坪 武夫 大阪府堺市築港新町3丁12番地 ダイキン 工業株式会社堺製作所臨海工場内 |