【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、ケミカル液や、押出成形ラインで扱う素材等のように、熱的影響を受け易い流体を適正に扱うことができるようにした歯車ポンプに関するものである。 【0002】 【従来の技術】歯車ポンプは、ポンプ本体内に一対の歯車を噛合状態で収容し、両歯車の同期逆回転動作を利用して、吸込口から吸込んだ流体を歯先とポンプ本体内周との間に閉成される容積空間に閉じ込めて、吐出口に向かって移送する作用を営むものである。 【0003】ところで、例えば流体としてプラスチック等の溶融樹脂を取り扱う場合に、ポンプ本体内の温度が低いと、樹脂がポンプ本体内を通過する間に熱的影響を受けて変質、劣化し、最終製品の品質低下を惹起する。 そのため、従来においては前記ポンプ本体にヒータを内設し、このヒータによりポンプ本体を加熱して、溶融樹脂の温度が通過時に一定温度以下に降下しないようにしている。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】ところで、溶融樹脂は温度上昇によっても変質や劣化を惹起する場合がある。 しかし、従来においては、溶融樹脂の温度降下を抑えることに主眼が置かれ、樹脂の温度上昇に対しては特に配慮がされていない。 ポンプ本体の過熱が明らになった場合にヒータの電源を適宜落としてポンプ本体のそれ以上の加熱を防いでいるだけである。 しかし、このような構成のみでは、適正な品質管理は望めない。 すなわち、かかる構成においては、ヒータOFF後にポンプ本体は自然冷却に委ねられるわけであるが、ポンプ本体にはある程度の熱容量があるため、ヒータOFFから温度降下までに時間を要する。 そのため、その間にポンプ本体を通過した溶融プラスチックが変質を惹起することがある。 また、ヒータの電源を落としても、その後暫くは予熱によりポンプ温度が上昇することがあり、そのヒステリシスのために240〜300℃といった大雑把な調整を行うことしかできない。 したがって、特に取り扱う流体の適正温度幅が狭い場合には、十分に注意を払っても装置上変質等の不具合を効果的に防止するには限界がある。 【0005】本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、熱的影響を受け易い流体を適正に扱えるようにした歯車ポンプを提供することを目的としている。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明は、かかる目的を達成するために、次のような構成を採用したものである。 【0007】すなわち、本発明に係る歯車ポンプは、吸込口からポンプ本体内に導入した流体を、ポンプ本体に内設した一対の歯車により吐出口に向かって移送するものにおいて、前記ポンプ本体に、ヒータと、冷媒流通路とを設け、前記ヒータおよび前記冷媒流通路に導入される冷媒の作動状態を併用または切り換えることによりポンプ本体内を略一定温度に保持することを特徴とする。 【0008】 【作用】このような構成のものであれば、ヒータの通電状態と、冷媒流通路への冷媒の導入状態とを適宜切り換えることで、ポンプ本体内の温度を常時最適値の近傍に保持することができる。 また、仮に最適値との間に偏差があっても、本発明はポンプ本体内を加熱のみならず積極的に冷却する構成を併用しているため短時間のうちに最適値近傍にコントロールすることが容易になる。 したがって、流体が熱的影響を受けやすく、許容温度幅の狭いものであっても、かかる流体をポンプ本体内を通過する間に適温に保って変質等の発生を有効に防ぐことができる。 【0009】特に、本発明は冷媒流通路を採用しているため、ポンプ本体に対して通路の形成位置や数に自由度があり、所望の冷却効果が得られる態様で冷媒を引き回すことが容易になる。 【0010】 【実施例】以下、本発明の一実施例を、図1〜図5を参照して説明する。 【0011】この歯車ポンプは、流体としてポリマー等の溶融プラスチックを取り扱うものである。 歯車ポンプは、図1および図2に示すように、ポンプ本体たるケーシング1の両側開口端にフロントカバー2およびリヤカバー3を添設し、ケーシング1内に一対の平歯車4a、 4bを噛合状態で収容している。 また、その一方の歯車4aを支持する駆動軸5aと、他方の歯車4bを支持する従動軸5bとを、歯車4a、4bの側板を兼ねる軸受6a、6bに回転自由に支承させている。 前記ケーシング1には、歯車4a、4bの歯が漸次離反する側に吸込口INが開口し、漸次噛合する側に吐出口OUTが開口している。 駆動軸5aはフロントカバー2を貫通して外部に延出させてあり、その先端に図示しない駆動機が接続される。 この駆動機を作動させ、両歯車4a、4bを同期逆回転動作させたときに、吸込口INから吸い込んだ溶融プラスチックを歯先とケーシング内周との間に形成される容積空間に閉じ込め、吐出口OUTに向かって移送する作用を営むようになっている。 なお、前記軸受6a、6bの内周には軸方向に伸びる溝6a 1 、6b 1 が設けられ、ケーシング1内に導入された溶融プラスチックの一部は歯車側面等からこれらの溝6a 1 、6b 1 に流出した後、軸方向に流通しながらこれらの軸受6 a、6bを潤滑する。 【0012】一方、前記ケーシング1内には、ヒータ7 と、冷媒流通路8とが設けてある。 ヒータ7は、ロッド状のカートリッジヒータで、ケーシング1に穿設した孔1aにこのカートリッジヒータ7を挿入して埋設している。 また、前記ケーシング1の六面に、一方の面から対向する面に向かってそれぞれドリルにより孔1bを打ち抜き、あるいは途中まで穿設して、それらの孔1bをケーシング1の内部において図3に示すように略立方体状に交叉させ、前記冷媒流通路8を形成している。 すなわち、その立方体状の格子の中に両歯車4a、4bがほぼすっぽり納まっている状態にする。 そして、各孔1bのうち2箇所の開口部8a、8bを除く開口部の全てに、 冷媒流通路8の交叉部を塞がないようにして盲プラグを装着している。 その2箇所の開口部のうち、一方の開口部8aは図5に示すように吸込口IN側における面の隅部1箇所にあって冷媒入口をなし、他方の開口部8bは吐出口OUT側における面の対角側隅部1箇所にあって冷媒出口をなす。 【0013】さらに本実施例では、カバー2、3に対しても、その四面において一方の面から対向する面に向かって孔2a、3aを打ち抜き、あるいは途中まで穿設して、それらの孔2a、3aを図4に示すように内部で井桁状に交叉させ、前記とは異なる冷媒流通路9を形成している。 すなわち、軸受6a、6bを軸方向に投影した際にその投影像が井桁の中にほぼすっぽり納まっている状態にする。 そして、各孔のうち2箇所の開口部9a、 9bを除く開口部の全てに、その交叉部を塞がないようにして盲プラグを装着している。 その2箇所の開口部のうち、一方の開口部9aは図5に示すように吸込口IN 側における面の下部にあって冷媒入口をなし、他方の開口部9bは吐出口OUT側における面の上部にあって冷媒出口をなす。 【0014】使用時には前記各ヒータ7を図示しない電源に接続し、前記冷媒流通路8の入口8aと出口8bの間、および、冷媒流通路9の入口9aと出口9bの間に図示しない外部冷媒供給回路を介挿する。 【0015】なお、ポンプ本体1の適宜の位置には温度センサが設けられ、そのセンサから溶融プラスチックの温度が取り出される。 そして、その検出温度と、予め定めた設定温度(例えば260〜270℃)とを比較し、 前者が後者を下回るときにはヒータをONにし、上回るときには外部冷媒供給回路のバルブをONにするなどの制御を図示しない制御盤を通じて行う。 【0016】このような構成に加えて、本実施例は、前記駆動軸5aの一端部のみならず、その他端部、さらには前記従動軸5bの両端部をもそれぞれカバー2、3を貫通して外部に延出させてあり、全てのカバー貫通部に、軸封機構10を構成している。 この軸封機構10 は、軸5a、6aの外周と端板10aの貫通孔10bの内周との間に適度な寸法の環状隙間を形成し、この環状隙間を軸方向に光学的に不透明にするラビリンスを前記端板貫通孔10bの内周に形成したものであって、前述した冷媒流通路9を流れる冷媒の冷熱がこの環状隙間の内方端側に作用する。 また、この環状隙間の外方端側において前記端板10aに別異の冷媒流通路10cを形成し、環状隙間の外方端側に冷媒の冷熱が作用する。 これらの軸封装置10により、軸5a、5bとケーシング1 とが非接触であるにも拘らず、歯車4a、4bの側面から漏出し軸受溝6a 1 、6b 1を通過して環状隙間に侵出した溶融プラスチックは、その環状隙間において部分的に固化し、微量づつ外部放出されながらシール効果を維持的に発揮する。 【0017】以上のような構成の歯車ポンプであれば、 ヒータ7への通電状態と、冷媒流通路8への冷媒の導入状態とを適宜切り換えることで、特に溶融プラスチックが通過する歯車4a、4bの周辺におけるケーシング1 内の温度を常時最適値の近傍に保持することができる。 また、仮に最適値との間に偏差があっても、本実施例はケーシング1内を加熱のみならず冷却をも積極的に行う構成によって、短時間のうちに最適値にコントロールすることが容易になる。 したがって、熱的影響を受けやすく許容温度幅の比較的狭い溶融プラスチックに対して、 その溶融プラスチックの温度を常に適正な温度域に保って変質等を有効に防止しながら連続的に移送し続けることが可能になり、ひいては押出成形ラインにより製品化される樹脂シート等に変質物や劣化物が混在する割合を従来に比べて確実に低減化することが可能になる。 【0018】また、このような効果は、本実施例で新たに採用した他の構成によっても相乗的に高められるものとなる。 すなわち、本実施例においては、駆動軸5aの一端部のみならず、その他端部、さらには従動軸5bの両端部をも、ケーシング1を貫通して外部に延出させ、 軸受6a、6bの溝6a 1 、6b 1を介して環状隙間に到達した高温、高粘度の溶融プラスチックをそのカバー貫通部に構成した軸封機構10によって固化させながら微量づつ外部放出するようにしている。 そのため、前記環状隙間の寸法や、冷媒流通路9、10による冷却効果を予め適正な値に設定しておきさえすれば、その環状隙間を通して外部に漏洩する溶融プラスチックの量を最適値にコントロールすることができる。 このように、本実施例は特に発熱量の多い軸受6a、6bを通過する際に加熱されて変質した溶融プラスチックに対して従来と異なり4箇所において放出部を与え、吸込み側に帰還させることなく外部放出しているため、移送中の溶融プラスチックに変質物や劣化物が混入する不具合を更に低減できるものとなる。 すなわち、従来においては、駆動軸の反延出端および従動軸の両端はカバーによって蓋封され、軸受の溝に沿って軸端部まで運ばれた溶融プラスチックは、本体、フロントカバーおよびリヤカバーに設けた還流孔を介して吸込口に帰還させていたため、特に発熱の大きい軸受において変質、劣化した溶融プラスチックが吸込み側に戻って移送中の溶融プラスチックに混入するという不都合がつきまとったが、本実施例においてはそのような不具合を払拭できるものとなる。 【0019】なお、各部の具体的な構成は、上述した実施例のみに限定されるものではない。 例えば、上記実施例ではヒータにカートリッジタイプのものを用いたが、 鋳込ヒータやプレートヒータ等であってもよい。 図6は鋳込ヒータ107を用いる場合を示しており、ケーシングと鋳込みヒータとが本発明のポンプ本体に相当し、冷媒流通路108はその鋳込ヒータ107内にパイプを引き回すことにより簡単に構成することができる。 107 aはヒータ端子台である。 【0020】[付記1]本発明は上述したように、一方の歯車ポンプを軸着する駆動軸および従動軸をそれぞれカバーを貫通して外部に延出するとともに、そのカバー貫通部においてカバーと軸の間に形成される環状隙間を軸封機構によって冷却し、この環状隙間を通して外方へ漏洩しようとする溶融プラスチックを部分的に固化させる構成を併用することが有効であり、取り扱う流体に変質物や劣化物が発生、混入する不具合を著しく低減することが可能になる。 【0021】その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。 【0022】 【発明の効果】本発明の歯車ポンプは、以上説明したように、ポンプ本体内に導入される流体を、ポンプ本体に内設したヒータおよび冷媒流通路を流れる冷媒の作動状態を切り換えることによって常に略一定温度にコントロールできるものである。 そのため、熱的影響を受け易い流体が温度変化により変質、劣化する不具合を効果的に防止することができ、最終製品の品質を確実に向上させることが可能になる。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の一実施例を示す全体縦断面図。 【図2】図1におけるII-II 線断面図。 【図3】同実施例の要部を模式的に示す図。 【図4】同実施例の要部を模式的に示す図。 【図5】同実施例の要部を斜視的に示す図。 【図6】本発明の他の実施例を斜視的に示す図。 【符号の説明】 IN…吸込口 OUT…吐出口 1…ポンプ本体(ケーシング) 4a、4b…歯車 7…ヒータ 8…冷媒流通路 |