【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は植物繊維束の漂白方法及びこの方法によって処理された植物繊維束に関し、更に詳しくは、植物の靱皮等から採取される植物繊維束中のリグニンを選択的に分解することにより、植物繊維束の靱性及び柔軟性を維持しつつその漂白を行う植物繊維束の漂白方法と、この方法により漂白処理され、あるいは更に染色された植物繊維束に関する。 【0002】 【従来の技術】 植物繊維束とは、例えばケナフの靱皮部分等から一定の機械的処理、化学的処理あるいは生分解処理等を通じて採取される例えば20〜200μm程度の太さのファイバー状の材料である。 このような植物繊維束は、植物の靱皮を上記の一定の処理によって適度に解繊することで得られ、主としてセルロースからなる多数の単繊維が接着成分によって結束された形態を有する。 【0003】 植物繊維束は自然界に普遍的に存在する無害でしかも生分解性のセルロース等からなり、しかも優れた靱性及び柔軟性を示すファイバー状の材料であるため、例えば、ガラス繊維等に代わる繊維強化樹脂用フィラー、テキスタイル又は不織布等としての用途開発を見込める新素材である。 【0004】 ところで、植物繊維束の接着成分はペクチンを主成分とするが、接着成分中にはリグニンも多く残留している。 そして、紙パルプの場合と同様にリグニンが植物繊維束の着色原因となるため、商品価値の高い植物繊維束の提供を考えた場合、リグニン分解による植物繊維束の漂白が望まれる。 【0005】 リグニン分解によるパルプ質材料の漂白技術としては、従来より、さらし粉等の塩素系薬品や過酸化水素等を用いる化学的漂白方法が行われている。 例えば、特開平8−199420号公報では、アルカリ性においてキレート剤等を添加して過酸化水素処理を行う技術が開示されている。 【0006】 バイオブリーチングとも呼ばれる酵素や微生物を用いた漂白技術も提案されている。 例えば特開2000−282384号公報には、未漂白パルプをアルカリ酸素漂白することを前提として、その後に酵素漂白を行う漂白パルプの製造方法が開示されている。 更に特開2002−69881号公報には、マンガンペルオキシダーゼと、そのパルプ漂白作用を増強する活性を有する微生物とを併用するパルプの漂白方法が開示されている。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 しかし、強力な酸やアルカリを用いて植物繊維束の漂白を行う場合、植物繊維自体の靱性等も一定のダメージを受けるし、従来から指摘されているように有害な高濃度処理廃液(特に、ダイオキシン等の塩素系化合物を含む処理廃液)も生じると言う問題がある。 【0008】 バイオブリーチングによれば、上記のような問題は回避できる。 しかし、酵素や微生物の活性を維持しながらリグニン分解を行う必要があるため、一般的に厳しい条件下での高反応効率を期待できない、と言う問題がある。 【0009】 本件出願人は、国際出願:PCT/JP00/07618(国際公開番号:WO 01/31066 A1)において、このような点を考慮した反応方法の発明を開示している。 この発明は、リグニン分解によるパルプ漂白等を対象とし、特に以下の▲1▼〜▲3▼の注目すべき技術を開示している。 【0010】 ▲1▼酵素を失活させないマイルドな条件下で、マンガンペルオキシダーゼを用いて、反応メディエータであるマンガンイオンを3価に活性化する。 そして、リグニンを選択的に分解するこの活性メディエータ(3価マンガンイオン)を基質反応場に投入し、厳しい条件下でリグニンの分解反応、即ちパルプの漂白反応を高効率に遂行させる。 これにより、酵素の活性を維持しながら高反応効率のリグニン分解を行うことが可能となる。 【0011】 ▲2▼上記した反応メディエータの活性化プロセスにおいて、マンガンペルオキシダーゼをその酵素サイズとほぼ合致した大きさで構造安定性を有する構造ユニット中に固定化することにより、マンガンペルオキシダーゼに高い過酸化水素耐性を付与する。 これにより、反応メディエータの活性化プロセスを比較的苛酷な条件に設定することが可能となり、活性化マンガンイオンを高効率に基質反応場へ提供することができる。 【0012】 ▲3▼上記の基質反応場でのリグニン反応を、中間にパルプのアルカリ抽出処理を介在させて多段に繰り返す。 アルカリ抽出処理としては、2.5%濃度の苛性ソーダを用い、70°Cにおける5分間の処理を例示している。 これにより、パルプのセルロース繊維間に埋没し分解され難い状態のリグニンを、アルカリ抽出によって溶出させ、これを除去できる。 。 【0013】 【着眼点】 しかし、本願発明者が上記の国際出願に係る発明を植物繊維束の漂白に適用したところ、上記した発明の好ましい効果は十分に確保されるが、植物繊維束の優れた特徴である靱性及び柔軟性が損なわれる傾向のあることが判明した。 【0014】 本願発明者は、その原因を究明する過程で、植物繊維束の場合にはパルプの場合とは異なり単にリグニンを分解するだけでは良好な結果が得られず、接着主成分たるペクチンの分解の問題等も十分に考慮する必要がある旨の知見に到達した。 そしてこのような知見に基づき、植物繊維束の靱性及び柔軟性を損なわずにその有効な漂白を行い得る処理法を究明し、本願発明を完成した。 【0015】 【課題を解決するための手段】 (第1発明の構成) 上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、植物繊維束の接着成分に含まれるリグニンを以下の(1)及び(2)の処理を交互に行って分解することにより、植物繊維束の靱性及び柔軟性を損なわずにその漂白を行う、植物繊維束の漂白方法である。 【0016】 (1)酵素により活性化された特定のメディエータを用いて選択的にリグニン分解反応を行う酵素的分解処理。 【0017】 (2)前記リグニン以外の接着成分を分解させない程度の温和な条件によるアルカリ抽出処理。 【0018】 (第1発明の作用・効果) 第1発明の植物繊維束の漂白方法はバイオブリーチングの一種であって、設備投資コストが低く、使用する薬品の毒性及び濃度も低いクリーンな技術である。 そして、微生物を利用するバイオブリーチングに比較して、セルロース分解等の好ましくない副反応を伴う可能性が低く、しかも漂白度が高いために所定の漂白度に達するための処理時間を短縮できる。 【0019】 次に、酵素により活性化された特定の(即ち、選択的にリグニン分解反応を行い得る)メディエータを用いてリグニン分解反応を行うので、酵素的分解処理においてセルロースやペクチンの分解を回避して植物繊維束の強度を維持できる。 更に、酵素的分解処理とアルカリ抽出処理とを交互に行うので、植物繊維束のセルロース繊維間に埋没し分解され難い状態のリグニンをアルカリ抽出によって溶出させ、より良好に分解・除去できる。 【0020】 特に重要な点は、アルカリ抽出処理を接着主成分を分解させない程度の温和な条件で行うことである。 そのため、セルロース繊維間に埋没したリグニンを分解できる一方で、接着成分の主成分たるペクチンの分解をアルカリ抽出処理においても回避できる。 その結果、植物繊維束の主要な特性の一つである靱性を良好に維持できる。 かかる靱性の問題とは別に、植物繊維束同士を接着しているペクチンを分解すると糊状の物質を生成し、これらが乾燥時に硬化してゴワゴワ感を与え、実用上も植物繊維束の柔軟性を損ねることが判明した。 第1発明によれば、このような糊状物質の生成を有効に阻止できるため、植物繊維束における他の主要な特性である柔軟性を良好に維持できる。 【0021】 なお、植物繊維束を例えば表層材に利用したい場合等のように、植物繊維束を意図的に特定の色彩に染色したい場合がある。 このような場合、通常の植物繊維束では染めムラが発生し、明度の高い染色も困難であると言う不具合があったが、第1発明の漂白方法により処理された植物繊維束においては、理由は必ずしも明確ではないが、明度が高く、染めムラのない均一な染色が可能である。 【0022】 (第2発明の構成) 上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、前記第1発明に係る酵素的分解処理における酵素がマンガンペルオキシダーゼであり、メディエータがマンガンイオンである、植物繊維束の漂白方法である。 【0023】 (第2発明の作用・効果) 上記の第1発明においては、発明の目的に合致する限りにおいて、選択的にリグニン分解反応を行い得るメディエータの種類やこのメディエータを活性化できる酵素の種類は限定されないが、メディエータとしてはマンガンイオンが、酵素としてはマンガンペルオキシダーゼが、特に好ましい。 【0024】 (第3発明の構成) 上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、前記第1発明又は第2発明に係る酵素的分解処理における酵素が、酵素サイズとほぼ合致した大きさで構造安定性を有する構造ユニット中に固定化された酵素である、植物繊維束の漂白方法である。 【0025】 (第3発明の作用・効果) 酵素的分解処理に用いる酵素としては、メディエータを活性化する際に用いる過酸化水素等に対して安定性の高いものが好ましい。 マンガンペルオキシダーゼ等の酵素を安定化させる一つの有力な手段が酵素の固定化であり、特に第3発明のような所定の構造ユニット中に固定化された酵素が有効である。 【0026】 (第4発明の構成) 上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、前記第1発明〜第3発明に係る酵素的分解処理が、植物繊維束の存在しない活性化反応場において酵素によりメディエータを活性化するステップと、活性化状態にある活性メディエータを植物繊維束が存在する基質反応場に投入するステップとからなる、植物繊維束の漂白方法である。 【0027】 (第4発明の作用・効果) 第4発明のようにメディエータを活性化するステップと活性メディエータを基質反応場に投入するステップとが分離されると、酵素によるメディエータ活性化ステップを相対的にマイルドな条件で行って高価な酵素の失活を回避しつつ、基質反応場を厳しい高反応効率条件に設定してリグニン分解反応を十分に促進することが可能となる。 【0028】 (第5発明の構成) 上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、前記第1発明〜第4発明に係るアルカリ抽出処理が、0.5〜2%濃度の水酸化ナトリウム溶液又はこれと同等の還元作用を有するアルカリによる20〜40°Cで5〜30分間の処理である、植物繊維束の漂白方法である。 【0029】 (第5発明の作用・効果) 酵素的分解処理と組み合わせたアルカリ抽出処理は、前記のように植物繊維束のセルロース繊維間に埋没したリグニンをより良好に分解する極めて有効な手段である。 しかし苛酷な化学的処理であるため、紙パルプの漂白の場合とは異なり、植物繊維束の漂白においては接着主成分であるペクチンを損傷又は分解させない細心の注意が必要である。 【0030】 本願発明者は、多くの実験的研究の結果、第5発明のアルカリ処理条件が、植物繊維束のセルロース繊維間に埋没したリグニンを良好に分解し、かつ接着主成分であるペクチンを殆ど損傷又は分解させない最適条件であることを突き止めた。 【0031】 (第6発明の構成) 上記課題を解決するための本願第6発明の構成は、植物の靱皮から採取され、第1発明〜第5発明のいずれかに係る植物繊維束の漂白方法によって処理されたものであり、あるいは更に染色されたものである、植物繊維束である。 【0032】 (第6発明の作用・効果) 第6発明に係る植物繊維束は、良好に漂白され、あるいは更に良好に染色され、リグニンに起因する経時的な着色も少なく、しかも靱性や柔軟性等の特性も良好に維持された商品価値の高い植物繊維束である。 【0033】 (第7発明の構成) 上記課題を解決するための本願第7発明の構成は、第6発明に係る植物繊維束であって、材料強化用フィラー、テキスタイル又は不織布として用いられるものである、植物繊維束である。 【0034】 (第7発明の作用・効果) 上記第6発明に係る植物繊維束の用途は限定されないが、例えば第7発明に列挙する用途が特に有望又は有益である。 【0035】 【発明の実施の形態】 次に、第1発明〜第7発明の実施の形態について説明する。 以下において単に「本発明」と言うときは、第1発明〜第7発明を一括して指している。 【0036】 〔植物繊維束〕 本発明において、植物繊維束とは、主としてセルロースからなる複数ないしは多数の単繊維がペクチン等の接着成分によって結束されたファイバー状の素材を言う。 接着成分による単繊維の結束は、接着成分によって径方向に束ねられた形態と接着成分によって軸方向に連結された形態との混じり合ったものである。 従って、接着成分による結束力が弱まると、植物繊維束の靱性(例えば、引張り強さ)が低下する。 【0037】 植物繊維束は任意の植物組織を原料として調製できるが、特に好ましい原料植物はケナフ、ジュート、ヘンプ等であり、特に好ましい原料組織は植物の靱皮部分である。 原料組織からの植物繊維束の調製方法としては、公知の各種の方法、例えば微生物を用いる方法、機械を用いる方法等を利用できる。 【0038】 植物繊維束の好適なサイズは用途によっても異なり、必要に応じて任意に調製されるが、通常は径20〜200μm程度、長さ50〜1000mm程度である。 本発明に係る漂白処理された植物繊維束の用途は限定されないが、例えば樹脂材料等の強化用フィラー、テキスタイル又は不織布として好ましく用いることができる。 【0039】 〔植物繊維束の漂白方法〕 本発明の植物繊維束の漂白方法は、(1)酵素により活性化された特定のメディエータを用いて選択的にリグニン分解反応を行う酵素的分解処理、(2)接着主成分を分解させない程度の温和な条件によるアルカリ抽出処理、の二つの処理を交互に行って、植物繊維束の接着成分に含まれる着色成分リグニンを分解する方法である。 そして、リグニンを高い効率で分解することにより漂白効果を高め、かつリグニンを選択的に分解することにより植物繊維束の靱性と柔軟性の低下を防止する。 【0040】 酵素的分解処理とアルカリ抽出処理とは、前者を最初に行うと言う前提のもとに交互に行われる。 「交互に行う」とは、前者と後者の処理を1回ずつ行う場合を含み、前者と後者の処理を交互に2回以上繰り返す場合も含む。 これらの繰り返し回数は、植物繊維束の漂白状況等を勘案して任意に決定される。 【0041】 〔酵素的分解処理〕 前記した酵素的分解処理においては、酵素によるメディエータの活性化反応と、活性化されたメディエータによるリグニン分解反応とを同一の反応ステップ(同一の反応場)で行っても良い(1ステップ式又は一槽式)が、より好ましくは、メディエータの活性化反応とリグニン分解反応とを異なる反応ステップで行う(2ステップ式又は二槽式)。 二槽式の場合、基質反応場には酵素が存在しないので、酵素の失活を懸念することなく、基質反応場を厳しい高反応効率の条件に設定できる。 そして基質反応場ではメディエータによる選択的なリグニン分解がなされるので、厳しい反応条件に設定しても植物繊維束の繊維や接着成分(ペクチン)の損傷・分解は少ない。 【0042】 二槽式の酵素的分解処理は、植物繊維束の存在しない活性化反応場において酵素によりメディエータを活性化するステップと、活性化状態にある活性メディエータを植物繊維束が存在する基質反応場に投入してリグニン分解を行うステップとからなる。 この場合、例えば隣接する別個の反応槽に活性化反応場と基質反応場とを構成し、両反応槽を活性メディエータの輸送手段により連結すると言う構成が考えられる。 【0043】 メディエータを活性化するステップはマイルドな条件で(例えば、0.01〜0.1mMの過酸化水素存在下、25〜40°Cで)行うことが好ましいが、酵素が良好な安定化形態にある場合には、この条件をやや厳しくしてメディエータの活性化効率を上げることもできる。 リグニン分解を行うステップは、酵素が存在しないので、相対的に厳しい条件で、かつ長時間行うことができる。 例えば、50〜80°Cで30〜120分間程度継続しても支障はない。 【0044】 活性化反応場の反応槽は、活性メディエータの生成とその基質反応場への供給とを連続的に行い得る構成が特に好ましい。 その一例として、活性化反応場の反応槽が固定化酵素を充填した反応カラムとして構成され、該反応カラム中をメディエータを含む反応液が連続的に通過して活性メディエータを生成し、そのまま基質反応場へ送り込まれる、と言う構成が挙げられる。 【0045】 〔メディエータ〕 メディエータとしては、その活性化状態においてリグニンを選択的に(少なくとも優先的に)分解するメディエータが好ましく用いられる。 特に好ましいメディエータがマンガンイオンである。 マンガンイオンは2価カチオンの状態では不活性であるが、3価カチオンの状態ではリグニンに対する分解活性を示す。 3価マンガンイオンを、マロン酸やジケトン構造を有する化合物等のキレート化合物と結合させて、安定な金属錯体としておくことも好ましい。 【0046】 その他にも利用可能なメディエータとして、HBT(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)、NHA(N−ヒドロキシアセトアニリド)、ABTS(2,2'−アジノ−ビス−(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸))、ベラトリルアルコール等が例示される。 【0047】 〔酵素〕 酵素的分解処理には、上記メディエータを活性化し得る酵素が用いられる。 このような作用を持つ限りにおいて酵素の種類は限定されないが、特に好ましい酵素が、過酸化水素等の存在下においてマンガンイオンを3価に活性化する作用を持つマンガンペルオキシダーゼである。 その他にも、HBTを活性化するラッカーゼ、ベラトリルアルコールを活性化するリグニンペルオキシダーゼ等を例示することができる。 【0048】 〔固定化酵素〕 酵素的分解処理に用いるマンガンペルオキシダーゼ等の酵素は、担体への固定化によって安定化しておくことが、特に好ましい。 酵素固定化の形態は特段に限定されず、大きなサイズの反応ベッド(酵素固定床)への固定化や、ビーズ状あるいは粒子状の担体への固定化、その他の一般的な酵素の固定化形態を任意に利用することができる。 【0049】 しかし、酵素サイズとほぼ合致した大きさで構造安定性を有する構造ユニット中に固定化することが、とりわけ好ましい。 「構造ユニット」とは、無機材料やポリマー等の有機材料を以て構成された、内部に酵素を収容可能な中空の構造体であり、又はこのような中空の構造が多数形成された構造体である。 構造ユニットの特に好ましい例が、好適な孔径の多数の細孔を備える多孔質体である。 【0050】 構造ユニットのとりわけ好ましい例が、ケイ酸質材料からなる多数の中空構造の集合体として形成されたメソポーラスシリカ多孔体である。 メソポーラスシリカ多孔体の作製方法は限定されないが、例えばカネマイト等の層状シリケートを、テンプレート物質である界面活性剤と混合して反応させ、界面活性剤のミセルの周囲に層状シリケートによる骨格構造が多数配列して形成された界面活性剤/無機複合体を形成させた後、焼成や有機溶剤による抽出を利用して界面活性剤を除去し、界面活性剤のミセルに対応する形状及びサイズの多数のメソポア細孔を層状シリケート骨格構造中に形成する、と言う方法を利用できる。 【0051】 層状シリケートを用いた上記メソポーラスシリカ多孔体は、その細孔表面が疎水性となるため、水和していない酵素の安定的な固定化のために好ましく、かつ細孔表面がアニオン性を有するので、表面にアミノ基等のカチオンを有する酵素の固定化のために好ましい。 メソポーラスシリカ多孔体への酵素の固定化方法も限定されないが、例えば、メソポーラスシリカ多孔体を単に酵素溶液に浸漬させるだけでも、酵素が細孔中へ吸着されて固定化される。 【0052】 〔アルカリ抽出処理〕 アルカリ抽出処理は、接着主成分であるペクチンを分解させない程度の温和な条件で行う。 特に好ましいアルカリ抽出処理の条件は、0.5〜2%濃度の水酸化ナトリウム溶液又はこれと同等の還元作用を有するアルカリによる、20〜40°Cで5〜30分間の処理である。 とりわけ好ましくは、1〜1.5%濃度の水酸化ナトリウム溶液又はこれと同等の還元作用を有するアルカリによる、20〜30°Cで5〜30分間の処理である。 【0053】 酵素的分解処理とアルカリ抽出処理とを交互に行うためには、例えば酵素的分解処理を行った植物繊維束を基質反応場(基質反応槽)から取り出して濾過、水洗した後に、アルカリ溶液を収容した容器に投入してアルカリ抽出処理し、その後に植物繊維束を取り出して濾過、水洗した後に、再度基質反応場へ戻す、等の方法により行うことができる。 【0054】 【実施例】 (実施例1) 生長したケナフの収穫後靱皮をはぎ取り、はぎ取った長尺靱皮を川に3週間浸漬して微生物解繊を行い、粗繊維束を得た。 この粗繊維束を長さ約10cmに切断して、短尺の植物繊維束を調製した。 【0055】 この短尺の植物繊維束を漂白処理する前に、▲1▼ISO7724に準じた方法で白色度を評価し、▲2▼靱性の指標として引張り強さを後述の実施例3に示す方法によって評価し、かつ▲3▼手触りの感触によって柔軟性を官能評価した。 その結果、これらの初期評価値は、白色度が46.3%、引張り強さが292Nであり、手触りは良好な柔軟性を感じさせた。 【0056】 この植物繊維束10gを以下に示す方法で漂白した。 漂白に用いた装置を図1に示す。 【0057】 容器1には、30mMマロン酸(pH4.5)、10mM硫酸マンガン、0.1mM過酸化水素、0.05%トウ イン80からなる漂白用試薬が収容されている。 容器1の内部はガラス管2によって活性化反応場である反応カラム3の上端に連結されており、図示省略の送液ポンプによって、容器1内の漂白用試薬が毎分100mLの割合で反応カラム3に送られる。 【0058】 反応カラム3中には、層状シリケートを用いて作製した前記メソポーラスシリカ多孔体であって、その細孔中にマンガンペルオキシダーゼを固定化したものが500mg充填されている。 固定化マンガンペルオキシダーゼの合計量は6mgである。 反応カラム3の内部温度は40°Cを保つように設定されている。 【0059】 反応カラム3の下端はガラス管4によって基質反応場である容器5に連結されており、従って反応カラム3を通過した漂白用試薬(換言すれば、活性化されたメディエータである3価マンガンイオン)は容器5に送られる。 容器5内には上記の植物繊維束が収容され、内部が30°Cを保つように設定され、かつ、攪拌羽根を備えた攪拌装置6が設けられている。 容器5に送られた漂白用試薬は、攪拌装置6による毎分50回転の攪拌を受けつつ、植物繊維束に作用する。 漂白用試薬は、植物繊維束に作用した後、ガラス管7を通じて廃液受けである容器8に排出される。 【0060】 こうして植物繊維束に対する酵素的分解処理を2時間継続させた後、容器1からの送液を停止し、容器5から植物繊維束を取り出して水洗した。 次に植物繊維束を1%水酸化ナトリウム溶液1Lに浸漬し、30°Cで5分間攪拌することによりアルカリ抽出処理を行った。 その後、植物繊維束を取り出して水洗し、再度前記容器5に収容して同上の酵素的分解処理を2時間継続させ、更に同上のアルカリ抽出処理を行った。 2度目のアルカリ抽出処理の終了後、植物繊維束を取り出して、10mM塩酸1L中に移し、30°Cで30分間の中和反応を行い、水洗、乾燥した。 【0061】 上記とは別に、前記未漂白の短尺植物繊維束それぞれ10gに対して、アルカリ抽出処理における水酸化ナトリウム濃度をそれぞれ0、0.5、1.5、2、2.5、3%に変えた点以外は上記と同様の漂白処理を行った。 【0062】 得られた漂白後の植物繊維束について、前記と同じ方法で、▲1▼白色度、▲2▼引張り強さ、及び▲3▼柔軟性を評価した。 白色度( Brightness (%))の評価結果を図2に、引張り強さ(繊維強度(N))の評価結果を図3に、柔軟性の評価結果を下記の表1に、それぞれ示す。 【0063】 【表1】
これらの評価結果から分かるように、前記した初期評価値に比較して、白色度に関しては、水酸化ナトリウム濃度(NaOH conc.)0.5〜3%の間で肯定的に評価できる漂白作用が示され、水酸化ナトリウム濃度1〜2.5%の間で特に高い漂白作用が示された。 繊維強度に関しては、水酸化ナトリウム濃度0〜2.5%の間で繊維強度が肯定的に評価できる程度に維持され、水酸化ナトリウム濃度0〜1.5%の間で繊維強度が特に良好に維持された。 柔軟性に関しては、水酸化ナトリウム濃度0〜2%の間で肯定的に評価できる柔軟性を示し、水酸化ナトリウム濃度0〜1.5%の間で特に良好な柔軟性が示された。 【0064】
従って、アルカリ抽出処理を上記の温度で行う場合、その水酸化ナトリウム濃度は0.5〜2%の範囲、とりわけ1〜1.5%の範囲が好ましい。
【0065】
(実施例2)
上記の未漂白の短尺植物繊維束それぞれ10gに対して、以下の2点を除いて実施例1と同様の漂白処理を行った。 実施例1との第1の相違点は、アルカリ抽出処理時の温度をそれぞれ20、40、50、60及び70°Cに変えたことであり、第2の相違点は、これらの例における水酸化ナトリウム濃度をいずれも1%に固定したことである。
【0066】
漂白後の植物繊維束について、実施例1と同様の評価を行った。 その内、白色度( Brightness (%))の評価結果を図4に、引張り強さ(繊維強度(N))の評価結果を図5に、柔軟性の評価結果を下記の表2に、それぞれ示す。
【0067】
【表2】
これらの評価結果から分かるように、前記した初期評価値に比較して、白色度に関しては、アルカリ抽出処理時温度20〜70°Cの全ての条件で高い漂白作用が示された。 繊維強度に関しては、アルカリ抽出処理時温度20〜40°Cで繊維強度が肯定的に評価できる程度に維持され、特に20〜30°Cの間で繊維強度が特に良好に維持された。 柔軟性に関しては、アルカリ抽出処理時温度20〜40°Cで肯定的に評価できる柔軟性を示し、特に20〜30°Cの間で良好な柔軟性が示された。
【0068】
従って、アルカリ抽出処理を1%の水酸化ナトリウムを用いて行う場合、そのアルカリ抽出処理時温度は20〜40°C、とりわけ20〜30°Cの範囲が好ましい。
【0069】
(実施例3)
前記未漂白の短尺植物繊維束、及び実施例1、実施例2に係る漂白処理後の短尺植物繊維束の引張り強さ(繊維強度(N))の評価は、いずれも以下の同一の方法で行った。
【0070】
即ち、短尺植物繊維束0.1gを量り取り、その両端からそれぞれ10mmずつ中央側へ寄った部位を糸で結束した後、接着剤でその結束部分から繊維が抜けない状態に固定した。 そしてこの繊維束について、10kNオートグラフ(島津製作所製、AG−I)を用い、短尺植物繊維束の結束部分をチャックして繊維強度(N)を試験した。 試験条件はチャック間が50mm、試験速度は10mm/min. 、測定用ロードセル:1kNである。
【0071】
(実施例4)
上記の漂白処理前の植物繊維束と、上記の漂白処理(アルカリ抽出処理を1%の水酸化ナトリウムを用いて30°Cで行ったもの)後の植物繊維束との染色性を対比評価した。 即ち、それぞれ60mLの蒸留水を収容した2個のビーカーを恒温槽内で70°Cに維持し、一方のビーカーには濃黄染色用の染料(ダイロンカラー製)を0.3gと塩化ナトリウムを0.9g、他方のビーカーには淡黄染色用の染料(ダイロンカラー製)を0.3gと塩化ナトリウムを0.9g、それぞれ加えて溶解させた。
【0072】
これらのビーカーの各々に、漂白処理前の植物繊維束と、漂白処理後の植物繊維束とをそれぞれ乾燥重量で3gずつ識別可能なように投入し、70°Cのまま30分間放置した。 その後、恒温槽からビーカーを取り出して室温で30分間放冷し、次いでビーカーから植物繊維束を取り出して水洗し、風乾した。
【0073】
これらの植物繊維束について、ISO7724に準じた方法により、明度(%)の測定によって染色性を評価した。 その測定結果を図6に示すが、淡黄染色においては、漂白後及び漂白前の植物繊維束の明度はそれぞれ68.6%、50.4%であり、濃黄染色においては、漂白後及び漂白前の植物繊維束の明度はそれぞれ61.4%、46.2%であった。 又、染めムラも外観評価したが、漂白前の植物繊維束ではある程度の染めムラが認められ、漂白後の植物繊維束ではムラなく均一に染色されていた。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で用いた漂白装置を簡略化して示す図である。
【図2】実施例1における白色度評価の結果を示す図である。
【図3】実施例1における繊維強度評価の結果を示す図である。
【図4】実施例2における白色度評価の結果を示す図である。
【図5】実施例2における繊維強度評価の結果を示す図である。
【図6】実施例4における明度評価の結果を示す図である。
【符号の説明】
1,5,8 容器2,4,7 ガラス管3 反応カラム6 攪拌装置
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