【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、セメントの硬化を遅延させる上で有用なセメント硬化遅延剤およびその製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】セメント硬化遅延剤は、セメントの水和反応、ひいてはモルタルやコンクリートの凝結、硬化を遅延させるために用いられるセメント混和剤の一種である。 特開平1−172250号公報にも記載されているように、従来のセメント硬化遅延剤は、無機系および有機系の2種類に大別され、無機系硬化遅延剤としては、 酸化鉛、酸化ホウ素、ホウ砂、塩化亜鉛、酸化亜鉛、珪フッ化マグネシウムなどが使用され、有機系硬化遅延剤としては、砂糖、オキシカルボン酸塩、リグニンスルホン酸塩、グルコン酸やその塩、ピルビン酸、α−ケトグルタル酸などのケト酸などが使用されている。 そして、 これらの硬化遅延剤の使用目的は、夏期における生コンクリートの長時間輸送への対処、大型化したコンクリート構造物における温度応力の緩和などである。 【0003】一方、コンクリート成形品および各種構造物の表面には、左官技術の1つであるいわゆる洗い出し工法を利用して装飾を施すことがしばしば行われている。 この洗い出し工法は、セメントが硬化する直前に水洗することによりコンクリート表面層のモルタルを洗い流し、骨材の一部を露出させる方法である。 この方法は、洗い出しを行うタイミングがコンクリートの硬化速度との関係で時間的に極めて狭い範囲に限定されるので、コンクリート平板の多量生産や大型構造物への適用は困難である。 コンクリート混和物の一種であるセメント硬化遅延剤を利用して、コンクリート表面層のみの硬化を阻害すると、洗い出しのタイミングに拘りなく、コンクリート製品の表面を装飾できる。 具体的には、例えば、硬化遅延剤を紙に含浸させ、含浸紙を型枠の底に貼付けなどにより固定し、生コンクリートを打設する。 コンクリートの硬化の後、成形品を型枠から離脱させ、前記含浸紙と接触した表面部の未硬化のモルタルを洗い流すことにより、骨材を露出させ、自然な風合いを有するコンクリート製品が得られる。 【0004】しかし、前記セメント硬化遅延剤は、元来セメント(以下、特に言及しない限り「コンクリート」 「モルタル」も含む意味に用いる)に混入するためのものであり、水に対して高い溶解性を具備している。 このようなセメント硬化遅延剤を前記洗い出し工法に応用した場合には、生コンクリートの打設とともに硬化遅延剤がコンクリートの中の水分に溶解し、型枠内または構築物表面においてコンクリートからのブリード水と共に流動する。 そのため、洗い出しを必要としない個所にまで硬化遅延剤が流動したり、場合によっては硬化遅延剤が局所的に集中する一方、洗い出しを必要とする個所では硬化遅延剤が流出し、硬化遅延剤の機能を有効に発現できない。 特にコンクリート成形品や構造物表面に文字、 図柄などの装飾を洗い出し工法により施す場合には、硬化遅延剤の効果発現部位を決定することが非常に困難である。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、水分による溶出を抑制できるとともに、高い硬化遅延能を有効に発現できるセメント硬化遅延剤およびその製造方法を提供することにある。 本発明の他の目的は、 洗い出し工法によりコンクリート製品の表面に装飾模様を精度よく形成できるセメント硬化遅延剤およびその製造方法を提供することにある。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討の結果、硬化遅延剤を加水分解性又はアルカリ可溶性高分子内に封入すると、水に対する硬化遅延剤の溶出を防止できるとともに硬化遅延機能を殆ど喪失させることができる一方、セメントモルタルと接触すると、セメントモルタルの強いアルカリ性により前記高分子が加水分解又は溶解し、セメントの硬化の進行と共に内部の硬化遅延剤が浸出又は溶出することを見いだし、本発明を完成した。 すなわち、本発明のセメント硬化遅延剤は、セメント硬化遅延能を有する成分(以下、単に硬化遅延成分という場合がある)と、このセメント硬化遅延成分を封入するためのアルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子とで構成されている。 セメント硬化遅延成分には、オキシカルボン酸又はその塩などの低分子量の硬化遅延成分の他、飽和ポリエステル、不飽和ポリエステル又はその硬化物、リグニン又は変性物などが含まれる。 前記高分子は飽和又は不飽和ポリエステルであってもよく、不飽和ポリエステルは架橋硬化物であってもよい。 また、前記高分子は、少くとも(メタ)アクリル酸又はその塩を単量体とする単独又は共重合体であってもよい。 硬化遅延成分の封入形態には、前記高分子内での硬化遅延成分の分散、前記高分子による硬化遅延成分の被覆などが含まれる。 硬化遅延剤の形態は粉粒体やフィルム又はシートであってもよい。 粉粒体は、(1)アルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子で構成されたマトリックス内にセメント硬化遅延能を有する成分が分散した粉粒体、又は(2)セメント硬化遅延能を有する成分で構成された粉粒体がアルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子で被覆された粉粒体であってもよく、フィルム又はシートは、(1)アルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子で構成されたマトリックス内にセメント硬化遅延能を有する成分が分散したフィルム又はシート、又は(2)基材シート上にセメント硬化遅延能を有する成分を含む硬化遅延層が形成され、この硬化遅延層がアルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子で被覆されているフィルム又はシートであってもよい。 セメント硬化遅延剤は、被覆又は分散により、硬化遅延成分を、アルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子内に封入させることにより調製できる。 なお、本明細書において、「封入」とは硬化遅延成分が、少くともアルカリ可溶性又は加水分解性高分子を含む組成物内に包含され、硬化遅延成分の溶出が抑制されていることを意味し、全ての硬化遅延成分が組成物内に完全に封入されている必要はない。 【0007】 【発明の実施の形態】本発明のセメント硬化遅延剤は固体状であり、(1)セメント硬化遅延能を有する成分と(2)アルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子とで構成され、硬化遅延成分が前記高分子内に封入された構造を有する。 [硬化遅延成分]前記硬化遅延成分は、比較的分子量の低い低分子量化合物、オリゴマー領域の分子量を含む高分子量化合物のいずれであってもよい。 低分子量化合物と高分子量化合物は組合せて使用してもよい。 低分子量の硬化遅延成分のうち有機化合物としては、例えば、ホスホン基PO 3 H 2を有するホスホン酸化合物[例えば、アミノジ(メチレンホスホン酸)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチリデン−1, 1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)又はそれらの塩(アンモニア、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属との塩)など]、非ホスホン酸化合物[例えば、オキシカルボン酸又はその塩(グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、 クエン酸、グルコン酸、オキシマロン酸、粘液酸、ヒドロキシプロパン酸など);アスコルビン酸、イソアスコルビン酸など;ケトカルボン酸(ピルビン酸、ケトグルタル酸など);糖[スクロース,サッカロース(しょ糖)、グルコース(ぶどう糖)などの多糖類やコーンシロップなどの糖類];多価アルコール(ピロガロール、 没食子酸、2,4,6−トリヒドロキシ安息香酸など);多価カルボン酸又はその塩(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、ブタン酸などの飽和多価カルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和多価カルボン酸、グルコヘプタノン酸など)が挙げられる。 低分子量の硬化遅延成分のうち無機化合物としては、例えば、リン酸又はその塩、酸化鉛、酸化ホウ素、ホウ酸又はその塩(ホウ砂など)、酸化亜鉛、塩化亜鉛、ケイフッ化マグネシウム、ヘキサフルオロケイ酸塩などが挙げられる。 これらの低分子量化合物は単独で又は二種以上混合して使用できる。 低分子量硬化遅延剤のうち、ホスホン酸化合物、オキシカルボン酸又はその塩、ケトカルボン酸、糖、多価アルコール、多価カルボン酸又はその塩、リン酸塩、酸化鉛、酸化ホウ素、ホウ酸塩(ホウ砂など)、酸化亜鉛、塩化亜鉛、ケイフッ化マグネシウム、ヘキサフルオロケイ酸塩からなる群から選択された少なくとも1つの成分が好ましい。 【0008】高分子量の硬化遅延成分としては、飽和ポリエステル、不飽和ポリエステル又はその硬化物、カルボキシル基又は酸無水物基を有するモノマーの単独又は共重合体若しくはそれらの塩[スチレン−マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレンスルホン酸−アクリル酸コポリマーなど];リグニン又は変性物[リグニンスルホン酸又はリグノスルホネート(例えば、リグノスルホン酸カルシウムなど)など]などが挙げられる。 これらの高分子量の硬化遅延成分も単独で又は二種以上混合して使用できる。 なお、高分子量の硬化遅延成分が、硬化遅延成分を封入するためのアルカリ可溶性又は加水分解性高分子と、化学構造などにおいて同系統の化合物であったとしても、硬化遅延性能の有無や差異において異なる限り、高分子量の硬化遅延成分は、 硬化遅延成分を封入するためのアルカリ可溶性又は加水分解性高分子とは異なる成分として使用される。 このような観点から、前記例示の高分子量の硬化遅延成分のうち、分子中に2価の金属イオンに対してキレートを構成し得るアニオン性基(好ましくはカルボキシル基)と親水性基(好ましくはグリコール又はポリオキシエチレングリコールなどのポリグリコール若しくはそれらのモノエーテル残基を有するグリコール)とを有する高分子や、アルカリによる加水分解に伴って前記アニオン性基と親水性基とを生成する高分子が好ましい。 より具体的には、マレイン酸,フマル酸などのジカルボン酸とエチレングリコール,プロピレングリコールなどのジオールとのエステル化により生成する不飽和ポリエステルと、 2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートやポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの親水性基含有モノマーとの架橋硬化物、マレイン酸,フマル酸などのジカルボン酸と2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートやポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの親水性基を有する重合性モノヒドロキシ化合物とのエステルの単独重合体又は他の共重合性化合物との共重合体などが例示される。 好ましい高分子量の硬化遅延成分には、飽和ポリエステル、不飽和ポリエステル又はその硬化物、リグニン又は変性物から選択された少くとも一種が含まれる。 なお、飽和ポリエステルおよび不飽和ポリエステルの詳細については、後述する。 【0009】硬化遅延成分は、例えば、セメントに対して0.1重量%の硬化遅延成分を添加したとき、未添加のセメントモルタルに対して、硬化時間を1.5倍以上(例えば、1.5〜100倍)、好ましくは1.8倍以上(例えば、2〜100倍程度)遅延させるのが好ましい。 より具体的には、普通ポルトランドセメントと、粗粒率2.35で全体の99重量%が2.5mm篩を通過する細骨材(砂)と、水とを用い、ポルトランドセメントに対する硬化遅延剤の割合0.1重量%、水/セメント比=0.50、砂/セメント比=2.75の割合でホバート型ミキサーにより3分間混練して調製したモルタル組成物について、貯蔵、計量、混練、凝結試験を21 ℃の恒温室で行ったとき、ASTM C403に準じるモルタル凝結試験において、セメントに対して0.1重量%の硬化遅延剤を添加したモルタルの凝結始発時間T 1 は、硬化遅延剤を添加していないモルタルの凝結始発時間T0 に対して、1.5倍以上(T=T1 /T0 ≧ 1.5)、好ましくは1.8倍以上(T≧1.8)である。 これらの硬化遅延成分は、通常、室温において粉粒体の形態で固体である。 【0010】[アルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子]前記高分子はアルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性を有していればよい。 アルカリ可溶性高分子アルカリ可溶性高分子としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基を有する高分子が含まれる。 アルカリ可溶性高分子としては、例えば、カルボキシメチルセルロース又はその塩、アルギン酸又はその塩、スルホイソフタル酸又はその塩などをジカルボン酸成分とする水溶性ポリエステル樹脂、カルボキシル基又はその塩を有するアクリル系樹脂又はスチレン系樹脂などが挙げられる。 【0011】好ましいアルカリ可溶性高分子としては、 例えば、カルボキシル基又は酸無水物基を有する単量体の単独又は共重合体、これらのカルボキシル基又は酸無水物基を有する単量体と共重合性単量体との共重合体、 若しくはそれらの塩が好ましい。 カルボキシル基又は酸無水物基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸などの不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸などが例示できる。 これらの単量体は単独で又は二種以上使用できる。 共重合性単量体としては、例えば、アクリル系単量体[例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、 (メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸C 1-18アルキルエステル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなど]、アリルエーテル単量体、芳香族ビニル単量体[スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなど]、ビニルエステル単量体[酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど]、ビニルエーテル単量体[メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテルなど]などが例示できる。 アルカリ可溶性高分子の塩としては、例えば、無機塩基[アンモニア、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属など]、有機塩基[メチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、モルホリンなど]との塩が例示できる。 【0012】カルボキシル基又は酸無水物基を有する単量体の使用量は、単量体全体の5〜100重量%、好ましくは10〜80重量%、特に15〜50重量%程度の範囲から選択できる。 アルカリ可溶性高分子の酸価は特に制限されないが、カルボキシル基又は酸無水物基を有する単量体と他の共重合性単量体との共重合体では、通常、例えば、20〜300mgKOH/g、好ましくは50〜250mgKOH/g程度であってもよい。 【0013】アルカリ可溶性高分子の具体例としては、 例えば、スチレン−マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、ビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体などが例示できる。 好ましいアルカリ可溶性高分子には、少くとも(メタ)アクリル酸又はその塩を単量体とする単独又は共重合体(特にアクリル系樹脂やスチレン系樹脂)が含まれる。 【0014】 アルカリ加水分解性高分子加水分解性高分子としては、飽和又は不飽和ポリエステルが含まれ、前記不飽和ポリエステルは、不飽和ポリエステルが架橋硬化物であってもよい。 ポリエステル樹脂は、グリコール成分とジカルボン酸成分とを主成分とする反応成分を脱水縮合反応に供することにより得ることができ、不飽和ポリエステル樹脂は前記ジカルボン酸成分として少くとも無水マレイン酸(又はマレイン酸)を用いることにより調製できる。 【0015】グリコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、テトラメチレングリコール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどのC 2-6アルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、 ポリエチレングリコール(以下、特に言及しない限り、 これらを単にポリエチレングリコールと総称する)、ジプロピレングリコール、トリプロピレンクセリコール、 ポリプロピレングリコール(以下、特に言及しない限り、これらを単にポリプロピレングリコールと総称する)、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコールなどが挙げられる。 これらのグリコール成分は単独で使用してもよく組合せて使用してもよい。 【0016】ジカルボン酸成分としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、 アゼライン酸、セバシン酸などの炭素数2〜10程度の脂肪族飽和ジカルボン酸;マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸などの炭素数4〜 6程度の脂肪族不飽和ジカルボン酸、フタル酸、無水フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸などが含まれる。 これらの多価カルボン酸は単独で又は2種以上組合せて使用できる。 【0017】飽和又は不飽和ポリエステル樹脂は、強度、伸度、可撓性、柔軟性、耐性などの特性を調整するため、前記グリコール成分及びジカルボン酸成分以外の成分により改質されていてもよい。 例えば、前記グリコール成分及びジカルボン酸成分の少なくとも一方の成分の一部に代えて、多価アルコール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなど)、多価カルボン酸(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸など)などを共重合することができる。 フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸又はこれらの誘導体から選択された芳香族ジカルボン酸又はその誘導体を含む多価カルボン酸成分は、ポリエステルの強度、伸度、 可撓性、柔軟性、耐水性などの特性を調整するのに有用である。 【0018】飽和又は不飽和ポリエステル樹脂の分子量は特に制限されないが、例えば、重量平均分子量300 〜25000、好ましくは500〜15000程度である。 【0019】不飽和ポリエステル樹脂の架橋硬化物は、 不飽和ポリエステル樹脂単独、又は不飽和ポリエステル樹脂および反応性希釈剤の重合性組成物を有機過酸化物などの重合開始剤により重合して硬化させることにより得ることができる。 反応性希釈剤としては、重合性ビニルモノマー、例えば、スチレンなどのスチレン系モノマー、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどのアルキル基の炭素数1〜10程度のアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレートなどの官能基を有するモノマーなどが挙げられる。 これらの反応性希釈剤は一種又は二種以上使用できる。 なお、反応性希釈剤の使用量は、所望する特性に応じて選択でき、例えば、樹脂100重量部に対して、10〜500重量部、好ましくは25〜200重量部程度である。 【0020】有機過酸化物としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシベンゾエード、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジクミルパーオキシドなどが挙げられる。 不飽和ポリエステル樹脂の硬化は、常温でも可能であるが、短時間(例えば、0.5〜50分程度)で硬化させるためには、温度60〜200℃程度で行なうのが有利である。 硬化を促進するため、必要に応じて、硬化促進剤、例えば、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルトなどのコバルトの有機酸塩、アセチルアセトン、アセト酢酸エチルなどのβ−ジケトン類、芳香族3級アミン類、メルカプト化合物などを併用してもよい。 【0021】アルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子の割合は、所望する硬化遅延度や硬化遅延成分の封入形態に応じて選択でき、例えば、硬化遅延成分100 重量部に対して1〜5000重量部、好ましくは10〜 1000重量部、さらに好ましくは20〜500重量部程度の範囲から選択できる。 【0022】[硬化遅延成分の封入形態]本発明のセメント硬化遅延剤では、アルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子内に硬化遅延成分が封入された構造を有していればよく、封入の形態は、分散や被覆のいずれであってもよい。 例えば、(1)硬化遅延成分が、前記高分子で構成されたマトリックス内に分散して封入された分散形態、(2)硬化遅延成分で構成された粉粒体又は硬化遅延層がアルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子で被覆されている被覆形態であってもよい。 前記分散形態(1)において、マトリックスは、アルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子単独で構成してもよく、 アルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子と他の高分子との樹脂組成物で構成してもよい。 さらに、前記被覆形態(2)において、粉粒体や硬化遅延層は、硬化遅延成分単独で形成してもよく、硬化遅延成分とバインダー樹脂とで形成してもよい。 また、硬化遅延層を形成するためのバインダー樹脂は、前記アルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子であってもよい。 【0023】前記分散形態(1)における他の高分子、 および前記被覆形態(2)におけるバインダー樹脂としては、被膜成形性樹脂、例えば、熱可塑性樹脂[例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−ジメチロール−シクロヘキサンテレフタレート)などのポリエステル;ナイロン46、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、 ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12などのポリアミド;ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル(E VA)共重合体、酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル共重合体(VA−VeoVa)などのビニルエステル系樹脂; ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのビニルエステル系樹脂のケン化物;エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体、ポリクロロプレン、塩素化ポリプロピレンなどのハロゲン含有ポリマー;アクリル樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系ポリマー;ポリスチレン、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン−ブタジエン共重合体(SB樹脂)、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体(AB S樹脂)などのスチレン系ポリマー;ポリカーボネート;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、酢酸セルロース、アセチルブチルセルロース、ニトロセルロースなどのセルロース系ポリマー;天然ゴム、塩化ゴム、塩酸ゴム、ブタジエンゴム、 イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエンゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴムなどのエラストマー;天然高分子など]、熱硬化性樹脂[例えば、熱硬化性アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂など]が例示できる。 これらの樹脂は一種又は二種以上使用できる。 マトリックスを構成する他の高分子の割合は、アルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子100重量部に対して、0〜1000重量部、好ましくは0〜700重量部、さらに好ましくは0〜500重量部程度の範囲から選択できる。 粉粒体や硬化遅延層を構成するバインダー樹脂の割合は、硬化遅延成分100重量部に対して、0 〜5000重量部(例えば、0〜500重量部)、好ましくは0〜2500重量部(例えば、0〜250重量部)、さらに好ましくは0〜1000重量部(例えば、 0〜100重量部)程度の範囲から選択できる。 前記硬化遅延成分で構成された粉粒体の粒径は特に制限されず、例えば、平均粒径0.1μm〜5mm、好ましくは1μm〜3mm、特に5μm〜1mm程度の範囲から選択できる。 本発明のセメント硬化遅延剤は、種々の添加剤、例えば、顔料、染料などの着色剤、紫外線吸収剤、 酸化防止剤などの安定剤、可塑剤、消泡剤、乳化剤、充填剤などを含んでいてもよい。 本発明のセメント硬化遅延剤は、アルカリ可溶性又は加水分解性高分子により封入されているため、水溶性の高い硬化遅延成分を用いても、水による溶出を防止できる。 しかも、モルタルとの接触により、高分子が溶解又は加水分解するので、硬化遅延成分の高い硬化遅延能を有効かつ長時間に亘り維持できる。 特に、硬化遅延成分として加水分解などにより硬化遅延能が発現する不飽和ポリエステルなどを利用すると、硬化遅延能を長期間に亘り持続できる。 そのため、本発明のセメント硬化遅延剤は、洗い出しにより所望のパターンを精度よく形成する上で有用であるものの、従来の硬化遅延剤と同様の用途、例えば、夏期における生コンクリートの長期間に亘る硬化の抑制、大型コンクリート構造物における温度による応力の緩和などのために、モルタルやコンクリートに添加してもよい。 【0024】[セメント硬化遅延剤の形態]本発明のセメント硬化遅延剤の形態は、(a)粉粒体に限らず、 (b)フィルムやシート(以下、単に硬化遅延シートと称する場合がある)であってもよい。 粉粒体(a)は、 (a1)分散形態の硬化遅延剤で形成された粉粒体であってもよく、前記硬化遅延成分の粉粒体がアルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子で被覆された被覆形態の粉粒体(a2)であってもよい。 粉粒体(a)の形状は特に制限されず、例えば、無定形、球形、楕円形、ロッド状などのいずれであってもよい。 粉粒体(a)の粒径は、例えば、平均粒径1μm〜10mm、好ましくは5 μm〜30mm、特に10μm〜10mm程度の範囲から選択できる。 硬化遅延シート(b)は、少くとも一方の表面に前記封入された硬化遅延成分を備えていればよく、例えば、(b1)前記分散形態の硬化遅延剤で形成されたフィルム又はシート、(b2)基材フィルム又はシートに形成され、かつ硬化遅延成分を含む硬化遅延層と、 この硬化遅延層を被覆するアルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子とで構成されたシートであってもよい。 前者(b1)におけるマトリックス樹脂、後者(b2) におけるアルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子として皮膜形成能を有する樹脂を用いるのが有利である。 【0025】さらに、前記形態(a1)(a2)(b1)および(b2)において、アルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子は、架橋硬化した不飽和ポリエステルなどのように硬化していてもよい。 【0026】硬化遅延シートは、シートへの粘着剤又は接着剤(以下、単に粘着剤という)の混入、粘着剤の塗布や、アルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子で構成された被覆層への粘着剤の混入などにより、粘着性又は接着性が付与されたシートであってもよい。 さらに、粘着性は、アルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子の構成単量体の選択(特にアクリル酸C 2-8アルキルエステルの選択)やアルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子(例えば、不飽和ポリエステル)と軟質単量体(特にアクリル酸C 2-8アルキルエステル)との共重合により付与してもよい。 粘着剤により粘着性が付与された硬化遅延シートを利用すると、表面に模様、図形や洗い出し面が形成され、装飾材と一体に固着したコンクリート製品を製造する上で有用である。 すなわち、 粘着面を上面にしてシートを型枠内に敷設し、粘着面に石、タイルなどの複数の化粧材の表面側を粘着により配置し、化粧材を位置決め固定する。 次いで、無機硬化性組成物を型枠内に打設し、養生などの慣用の硬化方法により硬化させ、硬化した成形品を型枠から取出す。 そして、化粧材の表面側(シートとの接触面側)を水、加圧水、ジェット流などにより洗浄することにより、化粧材に付着した未硬化の組成物を容易に除去でき、粘着剤を除去することにより、清浄化された表化粧材が貼り合せられたコンクリート製品(化粧仕上げブロック、プレキャストコンクリート板など)を得ることができる。 なお、化粧材をシートの粘着面に粘着させない場合には、 前記洗い出しにより骨材が露出し模様又は洗い出し面を形成できる。 【0027】さらに、粘着性が付与された硬化遅延シートを用いる場合、型枠内で装飾材を配置することなく、 予め粘着面に装飾材を配置又は配列させたキットシートを型枠内に配設してもよい。 例えば、粘着面に、複数の装飾材としてのタイルを面方向に連続して又は散在して貼着することにより、ユニットタイルを形成できる。 複数のタイルは、面方向(例えば、縦方向,横方向や縦横方向)に互いに隣接(連続)して又は間隔をおいて配列する場合が多い。 このような装飾材キットシートを用いると、個別に型枠内で装飾材を配置する必要がなく、別の工程で作製された装飾材キットシートを型枠内に配設するだけでよく、作業効率を高めることができる。 装飾材としては、種々の材料、例えば、玉石、黒石、鉄平石などの天然石、人造石などの石材、タイルなどのセラミックス材、金属材、ガラス材、木材、織布などが使用できる。 装飾材は平板状であってもよく、タイルは通常のタイルの他、モザイクタイルや割りタイルであってもよい。 また、コンクリート製品の製造に際して、必要に応じて、型枠内に鉄筋などの補強材を配設して無機硬化性組成物を打設してもよい。 【0028】前記ユニットタイルなどの装飾材キットフイルムは、プレキャストコンクリート板などの化粧仕上げコンクリート製品の製造に有用である。 すなわち、前記タイルなどの装飾材の裏面を上にして装飾材キットシートを、コンクリート打設用型枠に配置し、コンクリートを打設して養生した後、脱型し、粘着性シートを除去することにより、装飾材表面を露出させ、装飾材の表面を水洗することにより、装飾材表面に回り込んだ非硬化状態の無機硬化性組成物(セメントなど)を洗い流すことにより、装飾材と一体化したプレキャストコンクリート板を製造できる。 すなわち、タイルなどの装飾材の表面側に無機硬化性組成物が回り込んでも、硬化遅延剤により無機硬化性組成物の硬化を抑制でき、非硬化(半硬化又は未硬化)状態となるため、装飾材の表面から無機硬化性組成物を除去するための表面仕上げを、水洗などの洗浄という簡単な操作で効率よく、しかも完璧に行なうことができる。 【0029】前記硬化遅延シートにおいて、硬化遅延成分を含む硬化遅延層は基材シートから剥離可能であってもよい。 基材シートから硬化遅延層が剥離可能である場合には、硬化遅延層のうち所望する模様などに対応させて所定の部位又は領域をカッティングして基材シートから剥離し、シートを型枠内に配設し、無機硬化性組成物(モルタル組成物など)を打設し、養生硬化したコンクリート製品のうち前記シートとの接触面を洗い出すことにより、コンクリート製品の表面のうち非カッティング部に対応する部位に模様、図形パターンや骨材などが露出した洗い出し面を形成できる。 硬化遅延層を剥離可能とするため、基材シートの表面は未処理であってもよく、例えば、ワックス、高級脂肪酸アミド、シリコーンオイルなどの離型剤で処理してもよい。 基材シートの表面張力は、硬化遅延層の接着強度と関連付けて、硬化遅延層の剥離性を損わない範囲で相対的に選択できる。 基材シートの表面張力は、例えば、38dyn/cm以下、好ましくは20〜38dyn/cm、さらに好ましくは25〜36dyn/cm程度である場合が多い。 【0030】[製造方法]本発明のセメント硬化遅延剤は、硬化遅延成分の封入形態および硬化遅延剤の形態に応じて、被覆又は分散により、硬化遅延成分を、アルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子内に封入させることにより得ることができる。 例えば、(1)分散形態のセメント硬化遅延剤は、混合機や混練機などの慣用の装置を用い、硬化遅延成分とアルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子と必要により他の高分子とを混合又は混練することにより調製できる。 混合に際しては必要により水や有機溶媒を用いてもよく、混練においては前記成分を溶融混練してもよい。 (2)被覆形態のセメント硬化遅延剤は、コーティング装置を用い、硬化遅延成分と必要によりバインダー樹脂で構成された粉粒体又は硬化遅延層を、アルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子で被覆することにより調製できる。 また、被覆形態の粉粒体は、例えば、流動層コーティングやマイクロカプセル化などの慣用の方法で調製できる。 【0031】また、粉粒体の形態のセメント硬化遅延剤(a)は、前記粉粒体の被覆に限らず、分散形態のセメント硬化遅延剤の粉砕、分級などによっても得ることができる。 さらに、硬化遅延シート(b)のうち、前記分散形態の硬化遅延剤で形成された硬化遅延シート(b1) は、硬化遅延成分,アルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子,および必要により他の高分子とで構成された樹脂組成物を、慣用の成形法、例えば、押出し成形法、流延法、カレンダー法などでフィルム又はシート成形することにより調製できる。 また、硬化遅延層が被覆された硬化遅延シート(b2)は、硬化遅延成分,および必要によりバインダー樹脂を含む組成物を基材シートに塗布又は含浸させ、形成された硬化遅延層を、アルカリ可溶性又はアルカリ加水分解性高分子を含む組成物でコーティングし、被覆層を形成することにより調製できる。 この方法において、塗布、含浸やコーティングには、加熱溶融した組成物を用いてもよく、水又は有機溶媒を含む組成物を用いてもよい。 有機溶媒としては、例えば、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、及びこれらの混合溶媒などが例示できる。 なお、硬化遅延成分を含む組成物は、基材シートの少なくとも一方の面に塗布すればよく、塗布層は基材シートの全面に形成してもよく、部分的(例えば、規則的パターン又は不規則パターンとして)に形成してもよい。 【0032】前記基材シートには、例えば、プラスチックシートや金属箔などの無孔性シート、紙、織布や不織布などの多孔性シートが含まれる。 基材シートのうち好ましい無孔性シートとしてはプラスチックシートが含まれ、多孔性シートとしては不織布などが含まれる。 基材シートを構成するポリマーは特に制限されず、例えば、 ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル(特にポリアルキレンテレフタレート);エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体;アクリル樹脂;ポリスチレン;ポリ塩化ビニル;ポリアミド;ポリカーボネート; ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などが例示される。 これらのポリマーは一種又は二種以上使用できる。 好ましい基材シートには、プラスチックシートや不織布などが含まれる。 基材シートは、 単一層のシートであってもよく複数の層が積層された複合シート、例えば、ポリエチレン製繊維などの繊維を織ったクロスの片面又は両面に、前記ポリエチレンなどのシートを積層した積層シートなどであってもよい。 また、プラスチックシートなどの基材シートは、未延伸シートであってもよく、一軸又は二軸延伸シートであってもよい。 さらに、密着性を高めるため、基材シートの表面は、火炎処理、コロナ放電処理、プラズマ処理などにより表面処理されていてもよい。 表面処理された基材シートの表面張力は、約40dyn/cm以上である場合が多い。 前記基材シートの厚みは、作業性、機械的強度などを損わない範囲で選択でき、例えば、15〜500 μm、好ましくは20〜400μm、さらに好ましくは30〜300μm程度であり、50〜300μm程度である場合が多い。 【0033】硬化遅延シートは、適宜裁断して表面装飾用シートとして使用してもよい。 例えば、コンクリート製品の洗いだし部位に対応する型枠の内壁又は底壁の部位に、裁断した硬化遅延シートを貼付などにより固定し、コンクリートを打設し、コンクリートが硬化した後、脱型し、貼付部位に対応するコンクリート製品の表面の未硬化モルタルを洗い流すことにより、化粧仕上げコンクリート製品を得ることができる。 また、硬化遅延成分が被覆された形態で基材シートに保持されているので、コンクリートを打設しても硬化遅延成分の移動を抑制できるとともに、ブリード水により流動することもない。 そのため、コンクリート成形品又は建築物のうち、 所望の表面部位に文字、図柄などの装飾パターンを精度よく明確に施すことができる。 【0034】本発明のセメント硬化遅延剤は、種々のセメント、例えば、気硬性セメント(セッコウ、消石灰やドロマイトプラスターなどの石灰);水硬性セメント(例えば、ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、アルミナセメント、急硬高強度セメント、焼きセッコウなどの自硬性セメント;石灰スラグセメント、 高炉セメントなど;混合セメント)などの硬化抑制に適用できる。 好ましいセメントには、例えば、セッコウ、 ドロマイトプラスターおよび水硬性セメントなどが含まれる。 前記セメントは、水とのペースト組成物(セメントペースト)として使用してもよく、砂、ケイ砂、パーライトなどの細骨材、粗骨材を含むモルタル組成物やコンクリート組成物として使用してもよい。 前記ペースト組成物及びモルタル組成物は、必要に応じて、着色剤、 硬化剤、塩化カルシウムなどの硬化促進剤、ナフタレンスルホン酸ナトリウムなどの減水剤、凝固剤、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコールなどの増粘剤、発泡剤、合成樹脂エマルジョンなどの防水剤、可塑剤などの種々の添加剤を含んでいてもよい。 【0035】本発明のセメント硬化遅延剤は、種々のコンクリート製品、例えば、カーテンウォール、壁材などのコンクリートパネル、コンクリートブロックなどの製造、特に化粧仕上げコンクリート製品(例えば、プレキャストコンクリート板)の製造に有用である。 【0036】 【発明の効果】本発明のセメント硬化遅延剤は、硬化遅延成分が特定の高分子で封入されているので、水分による硬化遅延成分の溶出を抑制でき、前記高分子の溶解又は加水分解により硬化遅延成分の高い硬化遅延能を有効に発現できる。 また、硬化遅延成分の流出を抑制できるので、洗い出し工法によりコンクリート製品の表面に装飾模様を精度よく形成できる。 【0037】 【実施例】以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。 実施例1 撹拌翼を備えたオートクレーブ(容量10リットル) に、無水マレイン酸(2396g)とプロピレングリコール(2543g)およびチタン酸テトラ−n−ブチル(2.3g)を入れた。 窒素気流下、内容物を撹拌し反応により生成する水を系外に追い出しながら、徐々に1 20℃に昇温し、2時間撹拌した後、200℃に昇温し、7時間撹拌することにより、数平均分子量約500 の不飽和ポリエステルを得た。 得られた不飽和ポリエステル(3000g)に、スチレンモノマー(450 g)、硬化剤としての有機過酸化物(70g)(日本油脂(株)製、商品名パーブチルO)、促進剤としてのナフテン酸コバルト7gを添加し重合性組成物を得た。 顆粒状のDL−リンゴ酸(平均粒径200μm)100重量部を110℃に加熱した流動層コーティング装置に入れ、流動させながら、常温の前記重合性組成物8重量部を3分間に亘り噴霧した。 さらに、7分間加熱を加えることにより、DL−リンゴ酸の表面に加水分解性重合体が形成された粉粒体(平均粒径300μm)が得られた。 そして、型枠にモルタル(ポルトランドセメント/ 砂/水=100/200/55(重量比))を流し込んだ後、モルタルの表面の5cm×20cmの範囲に上記粉粒体を散布した。 室温で1日放置した後、モルタルの表面を水洗により洗いだしたところ、上記散布範囲に洗いだし深度4.7mmのほぼ均一な洗い出し面が得られた。 【0038】実施例2 無水マレイン酸(159.7g)とプロピレングリコール(169.6g)およびチタン酸テトラ−n−ブチル(160mg)を反応容器に仕込、窒素気流下徐々に2 00℃に昇温し、生成する水を反応系外に除去しつつ7 時間撹拌することにより、数平均分子量約500の不飽和ポリエステルを得た。 この不飽和ポリエステル(50 g)に、スチレン(20g)、硬化剤としての有機過酸化物(1.7g)(日本油脂(株)製、商品名パーブチルO)、促進剤としてのナフテン酸コバルト(1.7 g)を添加し、重合性組成物を得た。 この重合性組成物(10g)に粉末リンゴ酸(平均粒径10μm)(4 g)を添加した塗布液を、バーコーターを用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に厚さ60μmになるように塗布し、80℃で30分間加熱して塗布層を硬化した。 その後、硬化した塗布層上に前記不飽和ポリエステルを厚さが20μmになるようにコーティングし、 80℃で30分間加熱し、硬化させることによりフィルムを得た。 得られたフィルムを5cm×20cmの短冊状に切り、塗布層(硬化遅延剤層)を上にしてプラスチック製トレイの底部に貼り付け、実施例1のモルタルを流し込み、室温で1日放置した後、モルタルの表面を水洗により洗い出したところ、正しく上記短冊の位置と形状に対応して洗いだし深度5.1mmの均一な洗い出し面が得られた。 【0039】比較例1 無水マレイン酸(159.7g)とプロピレングリコール(169.6g)およびチタン酸テトラ−n−ブチル(160mg)を反応容器に仕込、窒素気流下徐々に2 00℃に昇温し、生成する水を反応系外に除去しつつ7 時間撹拌することにより、数平均分子量約500の不飽和ポリエステルを得た。 この不飽和ポリエステル(50 g)に、スチレン(35g)、硬化剤としての有機過酸化物(1.7g)(日本油脂(株)製、商品名パーブチルO)、促進剤としてのナフテン酸コバルト(1.7 g)を添加し、重合性組成物を得た。 この重合性組成物を、バーコーターを用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に厚さが60μmになるように塗布し、8 0℃で30分間加熱し硬化させることによりフィルムを得た。 そして、実施例2と同様にして、洗いだし深度を測定したところ、洗いだし深度1.0mmであった。 【0040】比較例2 実施例1と同様にプラスチック製トレーにモルタルを流し込んだ後、この表面に実施例1で用いた顆粒状のDL −リンゴ酸(平均粒径200μm)0.44gを5cm ×20cmの範囲に散布した。 一日室温で放置した後、 水洗により洗い出したところ、顆粒状リンゴ酸の散布範囲では0〜8mmの極めて深度が不均一な洗い出し面が得られ、かつこの洗い出し面は顆粒状リンゴ酸の散布領域の一部から溝状に延び、トレーの側面にまで洗い出し効果が及んだ。 【0041】比較例3 粘着剤が塗布された幅5cmのテープ(ニチバン(株) 製,段ボール梱包用強粘着タイプ)20cmに粉末リンゴ酸(平均粒径10μm)0.17gを均一に散布して十分に固定した。 このテープをプラスチック製トレーの底面に粉末リンゴ酸の散布面を上にして貼付し、その上に実施例2と同様にしてモルタルを打設した。 一日放置した後、モルタル固形物の表面を水洗により洗い出したところ、底面に、上記テープとは全く異なる形状であって、極めて深度が不均一な洗い出し面が現れ、その一部は側面にまで及んでいた。 ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl. 6識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 C08G 63/52 NPD C08G 63/52 NPD // C04B 103:24 |