【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は古紙を原料とするパルプモールド包装材料の包装面のソフト化に関する。 【0002】 【従来の技術】近年、地球環境上の面から、古紙を再利用するパルプモールド包装材料が、注目され、徐々に普及しつゝあるが、従来各種緩衝材及び包装材として使用されてきた発泡スチロール又は、塩化ビニール等の合成樹脂材料と比較すると機能的に劣る点が多く、特に包装材料としてのソフト性に欠ける面が、指摘されており、 被包装製品の細かい擦傷、或いは塗装面の傷付き等の発生が問題とされ、パルプモールド包装材料普及の障害となっている状況にある。 【0003】この対策として、成型、熱乾燥後のパルプモールド成型体をアフタープレス機でプレス加工し、面の凹凸を無くすと同時に、面の繊維間結合を破壊することにより、手触り感を良くする周知の機械的手段の他、 モールド成型体表面へ柔軟剤を内添したパルプスラリーを吹き付けることにより、モールド成型体を多層抄き品とし、吹き付け面をソフト化する提案(特開平6−32 2700号公報)がある。 【0004】しかしながら、この提案はソフト化については、十分考慮しているとはいえ、パルプモールド包装材料としての、強度面についての配慮が無い。 即ち、柔軟剤を内添したパルプスラリーを吹き付ける方法では、 液量が多くなることは避けられず、一方ではパルプ吸引圧着の際にモールド成型体深部への柔軟剤浸透が著しくモールド成型体そのものの強度低下につながる為、用途がかなり限られた包装材料であると言わざるを得ない。 この様に包装材料のソフト化に関しては未だ完全な対策は講じられていない現状にある。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】したがって、本発明は、被包装物が接する包装面がソフトであり、包装材料としての強度の低下を押さえた古紙パルプを用いたパルプモールド包装材料を提供するものである。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、かかる現状に鑑み古紙パルプを用いてなるパルプモールド包装材料の包装面ソフト化に関し、モールド成型体の強度低下を伴わない方法を鋭意検討した。 柔軟剤は、使用法によっては著しい強度低下をもたらす性質の薬剤である為、 特に、添加方法についてはスプレー塗布方式を採用し、 塗布量とソフト化の効果及び、強度低下について、実験を重ねた結果、遂に適切な塗布量を見いだし、さらに塗布方式の妥当性についても確認でき、ソフトな包装面を有し且つ十分な強度を維持するパルプモールド包装材料を完成するに至った。 【0007】本発明は、古紙パルプを原料として用いてなるパルプモールド包装材料に於いて、柔軟剤を用いて1.0〜2.0固型分重量%に希釈の後、パルプモールドの包装面にのみ、固型分で0.5〜1.0g/m 2となるようにスプレー塗布し、該柔軟剤のモールドへの浸透深さを1.0〜1.5mmに抑えてモールド成型体の強度低下を極小とすることを特徴とする、ソフトな包装面を有せしめたパルプモールド包装材料である。 【0008】 【発明の実施の形態】原料となる古紙としては、新聞古紙単独に限らず、その他、チラシ古紙、上質コート古紙等が採用でき、これらを機械的解纎を行う離解装置により、スラリー状に溶解した古紙パルプ溶液を、粗選スクリーン装置を用いて、金物、石等の重量異物、又、プラスチック、ビニール等の軽量異物を除去した後、周知の湿式吸引成型法により、成型後、熱風及び遠赤外線乾燥してパルプモールドを製造し、これを倉庫内に一昼夜保管し、常温(約15〜20℃)まで温度を下げ、包装面に柔軟剤をスプレー塗布する。 【0009】スプレー塗布液の固型分濃度については、 1.0〜2.0重量%が好適であり、ムラの無い塗布が可能である。 刷毛塗りはパルプモールド深部まで、柔軟剤が滲み込む場合もある為、強度維持の点を考慮すると塗布方法としては不適当である。 【0010】スプレー塗布方式の例では、塗布液固型分重量濃度1%の場合、約1.5mm、仝濃度2%の場合、約1.0mmのモールド成型体内部への柔軟剤浸透があるが、浸透深さが少ない為、どちらの濃度を設定しても、問題はない。 均一塗布の上からは、1.0重量% の方が好ましい。 【0011】柔軟剤塗布後のパルプモールドは、屋内で十分自然乾燥させて製品とする。 この後、アフタープレス機によりプレス処理を行うと、一見、面が平らになり見映えが良くなるが、モールド成型体の強度低下が大きくなる為、プレス処理は、不適当である。 プレス処理をしなくても、モールド成型体の包装面は十分ソフトになっており、多少の凹凸を問題にする必要は無い。 【0012】柔軟剤としては、カチオン性界面活性剤の他、アニオン性、両性、非イオン性等の界面活性剤系薬剤が、市販品としてあるが、何れも柔軟剤として使用可能である。 一般に炭素数20〜30程度の長鎖アルキル基を持ち、親水基を繊維側に、長鎖疎水基を外側に配向させ、繊維間に配向した疎水基によって、組織が柔軟化する。 親水基は柔軟化には直接関与しないが、疎水基の配向性に影響すると共に、繊維への吸着性、即ちパルプモールド包装材料の表面への歩留りに関与する。 本発明のように外添用として使用する場合は、柔軟剤の重要な効果のひとつである手触り感の点でもカチオン性界面活性剤が適している。 【0013】界面活性剤系の薬剤以外の柔軟剤も多種類あり、例えば、ワックスエマルジョン、低分子量ポリエチレンワックスエマルジョン、又は、シリコーン系のジメチルポリシロキサン、カチオン変性シリコーン、或いはエチレンビスステアロアミド、ステアリン酸アミド等が挙げられる。 これらの中には、撥水性又は、滑らかさを発現させる薬剤もあり、ソフト化と同時に、それらの性状を得ることも可能であり、コストアップを抑えつつ、目的に応じて適宜、使い分けることが、望ましい。 【0014】柔軟剤塗布量は、固型分で0.5〜1.0 g/m 2が好適であり、塗布量0.5g/m 2未満ではソフト感が不足することもあり、1.0g/m 2を越えて塗布すると、圧縮強度の低下を招く恐れがあって、モールド表面のソフト感、手触り感は飽和しており一層の向上はない。 又、柔軟剤内添方式でも、同様な効果が発現するがパルプモールド包装面だけではなく、内部にまで柔軟剤を含有させることになり、薬品コストの大幅な上昇のみならず、圧縮強度面での低下も顕著になる為、本発明のスプレー塗布による外添方式が、表面に限定した効果を得る上で優れることは明白である。 【0015】 【実施例】以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、勿論、本発明はこれらに限定されるものではない。 尚、実施例及び比較例に於いて、%とあるのは、特記の無い限り、重量%を示し又、gとあるのは固型分gを示す。 【0016】[包装用パルプモールド成型品の作成]新聞古紙55%、チラシ(上質系、塗工紙等)古紙45% からなる離解パルプスラリー(未脱墨、未晒)を、パルプ濃度1%に調節し、さらに硫酸バンドを8%添加し、 PHを中性域7.0にした原料を用い、公知の湿式吸引成型法により成型後、熱風及び遠赤外線乾燥して、国内有名電気機器メーカーの電気掃除機包装用パルプモールド成型品を得た。 成型品は電気掃除機を両サイドから、 はさむ形の対称形になっており、夫々の概略寸法は、両サイド共長さ300mm×巾150mm×高さ150mm×厚さ7mmである。 製造数総計14ヶ(7組)の成型体を製造した後、倉庫内で一昼夜保管して成型体を常温(約1 5〜20℃)まで、温度を下げたものを塗布実験用として用意した。 【0017】実施例1〜3及び、比較例2、3に使用した柔軟剤の性状を下記に示す。 成分:特殊カチオン界面活性剤 外観:黄褐色エマルジョン 固型分:25% pH:4.5(原液) 商品名:ソフノン P−250 メーカー:東邦化学工業(株) 【0018】上記の柔軟剤を、25倍に希釈し固型分濃度1%の薬液にした後、スプレーを用いて、モールド成型体包装面への塗布量を下記の様にした成型体を製造し、倉庫内に約15時間保管して自然乾燥させた。 比較例1、同4は塗布していない。 比較例2:塗布量 0.2g/m 2実施例1: 〃 0.5g/m 2実施例2: 〃 0.7g/m 2実施例3: 〃 1.0g/m 2比較例3: 〃 1.5g/m 2 【0019】完成したテスト用成型体については、全7 組の内、1組(比較例4)をアフタープレス処理し、残る6組は処理なしとした。 これら7組のテスト用成型体について圧縮強度試験、及び表面硬さ試験、官能試験によるソフト感評価を実施した。 【0020】本発明で、使用したアフタープレス加工機について以下に述べる。 アフタープレス加工機 メーカー…… 東洋油圧工業(株) 上金型温度…125〜150℃ 下金型温度… 65〜90℃ 加圧時間…… 0.05〜1.0秒 【0021】又、各試験方法については以下の通り。 ・圧縮強度:ダンボール用圧縮試験機:東洋精機(株) 製。 ・表面硬さ試験:染色物摩擦堅牢度試験機(印刷面摩擦後の表面傷評価用):大栄科学機器製作所製。 スイングアームの先端に20mm×20mmにカットしたパルプモールド試験片を取り付け、摺動する金台にべた刷り印刷した印刷紙を貼り付け、パルプモールド試験片上に3 50gの重錘を乗せた状態で平らな面を印刷面に当てて金台を20m/分で往復運動させ、印刷面に付いた疵の状態を1点(悪い)〜10点(良い)の10段階整数表示で評価した。 ・ソフト感:20才代男性2名、女性2名による官能評価。 評価基準:1点(悪い)〜10点(良い)整数表示(4 名の評価平均を4捨5入)。 【0022】 【表1】 表1に示した実施例1〜3は、柔軟剤スプレー塗布を0.5、0.7、1.0g/m2と増加させていったもので、塗布量が増すにつれて、ソフト感及び表面硬さ評価の向上が認められ、逆に圧縮強度が少しずつ低下していくことが分る。 比較例1は,柔軟剤塗布無しの通常のパルプモールド成型体である。 実施例1〜3に比較して、ソフト感及び表面硬さの評価は共に著しく低い。 しかし圧縮強度については優れている。 【0023】比較例2及び3は、柔軟剤塗布量を少量としたもの及び多めとしたものであり、比較例2の0.2 g/m 2では、殆ど効果なしの結果である。 一方、比較例3の塗布量1.5g/m 2では、その評価は、実施例3の塗布量1.0g/m 2の場合と同じであり、圧縮強度のみが低下する結果となる。 比較例4は、柔軟剤塗布なしの通常のパルプモールド成型体をアフタープレス処理したものであり、ソフト感及び表面硬さ共に、実施例1の柔軟剤塗布量0.5g/m 2の場合と同様の評価を得るが、圧縮強度の低下が大きく、実用的とは言えない。 【0024】 【発明の効果】古紙パルプを原料として用いてなるパルプモールド包装材料に於いて、包装面へ柔軟剤を清水を用いて1.0〜2.0固型分重量%に希釈の後、パルプモールドの包装面にのみ、固型分で0.5〜1.0g/ m 2となるようにスプレー塗布することにより、柔軟剤のモールドへの浸透深さを1.0〜1.5mmに抑えて、モールド成型体の強度低下を極小とした、ソフトな包装面を有せしめたパルプモールド包装材料が得られた。 ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 坂元 和智 愛知県春日井市王子町1番地 王子製紙株 式会社春日井工場内 (72)発明者 伊藤 剛 愛知県春日井市王子町1番地 王子製紙株 式会社春日井工場内 |