【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、光や電磁波の輻射エネルギー、さらに詳しくはレーザー光を利用した原子、分子の高純度精製装置に関する。 【0002】 【従来の技術】光通信、半導体技術などの発展、及びエネルギー問題、環境問題に関連して光学結晶、化合物半導体、ULSI関連材料、核融合炉材料、触媒開発等において超高純度化技術の発展が望まれている。 従来、特定物質の高純度化を行う場合、化学的分離方法が用いられてきた。 化学的分離方法には、溶媒抽出法、ゾーン精製法、電解法、蒸留法、結晶法、膜法、起泡分離法等があるが、高度の精製のためには、その中でも溶媒抽出法、イオン交換法、ゾーン精製法等の分配法と呼ばれる物質の異相平衡における分配係数の違いを利用した分離法が有力な方法として用いられてきた。 【0003】一方、高純度化の技術とは異なるが、複数種類の同位元素の中から1種類の同位元素を分離する同位元素分離の技術では、レーザー光の波長選択性を利用して気体状態にある原子を励起し、イオン化して、その後電磁気的手法により、目的の同位元素を分離し、収集する原子法と呼ばれるものがある(特公昭58−509 2号)。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前者の従来の高純度化の分離方法では、以下の理由により、現状で得られている純度以上の高純度化を行うことは容易ではない。 即ち、 (1)原料中に含まれている特定の不純物には適用できるが、原料中に含まれている他の不純物については別の工夫が必要であるため、原料中に含有されているすべての不純物に対して適用できず、特定の物質を高純度に精製するためには、要求に応じて、また目的に応じての工夫が必要である。 (2)高純度化する物質が常に溶媒と接しているので溶媒そのものからの汚染が起こる。 からである。 【0005】他方、前記の原子法と呼ばれる同位元素の分離技術は、複数台のレーザー発生装置よりレーザーパルスを照射し、1段階の励起を行って同位元素の分離を行うものである。 しかし、この技術は、イオン化準位の高い原子も含めた一般の場合を考慮すると、1段階の励起過程のみでイオン化を行わせた場合、紫外領域あるいはX線領域の短波長領域において使用可能な波長可変レーザーを要する。 現在はかような波長可変レーザーを入手できず、仮に入手可能であったとしてもイオン化収率改善の点で問題がある。 すなわち、エネルギー準位の差に一致しない振動数を持ったレーザー光による多光子吸収励起は、エネルギー差に一致したレーザー光による多段階励起よりも効率が悪い。 これを改善するための多段階励起に対応する方式になっていないからである。 【0006】本発明の目的は、前述の化学的分離法が持つ従前の欠点を解消した新規な原理に基づく精製装置及び精製法を提供することにある。 本発明の他の目的は、 複数本のレーザーパルス間の時間遅延制御を行い、レーザーパルス光を有効に利用することによって収率向上を図るために、特に改良した選択的光励起精製方法及び装置を提供することにある。 【0007】 【課題を解決するための手段】本発明は、蒸発された2 種以上の原子又は分子に輻射エネルギーを照射する第1 及び第2の2つの輻射エネルギー発生装置を有し、第1 の輻射エネルギー発生装置は、蒸発された1種の原子又は分子の物質のみに対して、その基底準位、準安定準位、又はこれら双方の準位から中間エネルギー準位の1 つに遷移させる振動数の輻射エネルギーを照射する手段を有し、第2の副射エネルギー発生装置は、該中間エネルギー準位に励起された物質をさらに上の中間準位又はイオン化準位に遷移させる振動数の輻射エネルギーを照射する手段を有することを特徴とする選択的光励起精製装置である。 【0008】複数種類の不純物を含む原料の中から、目的とする1種類の特定の原料物質又は不純物物質のみを選択的に励起し、該1種類の原料物質又は不純物物質のみを分離する高純度化精製装置である。 本発明は、不純物を含む原料物質から不純物物質のみを選択して高度に精製することもできるし、又不純物を排除して原料物質を高度に精製することもできる。 複数種類の不純物を含む原料は、蒸発装置により、蒸発されて原子又は分子ビームを形成する。 原子又は分子ビームを、原子又は分子のみを分離するための分離室へ導き入れ、分離室に向けて輻射エネルギーを照射する輻射エネルギー発生装置を有する。 第1の輻射エネルギー発生装置は、基底準位又は準安定準位又はこれらの両方の準位から中間エネルギー準位の1つに遷移させるために少なくとも1種類の振動数の輻射エネルギーを照射して、前記不純物を含む原料の中から前記1種類の原料物質又は不純物物質のみを中間エネルギー準位の1つに遷移させるための輻射エネルギーを発生させるものである。 輻射エネルギーの振動数は、他の不純物又は原料物質を励起させないで目的とする前記1種類の原料物質又は不純物物質の基底準位又は準安定準位、ないしはこれらの両方の準位から中間準位の1つとのエネルギー差に対応する少なくとも1つの振動数に一致するように選ばれる。 前記中間エネルギー準位の1つに励起された前記1種類の原料物質又は不純物物質がその中間準位にある間に、他の不純物物質又は原料物質を励起させないで、前記振動数と同一又は異なる少なくとも1つの振動数を持つ輻射エネルギーを照射して、目的とする特定の物質を前記中間エネルギーからさらに上の中間準位又はイオン化準位に遷移させるための輻射エネルギーを発生する第2の輻射エネルギー発生装置を有する。 輻射エネルギーはいずれもレーザーパルスが用いられることが望ましい。 第1の輻射エネルギー発生装置と第2の輻射エネルギー発生装置によって発生されるレーザーパルスはその波形が異なるものである。 【0009】また、前記第1及び第2のそれぞれのパルス輻射エネルギーのパルス間の時間制御は、輻射エネルギー発生装置により出力されたパルス輻射エネルギーを検出し、該パルス波形の相違によって両者のパルスを区別し、該パルスの検出時間の差によってパルス間の時間差を検出する、さらに、該時間差を設定値と比較処理し、該時間差が設定値に一致するように、第1又は第2 のパルスの遅延時間を変化させる信号をパルス輻射エネルギー発生装置に送り、パルス輻射エネルギー発生装置の発振開始時間を制御することによって実測のレーザーパルス光の時間遅延を制御する時間遅延制御装置を設けることにより達成できる。 【0010】 【作用】図1は、Niを例にとり、本発明の原理を説明するためのNiのエネルギー準位を示す準位図である。 図2は、本発明の光イオン化信号を用いる選択的光励起精製装置の概略図である。 図3は、本発明の光イオン化信号を用いる選択的光励起精製装置を用いて測定された光イオン信号スペクトルである。 【0011】図1に基づき、本発明の原理を説明する。 同図で示すように、Niのエネルギー準位図では、基底状態3d 8 4s 2 a 3 F 3から205cm -1 、すなわち、 0.025eV上方に準安定状態3d 9 4s a 3 D 3があり、また、基底状態から29321cm -1 、すなわち、 3.6eV上方に第1段階励起過程として選択的励起を行う第1の中間励起状態4p z 3 F 0 3があり、さらに、基底状態から49314cm -1すなわち、6.1eV上方に第2段階励起過程として選択的励起を行うさらにエネルギー準位の高い第2の中間励起状態4d e 3 F 4がある。 本発明では、効率よく励起を行わせるため、図1に示したように基底状態より室温の熱エネルギー程度上方にあり、大きな状態分布を持つと考えられる上記の準安定状態からの2段階励起過程による選択的励起を行う。 第1段階励起過程として第1の中間励起状態と準安定状態との準位のエネルギー差に相当する波長(λ1=34 3nm)を持つ輻射エネルギー例えばレーザー光輻射エネルギーを、蒸発されて原子ビームとして分離室に導入されたNi原子に照射して、Γ1で示すように、Ni原子を基底状態から第1の中間励起状態に励起する。 後述のとおり、使用するレーザー光のエネルギー幅は0.3c m -1と非常に狭いので、他の原子の励起することなくN iのみを選択的に励起することができる。 【0012】次に、第1の中間励起状態に励起されたN i原子をΓ2で示すように、第2段階励起過程によりさらに上方の第2の中間励起状態に選択的励起する。 第2 の中間励起状態と第1の中間励起状態との準位のエネルギー差に相当する波長(λ2=500nm)を持つレーザー光をNi原子ビームに照射してNiを第2の中間励起状態に励起する。 さらに第2の中間励起状態に励起されたNi原子はλ1又はλ2の波長のレーザー光を吸収してイオン化準位の領域に励起される。 次いで、このようにイオン化したNi原子を原子ビーム中に含まれている不純物と分離するために、任意の適当な偏向装置、例えば、電界発生装置により、偏向して補集板に集める。 【0013】次に、図2を参照して、本発明のレーザーパルス遅延制御による選択的光励起精製装置を説明する。 レーザーパルス遅延制御による選択的光励起精製装置は、主要な部分として、高純度精製装置1、光電管2 (光電子増倍管)、パルス検出器3、マイクロコンピュータ4、パルスジェネレータ5、パルスレーザー光発生装置6(輻射エネルギー発生装置)を有する。 パルスレーザー光発生装置6は、2系列のレーザーエネルギーを発生させ、コントローラー61、62、エキシマレーザー63、64、色素レーザー65、66で構成されている。 図中M1、M2、G1、G2はミラーである。 【0014】高純度精製装置1は、Niを加熱蒸発してNi原子ビームを形成させる蒸発源と、Ni原子ビームを導き入れてレーザー光照射により選択的光イオン化を行わせ、Niイオンを不純物から分離するためにNiイオンを電場により偏向、補集を行わせる分離室とを有し、Niの高純度化を行うものである。 【0015】光電管2は、高純度精製装置1を通過した後のレーザーパルス光の波形を入射レーザーパルス光ごとに検出し、レーザーパルス光の波形を同形の電気パルス波形に変換する。 レーザーパルス波形の違いは、光電管の前に置かれた減光フィルターF1、F2、F3によってパルス波高の違いとして与えられる。 【0016】パルス検出器3は、光電管2により検出されたレーザーパルスを到着時間順にメモリーの番地を指定してレーザーパルス波形を記憶するものである。 【0017】マイクロコンピュータ4は、パルス検出器3に記憶されたレーザーパルス波形とレーザーパルス間の時間差をパルス検出器から読み出し、既に入力してある設定値(二種類のパルスのどちらのパルスを先に又は後のするかを指定したパルス間の時間差)と比較処理することにより、二種類のパルスのどちらかを進める又は遅らせるかの信号をパルスジェネレータ5へ送る。 例えば、波高のパルスをA(レーザーAからのパルス)、波高の高いパルスをB(レーザーBからのパルス)とし、 パルスBをパルスAより時間ΔT遅らせたい場合を考えると、実測された2つのパルス間の時間差がΔtであったとすると、Δtが設定値ΔTより大きかった場合、レーザーパルスAを遅らせる、又はレーザーパルスBを進ませる命令をパルスジェネレータ5へ送ることによって2つのレーザーパルス間の時間差を設定値に合わせることができる。 【0018】パルスジェネレータ5は、マイクロコンピュータ4からの命令を受けて、2つのパルス間の時間差をマイクトコンピュータ4からの指令に合うように変化させて出力端子7、8からパルスレーザー光発生装置6 へ時間異相制御されたパルスを出力する。 エキシマレーザー63、64は、マイクロコンピュータ4により修正された制御信号をパルスジェネレータ5からコントローラ61、62を介して受け、その制御信号に基づいて発振時間の差を変化させて発振を行い、それに同期して色素レーザー65、66の発振時間の差も変化する。 色素レーザー65から照射されたレーザーは、そのまま蒸発された2種以上の原子又は分子に照射され、色素レーザー66から発せられたレーザーはミラーM1、M2を介して上記の原子又は分子に照射される。 【0019】図2においては、色素レーザー65からのレーザーと色素レーザー66からのレーザーを高純度精製装置1に入射させる際に両者の入射に角度をもたせているが、必ずしもその必要はない。 むしろ、両者のレーザーの入射を重ねた方がイオン化効率は向上する。 その場合、ミラーM2をある波長領域のレーザー光は透過させるが、別の波長領域のレーザー光を反射するような誘電体多層膜を蒸着してあるダイクロックミラーを用い、 色素レーザー65から照射するレーザーの光軸上に配置する。 高純度精製装置1から出たレーザーは、プリズム等の波長分別器により2つのレーザーを分離することになる。 【0020】 【実施例】次に、前述のように構成した本発明のレーザーパルス制御による選択的光励起精製装置を用いた実施例を説明する。 反応容器中の蒸発源にNi金属を充填し、それを加熱蒸発させて原子ビームを発生させた。 このNi原子ビームにエキシマレーザー励起色素レーザー2台からのパルスレーザー光を照射し、前述の2段階励起過程とそれに続くイオン化により生成したイオンを2 次電子増倍管を使って検出した。 このイオン信号強度は、上記の2台の色素レーザーにより発射されたレーザーパルス光の時間差に依存し、この実験例では、2つのレーザーパルスが同時に上記原子ビームに入射したとき最も大きなイオン信号が観測された。 一方、2つのレーザーパルスが時間差をもって入射した場合、イオン信号の減少が観測された。 ここで前記レーザーパルス制御システムを用いて2台の色素レーザから出射されたレーザーパルスが同時に原子ビームに入射するようにシステムを設定して、前述の2段階励起過程を行わせ、発生したイオン信号を観測したところ、図3(a)に示すように長時間安定したイオン信号が観測された。 一方、上記レーザーパルス制御システムを使用しないで同様の2段階励起過程によるイオン信号を観測したところ、外部環境の変化に伴うレーザーの発振条件のゆらぎによって、出力された2つのレーザーパルスは原子ビームに同時に入射したり、時間遅れをもって入射したりするような入射時間にゆらぎが生じ、その結果、図3(b)に示すように、パルス間の時間差が大きくなることによってイオン強度の減少が起こること伴う不安定なイオン信号の増減が観測された。 以上のように上記レーザーパルス制御システムによりレーザーパルスの時間制御を行うことによって、大きなイオン強度を保ったまま安定にイオンを発生することができることからイオン収率の向上につながる。 【0021】 【発明の効果】本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、イオン化準位の高い原子も含めた巾広い物質について高純度の精製を行うことが可能となった。 又、高純度精製で多数のレーザー発生装置を使用する場合、レーザー発生装置間の発振開始時間を正確に制御することによって、レーザー光を有効に利用し、イオン収率の向上を図ることができる。 実際に出力されたレーザーパルス光を検出して時間遅延制御を行っているので、反応場に入射しているレーザー光の変化に正しく対応することができ、反応条件を一定に保持することができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】Niのエネルギー準位を示す準位図。 【図2】本発明の選択的光励起精製装置の概略図。 【図3】レーザーパルス制御した場合(同図(a))と制御しなかった場合(同図(b))のNiイオン強度の時間変化である。 【符号の説明】 1 高純度精製装置 2 光電管 3 パルス検出器 4 マイクロコンピュータ 5 パルスジェネレータ 6 パルスレーザー光発生装置 7、8 出力端子 61、62 コントローラ 63、64 エキシマレーザー 65、66 色素レーザー |