【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、生体関連物質や化学物質などが複数の成分として混在する試料から各成分ごとに分離したり、あるいは特定の成分を分離して分取するための試料分取装置に関する。 【0002】 【従来の技術】複数の成分が混在する試料から各成分や特定の成分を分離して分取する試料分取装置としては、 例えば特開平5−80032号公報に記載の「試料の調整のための、特に分析目的のための装置」が知られている。 この従来の装置は、板状の部材で形成した泳動室にポンプを用いて試料と泳動液を導入し、この試料と泳動液を泳動室内で一定の方向に流すとともに、この流れに対して垂直に電場を印加することで試料の各成分に泳動を生じさせ、この泳動により試料を各成分毎に分離し、 この分離した各成分から特定の成分を下流末端の出口で分取する構造となっている。 このような構造によると、 板状部材に機械加工あるいはエッチング加工で泳動室を形成することにより小型化を図り、これにより分取に必要な試料の微量化と分離の高速化を達成することが可能となる。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかし上記のような従来の装置にはいくつかの問題がある。 その一つは、泳動液中での試料の各成分の泳動を電場により生じさせるようにしていることに伴う問題である。 すなわち板状の部材に形成した構造の泳動室の場合には泳動液に印加する電場によりジュール熱が発生し、特に微量分析の場合にこのジュール熱が悪影響を与えやすくなるという問題である。 また電場を用いる場合には長時間にわたって電力を供給する必要があり、これによる電力消費量の増大という問題もある。 【0004】他の一つは、分取作業の始めから終わりまで泳動液を流し続ける必要があることによる問題である。 すなわち泳動液には一般に電解液が用いられるが、 この電解液は例えば1cc当たり数千円と非常に高価なもので、泳動液を流し続ける必要のあることは分取作業のコストを大きく増大させる。 【0005】本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その一つの目的は、微量分析の場合でも高精度な試料分取を可能とし、しかも電力消費量も低減できる試料分取装置を提供することにあり、他の一つの目的は、泳動液の消費量を大幅に低減できる試料分取装置を提供することにある。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明では上記一つの目的のために、複数の成分が混在する試料の各成分を泳動液中で泳動させ、この泳動により分離した前記試料の成分を分取するようになっている試料分取装置において、 一定の方向で連続的に流した前記泳動液中で前記泳動を行なわせるための試料泳動部を備えるとともに、磁場印加手段を備え、前記磁場印加手段にて前記泳動室内での泳動液の流れ方向に対して交差するように磁場を印加することにより、前記各試料成分の泳動を生じさせるようになっていることを特徴としている。 【0007】また本発明では上記他の一つの目的のために、複数の成分が混在する試料の各成分を泳動液中で泳動させ、この泳動により分離した前記試料の成分を分取するようになっている試料分取装置において、静止的に満たされた前記泳動液中で前記泳動を行なわせるための泳動室を備えるとともに、電場印加手段と磁場印加手段を備え、前記電場印加手段にて印加する電場により前記各成分の泳動のための第1の方向の泳動力を生じさせるとともに、前記磁場印加手段にて印加する磁場により前記各成分の泳動のための、前記第1の方向の泳動力とは交差する第2の方向の泳動力を生じさせるようになっていることを特徴としている。 【0008】 【発明の実施の形態】図1〜図3に本発明の第1の実施形態による試料分取装置の構成を示す。 図1は試料分取装置の簡略化した全体図、図2はその主要部の平面図、 そして図3の(1)〜(4)はそれぞれ図2中のI−I 〜IV−IV線に沿った断面図である。 まずこれらの図を参照して本実施形態による試料分取装置の構成を説明する。 その全体構成を示す図1に見られるように、試料分取装置は試料注入兼泳動液注入部1、試料泳動部2および試料分取部3を備えている。 【0009】試料注入兼泳動液注入部1は、複数の成分が混在する試料を試料泳動部2に供給のために、試料供給ポンプ10、試料溜め11、試料注入流路12および試料注入口13を備え、また泳動液として用いられる電解液を試料泳動部2に供給のために、電解液供給ポンプ20、電解液溜め21、電解液注入流路22および電解液注入口23を備えている。 【0010】試料泳動部2は、図3の(2)にも見られるように、それぞれ平板上の部材で形成された泳動部基板210を泳動部カバー220と下部磁石230とで挟み込むように構成されている。 泳動部基板210には矩形断面の幅広な溝が設けられており、これを泳動部カバー220で覆うことにより試料の泳動のための流路構造の泳動室240が形成されている。 【0011】試料分取部3は、泳動室240で泳動することにより分離した試料の各成分を分離抽出する試料分離抽出部4、試料分離抽出部4で分離抽出された試料の各成分を回収する試料回収部5および試料分離抽出部4 と試料回収部5をつなぐ試料回収ノズル6を備えている。 試料分離抽出部4は、図3の(3)にも見られるように、それぞれ平板上の部材で形成された分離抽出部基板310と分離抽出部カバー330で構成されている。 分離抽出部基板310には泳動部基板210における溝よりも幅の狭い矩形断面の溝が複数設けられており、これを分離抽出部カバー330で覆うことにより、試料の各成分を分離抽出するための流路構造の分取室320が複数形成されており、これらの分取室320の流路は泳動室240の流路に接続するようにされている。 【0012】次に本実施形態による試料分取装置の動作について説明する。 まず分離分取動作に先立ち、電解液供給ポンプ20にて電解液を電解液溜め21から電解液注入流路22を通して電解液注入口23より泳動室24 0に注入し、泳動室240及び分取室320を電解液で満たしておく。 そして分離分取動作時には、試料供給ポンプ10にて試料を試料溜め11から試料注入流路12 を通して試料注入口13より泳動室240に連続的に注入する。 同時に、電解液の注入も連続的に行なう。 これにより試料は電解液とともに泳動室240を流下し、分取室320を経て試料回収ノズル6から試料回収部5に流出する。 【0013】泳動室240の下部には磁場印加手段である下部磁石230があり、泳動室240の側がS極23 1、その反対側がN極232を構成し、泳動室240に対し磁場を印加している。 泳動室240に注入された試料が上記のように電解液とともに分取室320側に流れていく際の電解液の速度をVとする。 図1に示すように、下部磁石230による磁束密度をBとすれば、試料中のある成分30が速度Vで流れるとき、電荷Qをもつ成分30に作用するローレンツ力Fは磁束密度Bと流速Vに垂直な方向に作用し、F=QVBで表される。 ローレンツ力Fの作用により、成分30は電解液に対して電解液の流れと垂直な方向、すなわちローレンツ力Fの方向に泳動する。 成分30はこのように電解液中を泳動する際に電解液から抵抗を受け、この抵抗とローレンツ力とが釣り合う速度で泳動する。 電解液の速度V及び磁束密度Bは一定であるから、複数の成分が試料中に混在している場合、ローレンツ力Fは各成分の持つ電荷Qにほぼ比例する。 このため泳動速度は各成分毎に異なる。 すなわち電解液の速度Vと泳動速度との合速度つまり泳動室240を移動する各成分の速度は、成分毎に例えばV 1、V2のように異なる。 その結果、各成分は別々の分取室320に流入する。 複数の分取室320のそれぞれに流入した各成分は、試料回収ノズル6から電解液と一緒に、試料回収部5に各成分毎に回収される。 【0014】以上のように本発明の第1の実施形態によれば、複数の成分が混在する試料から各成分を分離するための泳動を磁力により生じさせるようにしているので、上記従来技術のように電場を用いることによるジュール熱の問題を有効に解消することができ、したがって微量分析の場合でも高精度な分取が可能となる。 また連続的に供給する電力としては試料供給ポンプ10と電解液供給ポンプ20のための電力だけで済み、したがって分離分取動作中の電力消費量を低減できる。 【0015】以上のような第1の実施形態については、 図4に示すように、その下部磁石230で泳動室240 の下面を形成するような構成とすることもでき、このようにすることで試料泳動部2を薄くすることができ、装置をより小型化できる。 また下部磁石230に代えて、 図5に示すような上部磁石250を用い、この上部磁石250で泳動室240をカバーするようにした構成とすることもできる。 この場合、上部磁石250は泳動室2 40の側がN極252、その反対側がS極251となり、図1に示す向きの磁束密度Bを発生させる。 このような構成も試料泳動部2を薄くすることで装置の小型化に有効である。 また図1〜図3に示した例では試料注入兼泳動液注入部1と試料泳動部2、それに試料分取部3 をそれぞれ別部品としてあるが、これに代えて、例えば泳動部基板210と分離抽出部基板310を1枚のシリコン基板やガラス基板等をエッチング加工することで一体に加工し、同様に泳動部カバー220と分離抽出部カバー330も一体に加工するような構成とすることもできる。 【0016】図6に第2の実施形態による試料分取装置の構成を示す。 本実施形態と第1の実施形態との相違は、分離分取動作時に電解液を流さずに、電解液の流れで与えられる試料の移動に対応する泳動を電場により生じさせることにある。 具体的には、試料注入兼泳動液注入部1に設けた試料溜め14と試料分取部3に設けた回収用電極40との間に泳動用電源41で電圧を印加する構造が電場印加手段を構成しており、この電場印加手段で電圧を印加し、これにより上記泳動のための第1の泳動力を生じさせる。 その他の構成は第1の実施形態におけるのと基本的には同様である。 【0017】本実施形態による試料分取装置の動作は以下の通りである。 分離分取動作に先立ち、電解液供給ポンプ20により電解液を電解液溜め21から電解液注入流路22を通して電解液注入口23より泳動室240に注入し、泳動室240から分取室320、それに試料回収部5までを電解液で満たしておく。 注入が終了したら電解液供給ポンプ20を停止し、以後の分離分取動作時には電解液の注入を行なわない。 つまり分離分取動作には泳動室240から試料回収部5までを満たす電解液を静止状態としておく。 【0018】分離分取動作時には、試料溜め14と回収用電極40との間に泳動用電源41を用いて電場(電界)Eを印加した状態で試料注入口13より試料を泳動室240に連続的に注入する。 そうすると試料中のある成分30が電荷Qをもつとすると、この成分30に作用する電場方向の電気力はQEとなり、この電気力QEによる第1の泳動力を受けて成分30は泳動室240内の静止した泳動液中で分取室320の方向に向く泳動を生じ、この泳動により分取室320を経て試料回収ノズル6から試料回収部5に流出するように移動する。 【0019】泳動室240の下部には磁場印加手段である下部磁石230があり、泳動室240の側がS極23 1、その反対側がN極232を構成し、泳動室240に対し磁場を印加している。 泳動室240に注入された試料のある成分30が上記のようにして泳動液中を分取室320の側に移動して行く泳動速度をV、そして下部磁石230による磁束密度をBとすれば、成分30に作用する電場と磁束密度に垂直な方向のローレンツ力はQV Bで表され、このローレンツ力QVBにより第1の泳動力とは直交する方向の第2の泳動力が成分30に作用する。 【0020】したがって成分30は、電気力QEによる第1の泳動力とローレンツ力QVBによる第2の泳動力の合力Fを受けてその方向に最終的な泳動をなすことになる。 そして両者の比であるE:VBが各成分毎に異なれば、各成分は異なる方向に泳動して分離する。 磁束密度Bと電場Eは一定であるから泳動方向は電気泳動速度Vに依存するが、成分毎に電荷Qが異なれば成分毎の電気泳動速度Vが異なることになり、したがって各成分の分離が可能となる。 その結果、各成分は別々の分取室3 20に移動し、試料回収ノズル6から試料回収部5に各成分毎に回収される。 【0021】以上のように本発明の第2の実施形態によれば、分離分取動作中に電解液を流す必要がなく、したがって高価な電解液の消費量を大幅に低減することができる。 【0022】以上のような第2の実施形態については、 図7に示すように、泳動部カバー220に代えて上部磁石250で泳動部をカバーした構造とすることもできる。 この場合、上部磁石250の磁極は、泳動室240 側がN極252、その反対側がS極251となる。 このように泳動室240を二枚の磁石、すなわち下部磁石2 30と上部磁石250で挟むことにより、泳動室240 にはより均一な磁束密度Bが印加される。 この結果、泳動室240内での分離のむらをより少なくすることができ、さらに高精度な分離分取が可能となる。 このような構成は第1の実施形態にも適用可能であり、そうすることで同様な効果が得られる。 【0023】図8〜図10に第3の実施形態による試料分取装置の構成を示す。 図8は試料分取装置の簡略化した全体図、図9はその主要部の平面図、そして図10の(1)と(2)はそれぞれ図9中のI−IとII−II 線に沿った断面図である。 本実施形態における試料分取装置は、磁場印加手段としてソレノイド500を備えており、その内部に試料泳動部2と試料分取部3の試料分離抽出部4が設けられ、その外部に試料注入兼泳動液注入部1、試料回収部5、試料回収ノズル6、試料溜め1 4、電解液供給ポンプ20、電解液溜め21、電解液注入流路22、回収用電極40、泳動用電源41およびソレノイド用電源42が設けられた構成となっている。 【0024】その試料泳動部2は、泳動室240を形成した泳動基板210を泳動部カバー220でカバーした構造になっている。 一方、試料分離抽出部4は、複数の分取室320を形成した分取基板310を分離抽出部カバー330でカバーした構造となっており、その複数の分取室320はそれぞれ試料泳動部2の泳動室240に接続するようにされている。 【0025】このような第3の実施形態による試料分取装置における動作は以下の通りであり、磁束密度をソレノイド500で発生させる点において相違するだけで、 基本的には第2の実施形態による試料分取装置におけるそれと同様である。 具体的には、分離分取動作に先立ち、電解液供給ポンプ20により電解液を電解液溜め2 1から電解液注入流路22を通して電解液注入口23より泳動室240に注入し、泳動室240から分取室32 0、それに試料回収部5までを電解液で満たしておく。 注入が終了したら電解液供給ポンプ20を停止し、以後の分離分取動作時には電解液の注入を行なわない。 つまり分離分取動作には泳動室240から試料回収部5までを満たす電解液を静止状態としておく。 【0026】分離分取動作時には、試料溜め14と回収用電極40との間に泳動用電源41を用いて電圧を印加する構造の電場印加手段を用いて電場Eを印加した状態で試料注入口13より試料を泳動室240に連続的に注入する。 そうすると試料中のある成分30が電荷Qをもつとすると、この成分30に作用する電場方向の電気力はQEとなり、この電気力QEによる第1の泳動力を受けて成分30は泳動室240内の静止した泳動液中で分取室320の方向に向く泳動を生じ、この泳動により分取室320を経て試料回収ノズル6から試料回収部5に流出するように移動する。 【0027】また分離分取動作時には、ソレノイド用電源42を用いてソレノイド500に電流を流すことで泳動室内に磁束密度Bを印加する。 ソレノイド500に流す電流の向きを図9に示す太い矢印の向きにすると、磁束密度Bは図8に示す矢印の向きで発生する。 泳動室2 40に注入された試料のある成分30が上記のようにして泳動液中を分取室320の側に移動して行く泳動速度をVとすれば、成分30に作用する電場と磁束密度に垂直な方向のローレンツ力はQVBで表され、このローレンツ力QVBにより第1の泳動力とは直交する方向の第2の泳動力が成分30に作用する。 【0028】したがって成分30は、電気力QEによる第1の泳動力とローレンツ力QVBによる第2の泳動力の合力Fを受けてその方向に最終的な泳動をなすことになる。 そして両者の比であるE:VBが各成分毎に異なれば、各成分は異なる方向に泳動して分離する。 磁束密度Bと電場Eは一定であるから泳動方向は電気泳動速度Vに依存するが、成分毎に電荷Qが異なれば成分毎の電気泳動速度Vが異なることになり、したがって各成分の分離が可能となる。 その結果、各成分は別々の分取室3 20に移動し、試料回収ノズル6から試料回収部5に各成分毎に回収される。 【0029】以上のように本発明の第3の実施形態においても、第2の実施形態と同様に、分離分取動作中に電解液を流す必要がなく、したがって高価な電解液の消費量を大幅に低減することができる。 【0030】ここで、第3の実施形態のように磁束密度をソレノイドで発生させる構成は第1の実施形態のように分離分取動作中に電解液を連続的に流す構成にも適用することができる。 すなわち第1の実施形態における下部磁石230などに代えてソレノイドを用いる構成も可能ということである。 【0031】 【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、複数の成分が混在する試料からの各成分の分離分取のための泳動を磁力により得るようにしているので、従来技術のような電場を用いることによるジュール熱の問題を有効に解消して微量分析の場合でも高精度な分取を可能とし、またそれとともに分離分取動作中の電力消費量を低減できる。 また本発明によれば、分離分取動作中に電解液を流す必要がなく、したがって高価な電解液の消費量を大幅に低減することができ、試料分取作業をより低コストで行なうことが可能となる。 【図面の簡単な説明】 【図1】第1の実施形態による試料分取装置の簡略化した全体構成図である。 【図2】図1の試料分取装置の主要部の平面図である。 【図3】図2中のI−I〜IV−IV線のそれぞれに沿った各断面図である。 【図4】第1の実施形態の変形例に関する図3の(2) 相当の断面図である。 【図5】第1の実施形態の他の変形例に関する図3の(2)相当の断面図である。 【図6】第2の実施形態による試料分取装置の簡略化した全体構成図である。 【図7】第2の実施形態の他の変形例による試料分取装置の簡略化した全体構成図である。 【図8】第3の実施形態による試料分取装置の簡略化した全体構成図である。 【図9】図8の試料分取装置の主要部の平面図である。 【図10】図9中のI−IとII−II線のそれぞれに沿った各断面図である。 【符号の説明】 1 試料注入部 2 試料泳動部 3 試料分取部 230 下部磁石 240 泳動室 320 分取室 250 上部磁石 500 ソレノイド ───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 山崎 功夫 茨城県土浦市神立町502番地 株式会社日 立製作所機械研究所内 Fターム(参考) 4D054 FA06 FB02 FB09 FB10 |