本発明は、下記式(1)CCl‐CCl(2-m)‐CCl(3-n) (1) (式(1)中、mは1又は2であり、nは0~3の整数である。) で示されるクロロプロパンを、無水塩化アルミニウムの存在下で塩素と反応させることによって下記式(2) CCl‐CCl(3-m)(m-1)‐CCl(3-n) (2) (式(2)中、m及びnは、それぞれ、式(1)におけるのと同一の整数である。) で示されるクロロプロパンへと変換する変換工程を経ることを特徴とする、炭素数3の塩素化炭化水素の製造方法に関する。

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炭素数3の塩素化炭化素の製造方法

热词 供給 工程 濃度 場合 時間 触媒 溶解 沸点 素数 精製
专利类型 发明申请 法律事件
专利有效性 公开 当前状态
申请号 PCT/JP2011/078361 申请日 2011-12-01
公开(公告)号 WO2012081482A1 公开(公告)日 2012-06-21
申请人 株式会社トクヤマ; 保坂 俊輔; 小松 康尚; 森脇 正之; 山本 喜久雄; 岡田 尚哉; 申请人类型 其他
发明人 保坂 俊輔; 小松 康尚; 森脇 正之; 山本 喜久雄; 岡田 尚哉; 第一发明人 保坂 俊輔
权利人 株式会社トクヤマ,保坂 俊輔,小松 康尚,森脇 正之,山本 喜久雄,岡田 尚哉 权利人类型 其他
当前权利人 株式会社トクヤマ,保坂 俊輔,小松 康尚,森脇 正之,山本 喜久雄,岡田 尚哉 当前权利人类型 其他
省份 当前专利权人所在省份: 城市 当前专利权人所在城市:
具体地址 当前专利权人所在详细地址:〒7450053 山口県周南市御影町1番1号 Yamaguchi JP 邮编 当前专利权人邮编:
主IPC国际分类 C07C17/10 所有IPC国际分类 C07C17/10C07C19/01C07B61/00
专利引用数量 4 专利被引用数量 21
专利权利要求数量 0 专利文献类型 A1
专利代理机构 大島 正孝 专利代理人
摘要  本発明は、下記式(1)CCl 3 ‐CCl (2-m) H m ‐CCl (3-n) H n  (1) (式(1)中、mは1又は2であり、nは0~3の整数である。) で示されるクロロプロパンを、無 水 塩化アルミニウムの存在下で塩素と反応させることによって下記式(2) CCl 3 ‐CCl (3-m) H (m-1) ‐CCl (3-n) H n  (2) (式(2)中、m及びnは、それぞれ、式(1)におけるのと同一の整数である。) で示されるクロロプロパンへと変換する変換工程を経ることを特徴とする、炭素数3の塩素化炭化水素の製造方法に関する。
权利要求
  • 下記式(1)
    CCl −CCl (2−m) −CCl (3−n) Hn (1)
    (式(1)中、mは1又は2であり、nは0~3の整数である。)
    で示されるクロロプロパンを、無水塩化アルミニウムの存在下で塩素と反応させることによって下記式(2)
    CCl −CCl (3−m)(m−1) −CCl (3−n) (2)
    (式(2)中、m及びnは、それぞれ、式(1)におけるのと同一の整数である。)
    で示されるクロロプロパンへと変換する変換工程を経ることを特徴とする、炭素数3の塩素化炭化水素の製造方法。
  • 前記変換工程が、反応器内に、少なくとも前記式(1)で示されるクロロプロパンと無水塩化アルミニウムとを入れておき、その後に前記反応器内へ塩素を供給することによって行われるものである、請求項1に記載の炭素数3の塩素化炭化水素の製造方法。
  • 前記反応器内への塩素の供給を、無水塩化アルミニウムが溶解した後に開始する、請求項2に記載の炭素数3の塩素化炭化水素の製造方法。
  • 前記変換工程が、反応器内に、少なくとも無水塩化アルミニウムと前記式(1)で示されるクロロプロパンとを含有する溶液を入れておき、その後に前記反応器内へ塩素を供給することによって行われるものである、請求項1に記載の炭素数3の塩素化炭化水素の製造方法。
  • 前記少なくとも無水塩化アルミニウムと前記式(1)で示されるクロロプロパンとを含有する溶液が、前記反応器外で無水塩化アルミニウムを溶媒に溶解して調製された溶液を反応器内に入れた後に該溶液を前記式(1)で示されるクロロプロパンによって希釈して得られたものである、請求項4に記載の炭素数3の塩素化炭化水素の製造方法。
  • 前記反応器外で調製された溶液に使用された前記溶媒が、前記式(1)で示されるクロロプロパンである、請求項5に記載の炭素数3の塩素化炭化水素の製造方法。
  • 前記無水塩化アルミニウムが、反応器内に前記式(1)で示されるクロロプロパンと金属アルミニウムとを入れておき、該反応器内へ塩素及び塩化水素よりなる群から選択される少なくとも1種を供給して前記金属アルミニウムを塩化アルミニウムに変換することによって得られたものである、請求項1に記載の炭素数3の塩素化炭化水素の製造方法。
  • 前記式(1)におけるmが2であり、
    前記変換工程の後、反応器内への塩素の供給を停止した後に、反応系の温度を30℃以上昇温することによって前記式(2)で示されるクロロプロパンを下記式(3)
    CCl =CCl−CCl (3−n) (3)
    (式(3)中、nは式(1)におけるのと同一の整数である。)
    で示されるクロロプロペンへと変換する第2の変換工程をさらに経る、請求項1~7のいずれか一項に記載の炭素数3の塩素化炭化水素の製造方法。
  • 前記式(1)におけるnが0~2の整数であり、該前記式(1)で示される化合物が、鉄−リン酸エステル触媒の存在下で下記式(0)
    CCl (2−m) =CCl (2−n) (0)
    (式(0)中、m及びnは、それぞれ、式(1)におけるのと同一の整数であるが、nが3であることはない。)
    で示される炭素数2の不飽和炭化水素に四塩化炭素を付加する付加工程、及び前記付加工程で得られた付加生成物からリン酸エステルを除去する除去工程を経由して得られたものである、請求項1~7のいずれか一項に記載の炭素数3の塩素化炭化水素の製造方法。
  • 说明书全文

    炭素数3の塩素化炭化素の製造方法

    本発明は、炭素数3の塩素化炭化水素の製造方法に関する。 より詳しくは、炭素数3の塩素化炭化水素を、1バッチ工程によって、塩素数が1つ多い炭素数3の塩素化炭化水素(ポリクロロプロパン)へ変換する方法に関する。
    本発明はさらに、上記1バッチ工程の後に反応系の温度を調整することによって、上記変換工程の生成物が脱塩化水素化された炭素数3の塩素化炭化水素(クロロプロペン又はポリクロロプロペン)へ変換する方法にも関する。

    ポリクロロプロパンは、農薬、医薬品、フロン代替材料等の各種製品を製造するための原料ないし中間体として重要である。 例えば1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンから出発して1,1,2,3−テトラクロロプロペンを経て、除草剤として有用なトリクロロアリルジイソプロピルチオカルバメートを製造することができる。
    このようなポリクロロプロパンの製造方法としては、例えば炭素数2の不飽和化合物(非置換又は塩素で置換されたエチレン)に四塩化炭素を付加してクロロプロパンを得る第一反応と、
    該クロロプロパンを脱塩化水素してクロロプロペンを得る第二反応と、
    該クロロプロペンにさらに塩素を付加して目的のクロロプロパンを得る第三反応と、からなる三段階反応が知られている。 このうち、本発明と特に関連する第二反応及び第三反応として、例えば米国特許第4650914号明細書(文献1)には、1,1,1,3−テトラクロロプロパンにアルカリ水溶液を作用させて脱塩化水素反応を行って1,1,3−トリクロロプロペンと3,3,3−トリクロロプロペンとの混合物を得て、該混合物から水相を分離した後に塩素を用いて行う塩素化により、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンとする例が記載されている。
    第二反応の脱塩化水素反応については、例えば特開昭49−66613公報(文献2)に、触媒としての塩化鉄の存在下に高温で反応を行う方法が記載されている。
    さらに、上記の第二反応及び第三反応を1工程で行う方法として、米国特許公開2009/216055号明細書(文献3)には、触媒としての塩化鉄の存在下に、高温で1,1,1,3−テトラクロロプロパンに塩素ガスを吹き込むことによって一気に1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンを得る方法が記載されている。
    ポリクロロプロパンの製造を、上記特許文献1及び2に記載された方法によるとすると、2工程の反応を各々全く異なる条件で行うことを要することとなるため、複数の反応装置が必要となるほか、反応に要する時間も長く不経済である。 文献3に記載された方法によってポリクロロプロパンの製造を行うと、1工程反応であるために上記のような問題はないが、高温反応が必要であるほか、目的生成物の選択率が不十分であるため、改善の余地が大きい。
    一方、1,1,2,3−テトラクロロプロペン等の高次に塩素化されたポリクロロプロペンは、医農薬品、フロン代替材料等の各種製品を製造するための原料ないし中間体として重要である(例えば前記文献3、米国特許第5659093号明細書及び米国特許公開2009/240090号明細書)。
    このようなポリクロロプロペンの製造方法の一つとして、少なくとも1つの水素原子を有する高次塩素化プロパンを脱塩化水素することによって二重結合を生成する方法が知られている。 この脱塩化水素については、例えば相間移動触媒の存在下に高次塩素化プロパンを水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液と接触させる方法(例えば特開2010−229047号公報及び特開2010−229092号公報)、塩化第二鉄の存在下に高次塩素化プロパンを加熱する方法(例えば前記文献3及び米国特許第3732322号明細書)等が知られている。
    しかしながら、ポリクロロプロペンの製造をアルカリ水溶液と接触させる方法による場合には、反応後に多量のアルカリ性廃液が発生し、その処理を要するという問題を有している。 また第二塩化鉄を用いる方法によると、処理すべき廃液は実質的には生じないものの、未だ反応転化率及び目的生成物の選択率の点で改善の余地が大きい。

    本発明は、上記の事情のもとになされたものであり、その目的は以下のとおりである。
    第1に、上記の第二反応及び第三反応を1工程で行い、且つ高温反応を要せずに高い選択率で目的のポリクロロプロパンを得ることができる方法を提供することである。
    第2に、上記で得たポリクロロプロパンの脱塩化水素反応によってポリクロロプロペンを製造するに際して、処理すべき廃液を実質的に生じず、且つ反応転化率及び目的生成物の選択率に優れる方法を提供することである。
    本発明者等は上記の目的を達成しようとして鋭意検討を行った。 その結果、触媒として無水塩化アルミニウムを使用することによって、上記第1及び第2の目的が同時に達成されることを見出して本発明を完成した。
    本発明は、
    下記式(1)
    CCl −CCl (2−m) −CCl (3−n) (1)
    (式(1)中、mは1又は2であり、nは0~3の整数である。)
    で示されるクロロプロパンを、無水塩化アルミニウムの存在下で塩素と反応させることによって下記式(2)
    CCl −CCl (3−m)(m−1) −CCl (3−n) (2)
    (式(2)中、m及びnは、それぞれ、式(1)におけるのと同一の整数である。)
    で示されるクロロプロパンへと変換する変換工程(第1の変換工程)を経ることを特徴とする、炭素数3の塩素化炭化水素(クロロプロパン)の製造方法を提供する。
    本発明はさらに、
    上記式(1)におけるmが2であり、
    前記変換工程の後、反応器内への塩素の供給を停止した後に、反応系の温度を30℃以上昇温することによって上記式(2)で示されるクロロプロパンを下記式(3)
    CCl =CCl−CCl (3−n) (3)
    (式(3)中、nは式(1)におけるのと同一の整数である。)
    で示されるクロロプロペンへと変換する第2の変換工程をさらに経ることを特徴とする、炭素数3の塩素化炭化水素(クロロプロペン)の製造方法をも提供する。

    図1は、実施例で用いた反応装置の構造を説明する模式図である。

    以下、本発明について詳細に説明する。
    本発明において原料として使用される化合物は、式(1)で示されるクロロプロパンである。 式(1)で示されるクロロプロパンを具体的に例示すると、例えば1,1,1−トリクロロプロパン、1,1,1,3−テトラクロロプロパン、1,1,1,2−テトラクロロプロパン、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン、1,1,1,2,3,3−ヘキサクロロプロパン等を挙げることができる。
    式(1)で示されるクロロプロパンを得る方法は特に制限されるものではない。 式(1)におけるnが0~2の整数である場合、一般的には、下記式(0)
    CCl (2−m) =CCl (2−n) (0)
    (式(0)中、m及びnは、それぞれ、式(1)におけるのと同一の整数であるが、nが3であることはない。)
    で示される炭素数2の不飽和炭化水素に四塩化炭素を付加することによって得られる。 式(0)で示される炭素数2の不飽和炭化水素の具体例としては、エチレン、塩化ビニル、1,1−ジクロロエチレン、1,2−ジクロロエチレン及び1,1,2−トリクロロエチレンを挙げることができる。
    この付加反応は、適当な触媒の存在下に行われることが一般的である。 使用される触媒としては、例えば鉄−リン酸エステル触媒、鉄−非プロトン極性溶媒触媒、銅−アミン触媒等を挙げることができる。 これらのうち鉄−リン酸エステル触媒を使用することが好ましい。 鉄−リン酸エステル触媒の存在下で上記付加反応を行うと、相対的に塩素数の少ない側の炭素に四塩化炭素の炭素が結合した生成物が生じる。 従って、例えば原料化合物としてエチレンを使用した場合には1,1,1,3−テトラクロロプロパンが、塩化ビニルを使用した場合には1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンが、それぞれ得られる。
    式(0)で示される炭素数2の不飽和炭化水素への四塩化炭素の付加反応の代表的な実施態様を、触媒として鉄−リン酸エステル触媒を用いる場合を例としてより詳しく説明すると以下のとおりである。
    四塩化炭素が液相として存在する温度及び圧に調整された反応容器内に四塩化炭素、鉄及びリン酸エステルを入れておき、ここへ式(0)で示される炭素数2の不飽和化合物を、好ましくはガスとして連続的に供給する。 炭素数2の不飽和化合物の供給開始は、鉄及びリン酸エステルを反応器内に入れる時点の前であっても後であってもよい。 このとき、鉄は所定使用量の全量を最初から反応容器内に入れておくことが好ましい。 一方、リン酸エステルは、全量を最初から反応容器内に入れておいてもよいし、最初に所定使用量の一部のみを反応容器内に入れ、残りの分量は付加反応の進行状況をモニターしながら追加添加してもよい。 付加反応の進行状況(反応速度)は炭素数2の不飽和化合物の消費速度によって知ることができる。
    ここで用いる鉄としては、例えば金属鉄、純鉄、軟鉄、炭素鋼、フェロシリコン鋼、鉄を含む合金(例えばステンレス鋼等)等を挙げることができる。 鉄の形状としては、例えば粉末状、粒状、塊状、棒状、球状、板状、繊維状等の任意の形状であることができるほか、これらを用いてさらに任意の加工をした金属片、蒸留充填物等であってもよい。
    リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸ジエチル、リン酸ジブチル、リン酸モノフェニル、リン酸モノブチル、リン酸ジメチルフェニル、リン酸ジエチルフェニル、リン酸ジメチルエチル、リン酸フェニルエチルメチル等を挙げることができる。 なかでもリン酸トリアルキルエステルであることが好ましく、すべてのアルキル基が炭素数1~4のアルキル基であるリン酸トリアルキルエステルが特に好ましい。
    付加反応の反応温度は、90~160℃とすることが好ましく、より好ましくは105~130℃である。 反応中は、気相部におけるエチレン圧力を、25℃に換算した値として0.11~0.52MPa(abs)に維持することが好ましい。
    上記のような方法で得られた反応混合物は、式(1)で示されるクロロプロパンを主成分とし、未反応原料である四塩化炭素及び炭素数2の不飽和化合物;触媒に由来する鉄、リン酸エステル、及び塩化第二鉄等を不純物として含む。 この反応混合物を式(1)で示されるクロロプロパンを式(2)で示されるクロロプロパンへと変換する変換工程の原料として使用するにあたっては、上記の不純物のすべてを除去する必要はなく、リン酸エステルのみを除去すればよい。 リン酸エステルを除去するのは、リン酸エステルが脱塩化水素反応を阻害する触媒として作用するためである。 他の不純物は反応を阻害しないが、これらを除去してもよい。 上記反応混合物から不純物を除去する除去工程においては、例えば蒸留、カラム分離、吸着等の方法を適宜適用することができる。
    リン酸エステルの除去を蒸留による場合、式(1)で示されるクロロプロパンの沸点と、使用したリン酸エステルの沸点との高低関係を考慮したうえで、それに応じた回収操作を行えばよい。
    例えばリン酸エステルの沸点が式(1)で示されるクロロプロパンの沸点よりも高い場合には、リン酸エステルの沸点よりも低沸点の物質を回収する簡易な蒸留によって該リン酸エステルを除去することができる。 例えば式(1)で示されるクロロプロパンが1,1,1,3−テトラクロロプロパンである場合、該クロロプロパンよりも沸点の高いリン酸エステルとしては、例えばリン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル等を挙げることができる。 大部分のリン酸エステルは、上記の製造方法で得られる式(1)で示されるクロロプロパンよりも沸点が高い。
    第1の変換工程に供するための精製操作においては、上記のとおりリン酸エステルさえ除けばよい。 式(1)で示されるクロロプロパンが低沸点留分として回収される場合、リン酸エステルよりも低沸点の他の物質(例えば未反応原料、副生成物としての塩素化炭化水素等)は、該クロロプロパンと共に回収されるが、回収された低沸点留分はこれら他の物質を含有したままで第1の変換工程に供しても何ら問題はない。 つまり、式(1)で示されるクロロプロパンを高純度で回収するための分別蒸留を行う必要がなく、単式蒸留等の簡易な蒸留のみで足りるところが第1の変換工程の特徴である。
    蒸留によるリン酸エステルの除去について、式(0)で示される炭素数2の不飽和炭化水素がエチレンであり、リン酸エステルがリン酸トリエチルである場合を例として、より詳細に説明する。 式(0)で示される炭素数2の不飽和炭化水素がエチレンである場合、式(1)で示されるクロロプロパンとしては1,1,1,3−テトラクロロプロパンが得られる。 リン酸トリエチルの沸点は、この1,1,1,3−テトラクロロプロパンの沸点よりも高い。 従って、リン酸トリエチルより低沸点の物質を回収する簡易な蒸留を行うことにより、1,1,1,3−テトラクロロプロパンより沸点の高いリン酸トリエチルを除去することができる。 このとき、鉄、塩化第二鉄等の高沸点の不純物も同時に除去される。
    リン酸トリエチルよりも沸点の低い物質には、目的物である1,1,1,3−テトラクロロプロパンのほか、主な不純物として、未反応の四塩化炭素、副生物であるクロロホルム等の塩素化炭化水素が含まれる。 しかし、これらの物質は第1の変換工程に直接悪影響を与えるものではない。 従って、これらすべてをまとめて回収し、そのまま第1の変換工程に供することができる。
    式(1)で示されるクロロプロパンよりも低沸点の物質を蒸留によってさらに分別しても、分別蒸留のための装置、時間及びコストが余計に必要となる以外の問題は生じない。
    蒸留に使用する蒸留塔は、当業界で知られているものを制限なく使用することができる。 蒸留塔としては、段塔又は充填塔を好ましいものとして挙げることができる。 蒸留は、リン酸エステルのみを除去することが目的である。 例えばリン酸トリエチルの沸点は、1,1,1,3−テトラクロロプロパンの沸点から十分に離れているから、少ない段数でリン酸トリエチルを除去することができる。 段塔の段数又は段塔に換算した蒸留塔の相当段数の上限に特に制限はないが、段数又は相当段数が多すぎると蒸留設備の費用が上がることから、1~20段とすることが好ましく、1~5段とすることがより好ましい。
    上記段塔としては、十字流トレイ、シャワートレイ等を用いることができる。
    充填式蒸留装置を使用する場合、充填物としては例えばラシヒリング、レッシングリング等の公知の充填物を用いればよく、その材質にも制限はなく、例えば各種の金属を用いることができる。
    蒸留の行う際の条件に特に制限はない。 例えば蒸留圧力を常圧(101kPa)に設定し、蒸留塔上部の温度を式(1)で示されるクロロプロパンの沸点付近として行うことができる。 しかし、蒸留塔上部の温度を高くしすぎると、塔底部の温度も高くなるから、式(1)で示されるクロロプロパンの分解が促進される。 一方、蒸留塔上部の温度を低くしすぎると、蒸留時に蒸留塔上部を冷やすためのエネルギーが増大するほか、蒸留圧力をとても低くしないとならないから、設備の費用、運転費用が高額となる。 以上を勘案して、蒸留時における塔底の温度の範囲としては、20~200℃とすることが好ましく、50~150℃とすることがより好ましく、70~120℃の範囲で行うことがさらに好ましい。 蒸留時の圧力は、上記の温度において式(1)で示されるクロロプロパンが気化し、蒸留塔上部まで到達する圧力とすることができる。 このような適正圧力は、式(1)で示されるクロロプロパンの種類及び蒸留塔上部の温度によって異なるが、例えば1~110kPaとすることができる。 式(1)で示されるクロロプロパンが1,1,1,3−テトラクロロプロパンである場合、10kPaにおいて、蒸留塔の上部の温度約87℃で蒸留を行うことができ、この温度で1,1,1,3−テトラクロロプロパンの分解はほとんど起こらない。 なお、上記における圧力は絶対圧力である。
    蒸留の際には、反応混合物に添加物を加えなくてもよいが、式(1)で示されるクロロプロパンの分解を抑制するために安定剤を加えてもよい。 ここで使用される安定剤としては、例えば各種のフェノール化合物を挙げることができる。 このフェノール化合物としては、例えばアルコキシ基で置換されたフェノール、アリル基で置換されたフェノール等を挙げることができる。 これらのうち、アリル基で置換されたフェノールを使用することが好ましい。 アリル基で置換されたフェノールの具体例としては、例えばo−アリルフェノール、m−アリルフェノール、p−アリルフェノール、4−アリル−2−メトキシフェノール(オイゲノール)、2−メトキシ−4−(1−プロペニル)フェノール(イソオイゲノール)等を挙げることができる。 これらアリル置換フェノールは単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
    このような条件で蒸留を行うことにより、リン酸エステル及び式(1)で示されるクロロプロパンより沸点の高い物質を取り除くことができる。
    蒸留によって得られる式(1)で示されるクロロプロパンの純度に特に制限はないが50~100%とすることが好ましく、80~99%とすることがより好ましく、90~98%とすることがさらに好ましい。 より好ましい範囲及びさらに好ましい範囲の純度の上限が、好ましい範囲の純度の上限よりも低くなっているのは、式(1)で示されるクロロプロパンの純度を100%としなくても第1の変換工程が容易に進行するから、余計な精製コストをカットする方がより好ましいためである。
    蒸留は、一塔で行ってもよいし、数塔で行ってもよい。
    この蒸留によって得られる式(1)で示されるクロロプロパンに含まれるリン酸エステルの量を、10,000ppmw以下とすることが好ましく、1,000ppmw以下とすることがより好ましく、さらに好ましくは100ppmw以下とすることである。
    リン酸エステルの除去をカラム分離による場合、リン酸エステルが式(1)で示されるクロロプロパンから分離されているのであれば、該クロロプロパンよりも前又は後に流出する画分を含んだ状態で第1の変換工程に供することができる。
    リン酸エステルの除去を吸着による場合、吸着材としては例えばシリカゲルを用いることができる。 反応混合物中にシリカゲルを入れて攪拌することにより、シリカゲルにリン酸エステルが吸着され、該シリカゲルを取り除くことによってリン酸エステルも一緒に取り除くことができる。 リン酸エステルを吸着によって除去する場合には、吸着剤に吸着されない不純物を含んだままの反応混合物を第1の変換工程に供することができる。
    式(1)で示されるクロロプロパンの純度及びリン酸エステルの量を測定する方法に特に制限はないが、例えば、適当な検出器を備えたガスクロマトグラフィーによって定量することができる。 検出器としては、例えば水素炎イオン化型検出器(FID)、熱伝導度型検出器、質量分析器等を用いることができる。 リン酸エステルについては、誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP−OES)によってもリン濃度を定量することができる。
    本発明の方法は、式(0)で示される炭素数2の不飽和炭化水素への四塩化炭素の付加によっては製造ができない1,1,1−トリクロロプロパン、1,1,1,2−テトラクロロプロパン等に対しても適用可能である。 この場合、これらの原料クロロプロパンは、それぞれ、公知の方法で製造されたものを使用することができる。
    本発明の方法のうち、第1の変換工程においては、式(1)で示されるクロロプロパンが、塩化アルミニウムの存在下、クロロプロペン中間体を経てさらに塩素と反応することによって、式(2)で示されるクロロプロパンへと変換される。
    推定される本発明の反応機構は以下のとおりである。
    先ず、式(1)で示されるクロロプロパンが、塩化アルミニウムの触媒作用によって脱塩化水素され、下記式で示される中間体のクロロプロペンを生じる。
    CCl =CCl (2−m)m−1 −CCl (3−n)
    (上記式中、m及びnは、それぞれ、式(1)におけるのと同一の整数である。)
    その後、上記クロロプロペン中間体の二重結合に塩素が付加することにより、式(2)で示されるクロロプロパンが得られる。 反応生成物である式(2)で示されるクロロプロパンは、原料である式(1)で示されるクロロプロパンと比較して2位の炭素に結合した塩素の数が1つ増える。 式(1)で示されるクロロプロパンとして1,1,1,3−テトラクロロプロパンを使用する場合を例として説明すると、先ず1,1,1,3−テトラクロロプロパンが塩化アルミニウムの触媒作用によって脱塩化水素されて中間体である1,1,3−トリクロロプロペンが生成する。 次いで、この1,1,3−トリクロロプロペンの二重結合に塩素が付加することにより、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンが生成するものと推察される。
    無水塩化アルミニウムを用いないと、目的とする反応が選択的に進行しない。 塩化アルミニウムを用いることにより、目的反応が選択的に進行するとともに、公知の触媒(例えば塩化鉄)を用いた場合と比較して遙かに低い温度において高い選択率及び収率で目的化合物を得ることができる。
    本発明の方法においては無水塩化アルミニウムを用いる。 塩化アルミニウム6水和物は、式(1)で示されるクロロプロパン中には実質的に溶解しない。 また、塩化アルミニウムが水と反応してできる水酸化アルミニウムは、本発明の方法における触媒にはならない。 ただし、塩化アルミニウム6水和物若しくは水酸化アルミニウム又はその双方が反応系内に存在していても、反応に悪影響を与えるものではない。
    本発明の第1の変換工程の第1の好ましい態様は、反応器内に、少なくとも式(1)で示されるクロロプロパンと無水塩化アルミニウムとを入れておき、その後に前記反応器内へ塩素を供給することによって行われることである。 ここで、反応器内の無水塩化アルミニウムが式(1)で示されるクロロプロパン中に溶解していない場合には、式(1)で示されるクロロプロパンのクロロプロペン中間体への脱塩化水素化よりも、式(1)で示されるクロロプロパンに対する塩素の置換反応が優先的に進行する。 そのため、例えば式(1)で示されるクロロプロパンとして1,1,1,3−テトラクロロプロパンを使用する場合には、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン等の副生物が生成することとなり、目的とする1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンの選択率が低下する傾向にある。 従って、反応器内への塩素の供給は、無水塩化アルミニウムの少なくとも一部、好ましくは全部、が溶解した後に開始することが好ましい。 無水塩化アルミニウムが溶解したかどうは、反応液の色調の変化により確認することができる。 無水塩化アルミニウムが、例えば1,1,1,3−テトラクロロプロパン(ほぼ無色である)に溶解した場合には青色を呈することとなる。
    無水塩化アルミニウムの溶解量(濃度)は、適当な範囲に設定することが好ましい。 反応系内における無水塩化アルミニウムの溶解量が多すぎる場合には、生成したクロロプロペン中間体同士の二量化反応及びクロロプロペン中間体と式(1)で示されるクロロプロパンとの二量化反応、クロロプロペン中間体と式(2)で示されるクロロプロパンとの二量化反応等が進行するため、目的化合物である式(2)で示されるクロロプロパンの選択率が低下する傾向にある。 従って、無水塩化アルミニウムの溶解量を適当な範囲に設定することが好ましく、式(1)で示されるクロロプロパンの初期投入量1モルに対して、2.0×10 −5 ~2.0×10 −2モルとすることが好ましく、より好ましくは、5.0×10 −5 ~1.0×10 −3モルである。 無水塩化アルミニウムの全量が式(1)で示されるクロロプロパン中に溶解したとき濃度が上記範囲となるように、無水塩化アルミニウムの使用量を調整することが好ましい。
    上記の無水塩化アルミニウムの溶解量は、反応系内に実質的に存在する量であるものとして理解されるべきである。 上述したように、無水塩化アルミニウムは水と反応して加水分解し、水酸化アルミニウムになる。 原料である式(1)で示されるクロロプロパンに水が含まれている場合には、無水塩化アルミニウムがこの水と反応して水酸化アルミニウムを生じ、この分だけ有効触媒量が減じることとなる。 従って、式(1)で示されるクロロプロパンに水が含まれている場合には、無水塩化アルミニウムを含水量に応じて多く加え、実質的な溶解量が上記の範囲となるようにすることが好ましい。 従って、原料として使用するクロロプロパンに含まれる水の1モルに対して、1/3モルの無水塩化アルミニウムを所望値よりも過剰に使用すればよい。
    反応器内への式(1)で示されるクロロプロパンと無水塩化アルミニウムとの供給は、どちらを先に行ってもよいし、同時に行ってもよい。 式(1)で示されるクロロプロパン及び無水塩化アルミニウムは、それぞれ、最初に所定量を一度に供給してもよいし、最初に所定量のうちの一部のみを供給し、反応途中で追加供給してもよい。 どのような方法によってもよいが、式(1)で示されるクロロプロパン中に溶解した無水塩化アルミニウムが反応器内に存在する状態とした後に、塩素の供給を開始すれば、本発明の好ましい実施態様である。
    式(1)で示されるクロロプロパン中に溶解した無水塩化アルミニウムが反応器内に存在する状態とするためには、例えば反応器に無水塩化アルミニウム及び反応器で式(1)で示されるクロロプロパンをそれぞれ仕込み、反応器中で溶解する方法;
    反応器外で無水塩化アルミニウムが溶媒に溶解した溶液を反応器内に入れた後に、該溶液を式(1)で示されるクロロプロパンによって希釈する方法等を挙げることができる。
    前者の方法によると、反応器内の液相には、実質的に無水塩化アルミニウム及び反応器で式(1)で示されるクロロプロパンのみが存在することとなり、ここに塩素を供給することとなる。
    後者の方法において使用される溶媒としては、本発明における反応を阻害せず、生成物との分離が容易で、且つ塩化アルミニウムを溶解可能な溶媒であれば特に限定されない。 より詳しくは、塩化アルミニウム、塩素、炭素−炭素二重結合等と反応し難く、目的生成物と沸点の異なる溶媒が好ましい。 具体的には、例えば四塩化炭素、クロロホルム等のクロロメタン;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル等を挙げることができる。 しかしながら、反応後の精製操作を考慮すると、溶媒としては、反応原料である式(1)で示されるクロロプロパンを使用することが好ましい。 この好ましい態様の場合、反応器内の液相には、実質的に無水塩化アルミニウム及び反応器で式(1)で示されるクロロプロパンのみが存在することとなり、ここに塩素を供給することとなる。
    反応器外で無水塩化アルミニウムが溶媒に溶解した溶液を調製する方法としては、無水塩化アルミニウムと溶媒とを混合して溶解する方法;
    溶媒中に金属アルミニウムを入れておき、ここに塩素及び塩化水素よりなる群から選択される少なくとも1種の塩素化剤を供給して、金属アルミニウムを塩素化して塩化アルミニウムに変換する方法等を挙げることができる。 後者の方法の場合、金属アルミニウムの純度等により、溶媒に不溶性の不純物が生じることがある。 この場合、調製後の塩化アルミニウム溶液は、ろ過等の操作によって不溶性物質を除去した後に反応器内に供給することが好ましい。 金属アルミニウムを塩素化するにあたっては、塩化水素を使用することが好ましい。 塩素を用いると、副反応を起こす場合があるためである。
    反応器外で無水塩化アルミニウムの溶液を調製するに際しては、無水塩化アルミニウムの濃度が濃厚な溶液としておき、反応器内で前記式(1)で示されるクロロプロパンによって希釈された後に塩化アルミニウムの濃度が上記の範囲になるようにすることが好ましい。 この濃厚溶液における無水塩化アルミニウム濃度としては、例えば1~50g/L程度とすることができる。
    本発明の第1の変換工程の第2の好ましい態様は、触媒である無水塩化アルミニウムが、
    反応器内に式(1)で示されるクロロプロパンと金属アルミニウムとを入れておき、該反応器内へ、塩素及び塩化水素よりなる群から選択される少なくとも1種の塩素化剤を供給して前記金属アルミニウムを塩素化して塩化アルミニウムに変換する方法によって得られたものである態様である。 塩素化に際しては塩化水素が好ましいことは、上記と同様である。
    具体的には、反応器内に前記式(1)で示されるクロロプロパンと金属アルミニウムとを入れておき、ここへ塩素化剤、好ましくは塩化水素、を供給する。 この場合の塩素化剤は乾燥したものを用いることが好ましい。 金属アルミニウムの使用量は、その全量が塩化アルミニウムへ変換された後の溶液中の塩化アルミニウム濃度が上記の範囲となる量とすればよい。
    この態様の場合、最も好ましくは、金属アルミニウムの塩素化剤として塩化水素を用い、金属アルミニウムの全量が溶解するまで塩化水素の供給を行った後、塩素の供給を行うことである。
    上記した無水塩化アルミニウムの溶液の調製は、このうちのどれか1つのみを行ってもよく、2つ以上を重畳して行ってもよい。 しかしながら、装置コスト、操作の手間、得られる無水塩化アルミニウム溶液の純度及び濃度管理の容易さの観点から、反応器に無水塩化アルミニウム及び反応器で式(1)で示されるクロロプロパンをそれぞれ仕込み、反応器中で溶解する方法を採用することが最も好ましい。
    このようにして、式(1)で示されるクロロプロパンと、好ましくは該クロロプロパンに溶解して溶液状態にある無水塩化アルミニウムとが存在する反応器内に塩素を供給することにより、式(1)で示されるクロロプロパンが式(2)で示されるクロロプロパンに変換される。 反応器内に塩素が存在しない場合には、式(1)で示されるクロロプロパンは、無水塩化アルミニウムの触媒作用によって脱塩化水素される。 この脱塩化水素反応は反応系の温度が高いほど促進される。 脱塩化水素生成物は、二量化又はその他の反応によって副生物へと進む傾向がある。 従って、反応器内に無水塩化アルミニウム及び反応器で式(1)で示されるクロロプロパンを仕込んだ後、塩素を供給開始するまでは、反応液の温度を低く保つことが好ましい。 脱塩化水素反応が起こる温度は式(1)で示されるクロロプロパンの有する塩素数によって異なり、塩素数が多いほど高い温度が必要である。 従って、第1の変換工程における塩素供給前の温度及び反応温度については、式(1)で示されるクロロプロパンとして1,1,1,3−テトラクロロプロパンを使用する場合を例として説明する。 原料としてこれよりも塩素数の多い化合物を用いる場合には、これらの温度を塩素数に応じて適宜に高く読み替えることにより、略同様に行うことができる。 クロロプロパンの種類に応じた適正な温度は、当業者による少しの予備実験で容易に知ることができる。
    式(1)で示されるクロロプロパンとして1,1,1,3−テトラクロロプロパンを使用する場合、塩素供給前の反応液の温度は50℃以下に維持することが好ましく、より好ましくは40℃以下である。 一方、反応液の温度が低すぎると無水塩化アルミニウムの溶解が遅くなり、式(1)で示されるクロロプロパン中の無水塩化アルミニウム濃度が上述の好ましい範囲に入り難いこととなるため、反応液の温度は0℃以上とすることが好ましく、さらに好ましくは10℃以下である。
    反応器内に供給される塩素としては、一般的な工業用塩素を使用することができる。
    反応初期における反応器内は、式(1)で示されるクロロプロパンの濃度が高く、クロロプロペン中間体の濃度が低い。 このような状態で塩素を供給すると、クロロプロパンの脱塩化水素化反応のほかに、競争反応的にクロロプロパンの塩素置換反応が起こる。 例えば、原料として1,1,1,3−テトラクロロプロパンを使用する場合、反応系内における1,1,3−トリクロロプロペン中間体の濃度が低く、さらに脱塩化水素反応の速度も遅い状態(例えば塩化アルミニウム濃度が低い場合等)で反応系への塩素供給量が多いと、反応系内の塩素の濃度が過度に高くなる。 その結果、1,1,1,3−テトラクロロプロパンの塩素置換反応による1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンの生成が起こり易くなる。
    一方で、反応系内におけるクロロプロペン中間体の濃度が高くなりすぎると、上述のとおり、クロロプロペン中間体同士の二量化反応、クロロプロペン中間体と式(1)で示されるクロロプロパンとの二量化反応、クロロプロペン中間体と式(2)で示されるクロロプロパンとの二量化反応等の副反応が起こりやすくなる。
    従って、式(1)で示されるクロロプロパン中に溶解した無水塩化アルミニウムの濃度を上記の好ましい範囲にするとともに、塩素の供給開始のタイミング及び供給速度を適切な値に調整することによって、より高い選択率で本発明の方法を実施することができる。 具体的には、以下の通りである。
    塩素の供給は、脱塩化水素反応によって生成したクロロプロペン中間体の濃度が、反応系の全質量に対して、好ましくは0.1~30質量%となった時点、より好ましくは0.5~20質量%となった時点で開始するとよい。 式(1)でしめされるクロロプロパンがクロロプロペン中間体に転化した比率は、ガスクロマトグラフィーによる分析、気相部に排出される塩化水素の量等によって知ることができるほか、除熱量が既知である場合には反応系の温度変化等からも容易に判断することができる。
    塩素の最終的な供給量(全供給量)は、反応効率の観点から、式(1)で示されるクロロプロパンの初期投入量1モルに対して0.9モル以上とすることが好ましく、1モル以上とすることがより好ましく、1.1モル以上供給することがさらに好ましい。 一方、塩素の供給量を過度に多くすると、反応に寄与しない無駄な塩素が多くなる。 そのため、塩素の全供給量は、式(1)で示されるクロロプロパンの初期投入量1モルに対して2.5モル以下とすることが好ましく、より好ましくは2.0モル以下である。
    塩素は、反応の初めに一度に全量を供給してもよく、少しずつ供給してもよい。 しかし、好ましくない副反応を抑制するとの観点から、塩素は、一定の時間をかけて少しずつ供給することが好ましい。 この供給に要する時間は、反応温度、反応器の大きさ等に依存して設定されるべきであるが、例えば0.5~20時間、好ましくは1~10時間程度とすることができる。 一定の時間をかけて供給する場合には、連続的に供給してもよいし、間歇的に供給してもよい。
    さらに好ましい態様は、反応系内におけるクロロプロペン中間体の存在割合が、反応系の全質量に対して、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下を維持するように、塩素供給速度を調整することである。 反応系内における塩素濃度は、反応系の全質量に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、特に好ましくは1質量%以下を維持するように、塩素供給速度を調整することが好ましい。
    反応系内におけるクロロプロペン中間体及び塩素の濃度を上記の範囲に維持するための最適な塩素供給速度は、反応温度によって異なる。 例えば反応温度が0~50℃の場合には、式(1)で示されるクロロプロパンの初期投入量1モルに対して、好ましくは1~2,000mL/分、より好ましくは5~1,000mL/分、さらに好ましくは10~500mL/分である。 反応系内における塩素濃度を上記の範囲内に維持するために、反応進行中に上記の範囲で流速を変化させることも好適である。
    塩素供給速度は、反応系中のクロロプロペン中間体及び塩素の濃度が、前記の好ましい濃度範囲内となるように適時に調整することが好ましい。 つまり、反応系中のクロロプロペン濃度が高い場合若しくは塩素濃度が低い場合又はこれらの双方である場合には塩素供給量を増大することが好ましく;
    一方、反応系中のクロロプロペン濃度が低い場合若しくは塩素濃度が高い場合又はこれらの双方である場合には塩素供給量を減少することが好ましい。 この塩素供給量の変更は、反応系中のクロロプロペン中間体及び塩素の濃度を連続的にモニターしながら行うことにより、クロロプロペン中間体及び塩素の濃度が前記の好ましい濃度範囲から逸脱しないようにコントロールすることが好ましい。 しかしながら、これらの濃度を反応時間内において好ましくは定期的に数回測定して、塩素供給速度を段階的に調整することとしても、本発明の効果が減殺されるものではない。 塩素供給速度を段階的に調整する場合には、2~8段階程度で調整することが好ましく、3~6段階程度で調整することがより好ましい。
    触媒として使用する無水塩化アルミニウムが式(1)で示されるクロロプロパン中に全く又は極く少ない割合でしか溶解していないうちに塩素の供給を開始する場合には、塩素の供給速度には格別の配慮が必要である。 この場合、無水塩化アルミニウムが式(1)で示されるクロロプロパンに完全に溶解するまでには、一定の時間を要するから、反応初期には反応系中の無水塩化アルミニウム濃度が低く、脱塩化水素反応が遅い。 従ってこの場合には、反応初期には塩素供給速度を低くしておき、反応中期から供給速度を上げることが好ましい。 具体的には、低い供給速度、例えば式(1)で示されるクロロプロパン1モルに対して1~1,000mL(STP)/分の速度、より好ましくは10~250mL/分の速度で塩素供給を開始し、その後、式(1)で示されるクロロプロパンの割合が初期投入量の好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下となった時点で塩素供給量を、好ましくはその時点までの供給速度の1.1~10倍、より好ましくは1.5~5倍とすることができる。 無水塩化アルミニウムが式(1)で示されるクロロプロパン中に十分に溶解した後に塩素の供給を開始する場合には、このような配慮は必要ない。
    一方反応後期には、式(1)で示されるクロロプロパンの存在割合が減少している。 この状態で塩素濃度が過度に高いと、クロロプロパン中間体の塩素置換反応が促進され、副生物の割合が増加する。 従って、この場合には塩素の供給速度を低くすることが好ましい。 従って、式(1)で示されるクロロプロパンの割合が初期投入量の好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下になった時点で、塩素の供給量を少なくする方法を好適に採用することができる。 さらに、式(1)で示されるクロロプロパンの存在量が初期投入量の10%以下となった時点では塩素の供給速度をさらに少なくすることが好ましく、例えばその時点までの供給速度の10~90%とすることができ、25~65%とすることが好ましい。
    反応器内への塩素の供給は、反応器内の気相部へ供給してもよく、導入管を反応液中へ差し込んでおくことにより、液中へ吹き込む形式で行ってもよい。
    塩素を供給中の温度も、上述したのと同じ理由により、0~50℃の範囲内に維持することが好ましく、より好ましくは0~40℃であり、さらに好ましくは10~40℃である。 本発明の方法で起こる反応のうち、塩素付加反応は発熱反応であり、反応全体としても発熱反応となる。 そのため、塩素の供給を開始した後は、上記の温度範囲を維持するために反応系の冷却が必要となるであろう。 冷却方法としては、化学工学的に公知の方法を特に制限なく採用することができる。
    塩素の供給を停止した後も、溶存塩素との反応を進行させるため、上記の範囲の範囲を0.1~2時間程度維持することが好ましい。
    以上の説明は、主としてバッチ方式の反応を念頭において説明したが、本発明の方法は連続反応として行うことも可能である。 この場合、反応器に式(1)で示されるクロロプロパンを連続的に供給するとともに、生成した式(2)で示されるクロロプロパンを連続的に抜き出すこととなる。 このとき、無水塩化アルミニウムも一緒に取り出されることになるため、反応系内における無水塩化アルミニウム量が上記の範囲内に維持されるように、追加供給することが好ましい。 追加供給に際しては、濃厚な無水塩化アルミニウムのクロロプロパン溶液を別途調製しておき、これを加える方法(使用するクロロプロパンは、式(1)で示されるクロロプロパンでも式(2)で示されるクロロプロパンでもよい);
    式(1)で示されるクロロプロパンと固体の無水塩化アルミニウムとを別個に供給する方式等を挙げることができる。 余計な不純物を生じないことから、後者の方法によることが好ましい。
    反応終了後には、生成した式(2)で示されるクロロプロパンを必要に応じて精製したうえで製品とすることができ、あるいは原料として使用したクロロプロパンの式(1)におけるmが2である場合には、第1の変換工程後の反応混合物をそのまま第2の変換工程に供することができる。
    式(2)で示されるクロロプロパンを製品とするために好ましく行われる精製工程は、第2の変換工程によって生成する式(3)で示されるクロロプロペンの精製工程と同様であるから、後でまとめて説明する。
    第1の変換工程において未反応の塩素は回収して、再度本反応の原料塩素として使用することができ、あるいは、回収塩素を精製して、他の反応の原料とすることも可能である。
    以下、第2の変換工程について説明する。
    本発明における第2の変換工程は、上記のとおり、
    第1の変換工程の後、反応器内への塩素の供給を停止した後に、反応系の温度を30℃以上昇温することによって式(2)で示されるクロロプロパンを式(3)で示されるクロロプロペンへと変換する工程である。
    第2の変換工程も、反応系にそのまま残存している無水塩化アルミニウムによって触媒される。 上述のとおり、クロロプロパンは、無水塩化アルミニウムの触媒作用によって脱塩化水素化される。 上記の第1反応は、この脱塩化水素化反応を塩素の存在下で行うことにより、生成したクロロプロペン中間体を生成後直ちに塩素化するものである。 第1の変換工程によって生成した式(2)で示されるクロロプロパンは、無水塩化アルミニウムの存在下であっても第1の変換工程の反応温度においては脱塩化水素化されない。 これは、上記で説明したとおり、無水塩化アルミニウムによる脱塩化水素化反応が進行する温度が、クロロプロパンの有する塩素の数によって異なるためである。
    従って、第1の変換工程後、さらに塩素の供給を停止した後に、反応系の温度を、原料である式(1)で示されるクロロプロパンよりも塩素の数が1つ増えた式(2)で示されるクロロプロパンの脱塩化水素化反応が進行する温度まで上昇すれば、式(3)で示されるクロロプロペンが得られることとなる。
    第1の変換工程同様、第2の変換工程の反応温度もクロロプロパンの有する塩素の数によって異なるため、以下においては、式(2)で示されるクロロプロパンが1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンである場合を例として説明する。 式(2)で示されるクロロプロパンがこれよりも塩素数の多い化合物である場合に、反応温度を塩素数に応じて適宜に高く読み替えることによって略同様に行うことができることは、第1の変換工程の場合と同様である。
    第1の変換工程の終了後、反応器内への塩素の供給を中止し、その後好ましくは窒素等の不活性ガスによって曝気して反応系内の残存塩素を追い出した後に、反応系の温度を30℃以上昇温することによって、式(3)で示されるクロロプロペンが得られる。 反応系の温度を上昇させる前に塩素の供給を中止するのは、生成した式(3)で示されるクロロプロペンに対するさらなる塩素付加を防止するためである。
    昇温の温度幅は30℃以上であり、好ましくは45℃以上、特に好ましくは60℃以上である。 一方、昇温幅が大きすぎ、反応系の温度が高くなりすぎると、生成した式(3)で示されるクロロプロペンが二量化する等の副反応を起こし易くなるため。 そのため昇温幅は、150℃以下とすることが好ましく、140℃以下とすることがより好ましい。
    式(2)で示されるクロロプロパンが1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンである場合、昇温後の反応系の温度は、80~150℃とすることが好ましく、90~140℃とすることがより好ましい。
    反応時間は、0.5~10時間とすることが好ましい。
    このような方法によって第2の変換工程を行い、式(3)で示されるクロロプロペンを得ることができる。
    反応終了後には、生成した式(3)で示されるクロロプロペンを必要に応じて精製したうえで製品とすることができる。
    第1の変換工程で生成した式(2)で示されるクロロプロパン及び第2の変換工程で生成した式(3)で示されるクロロプロペンは、例えば蒸留によって精製することができる。
    ここで、式(2)で示されるクロロプロパンは、無水塩化アルミニウムの存在下で高温に置かれるとさらに脱塩化水素化される。 従って、式(2)で示されるクロロプロパンの蒸留精製を行う場合には、無水塩化アルミニウムの除去又は失活の後に行うことが好ましい。 無水塩化アルミニウムの除去乃至失活方法としては、例えば反応混合物に少量の水を添加する方法、湿潤したガス(例えば水蒸気、水蒸気を含む窒素等の不活性ガス)でバブリングする方法、吸着材で除去する方法等を挙げることができるほか、反応終了後の反応混合物を長時間放置する方法によることもできる。
    式(2)で示されるクロロプロパン及び式(3)で示されるクロロプロペンの蒸留に際しては、適当な安定剤を添加したうえで行うことが好ましい。 ここで使用される安定剤としては、式(1)で示されるクロロプロパンの蒸留精製において使用可能な安定剤として上記したところと同じである。
    ここで使用される蒸留装置についても、式(1)で示されるクロロプロパンの蒸留精製において使用可能な蒸留装置として上記したところと同じである。

    以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
    以下、特記しない限り、反応装置として図1に模式図を示す装置を用いて行った。 塩素ガスを反応液中へ吹き込むと共に、未反応のまま気相へ出てきたガス及び反応によって発生する塩化水素を反応容器外へ排出されるようにして実験を行った。
    下記の実施例1~18、比較例1~3及び参考例1において原料として用いた1,1,1,3−テトラクロロプロパンは、鉄−リン酸エステル系触媒の存在下で四塩化炭素及びエチレンから製造した粗生成物を、蒸留により精製したものである。 この1,1,1,3−テトラクロロプロパンの純度は99.5重量%であり、含水率は20ppm未満であった。
    実施例1
    200mLの4つ口ナスフラスコ中に、精製した純度99.5重量%の1,1,1,3−テトラクロロプロパン182g及び無水塩化アルミニウム(和光純薬工業(株)製)0.10gを仕込んだ。 液温を20℃に設定し、1時間攪拌した。 1時間後の液は青色であり、塩化アルミニウムの少なくとも一部が溶けたことを確認した。
    その後、液温を20℃に保ったまま、流速120mL/分にて塩素を供給し、反応を開始した。 4時間後、塩素の供給を止め、反応液中に窒素を流通して塩素を追い出した。
    反応液を、ガスクロマトグラフィー(GC)にて分析した結果、1,1,1,3−テトラクロロプロパンの転化率は100%であり、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンへの選択率は92%であった(収率92%)。
    実施例2~6並びに比較例1及び2
    上記実施例1において、触媒の種類及び量、反応温度(塩素供給開始時の設定液温)及び反応時間(塩素の流速及び塩素の供給開始から供給を止めるまでの時間)を、それぞれ表1に記載のとおりとしたほかは実施例1と同様にして反応を行った。
    反応終了後の分析結果を表1に示した。
    なお実施例2においては、反応途中である反応開始後8時間後に反応液の一部をとってGC分析を行った。 その結果、1,1,1,3−テトラクロロプロパンの転化率は95%であり、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンへの選択率は97%であった(収率92%)。
    比較例1及び2では、触媒として無水塩化第二鉄を使用した。 このとき、1,1,1,3−テトラクロロプロパン及び触媒を仕込み、液温20℃にて1時間攪拌した後の液は黄色となり、このことによって触媒の少なくとも一部が溶解したことを確認した。
    実施例7
    200mLの4つ口ナスフラスコ中に、上記のように精製した純度99.5重量%の1,1,1,3−テトラクロロプロパン182g及び無水塩化アルミニウム0.10gを仕込んだ。 液温を20℃に設定し、液は青色となる前(すなわち、無水塩化アルミニウムが溶解する前)に、液温を20℃に保ったまま、流速120mL/分にて塩素を供給し、反応を開始した。 5時間後、塩素の供給を止め、反応液中に窒素を流通して塩素を追い出した。
    反応液を、ガスクロマトグラフィー(GC)にて分析した結果、1,1,1,3−テトラクロロプロパンの転化率は100%であり、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンへの選択率は84%であった(収率84%)。

    実施例8


    1,000mL4つ口ナスフラスコ中に、精製した純度99.5重量%の1,1,1,3−テトラクロロプロパン910g及び無水塩化アルミニウム(和光純薬工業(株)製)0.18gを仕込んだ。 液温を20℃に設定し、1時間攪拌した。 1時間後の液は青色であり、塩化アルミニウムの少なくとも一部が溶解したことを確認した。 このときの反応溶液中の1,1,3−トリクロロプロペンの濃度は約1.0重量%であった。


    次いで、液温を20℃に保ったまま、塩素の流速を以下のように5段階に変更して反応を行った。


    先ず、塩素を500mL/分の流速で20分間供給した。 ここで塩素を供給した後の反応液中の各成分の濃度は、以下のとおりであった。


    1,1,3−トリクロロプロペン:約3重量%


    1,1,1,3−テトラクロロプロパン:90重量%


    塩素:0.17重量%


    続いて、塩素を1,000mL/分の流速で80分間供給した。 ここで塩素を供給した後の反応液中の各成分の濃度は、以下のとおりであった。


    1,1,3−トリクロロプロペン:0.5重量%


    1,1,1,3−テトラクロロプロパン:25重量%


    塩素:0.38重量%


    さらに続いて、塩素を500mL/分の流速で30分間供給した。 ここで塩素を供給した後の反応液中の各成分の濃度は、以下のとおりであった。


    1,1,3−トリクロロプロペン:0.1重量%以下 1,1,1,3−テトラクロロプロパン:12重量%


    塩素:0.31重量%


    さらに続いて、塩素を250mL/分の流速で40分間供給した。 ここで塩素を供給した後の反応液中の各成分の濃度は、以下のとおりであった。


    1,1,3−トリクロロプロペン:0.1重量%以下 1,1,1,3−テトラクロロプロパン:5重量%


    塩素:0.58重量%


    さらに続いて、塩素を125mL/分の流速で40分間供給し、反応を終了した。 反応液を、GCにて分析した結果,1,1,1,3−テトラクロロプロパンの転化率は99%であり、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンへの選択率は96%であった。


    実施例9~11


    上記実施例8において、塩化アルミニウム添加時及び反応中の液温(反応温度)、塩化アルミニウム添加後の撹拌時間並びに塩素の供給条件を、それぞれ、表2のように変更したほかは実施例8と同様にして反応を行った。 ただし、塩素の流速は、実施例9及び10においては4段階に、実施例11においては5段階に、それぞれ変更した。


    反応終了後の分析結果を表2に示した。


    なお表2中の「TCP濃度」とは、塩化アルミニウムの添加及び撹拌後、塩素供給開始前の反応溶液中の1,1,3−トリクロロプロペンの濃度(重量%)である。


    実施例12


    上記実施例8において、使用する無水塩化アルミニウムを和光純薬工業(株)製の市販品ものから、日本曹達(株)製の市販品に変更した以外は実施例8と同様の操作を行った。 反応液をGCにて分析した結果、1,1,1,3−テトラクロロプロパンの転化率は100%、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンへの選択率は96%であった。


    実施例13


    500mL4つ口ナスフラスコ中に、上記のように精製した純度99.5重量%の1,1,1,3−テトラクロロプロパン720g及び無水塩化アルミニウム(和光純薬工業(株)製)0.21gを仕込んだ。 液温を20℃に設定し、約1時間攪拌した。 液が青色になり、塩化アルミニウムの少なくとも一部が溶解したことを確認した。 このとき、反応溶液中の1,1,3−トリクロロプロペンの濃度(TCP濃度)は約1.1重量%であった。


    この時点から塩素供給を開始した。 先ず400mL/分の流速で4時間、次いで200mL/分の流速で30分間、塩素を順次に供給して反応を行った。 反応後の反応液をGCにて分析したところ、1,1,1,3−テトラクロロプロパンの転化率は99%であり、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンへの選択率は92%であった。


    実施例14


    500mL4つ口ナスフラスコ中に、、上記のように精製した純度99.5重量%の1,1,1,3−テトラクロロプロパン720g及び無水塩化アルミニウム(和光純薬工業(株)製)0.21gを仕込んだ。 液温を20℃に設定し、約1時間攪拌した。 液が青色になり、塩化アルミニウムの少なくとも一部が溶解したことを確認した。 このとき、反応溶液中の1,1,3−トリクロロプロペンの濃度は約1.2重量%であった。


    この時点から、更に30分追加で攪拌した。 追加撹拌後の反応液中の1,1,3−トリクロロプロペンの濃度は約10重量%であった。


    この時点から、塩素供給を開始した。 先ず400mL/分の流速で6時間、次いで200mL/分の流速で30分間、塩素を順次に供給して反応を行った。 反応後の反応液をGCにて分析したところ、1,1,1,3−テトラクロロプロパンの転化率は99%であり、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンへの選択率は90%であった。


    実施例15


    上記実施例14において、追加撹拌の時間と塩素の2段階供給の条件(流速及び時間)とをそれぞれ表3に記載のとおりとしたほかは実施例14と同様にして反応を行った。 反応後の反応液のGC分析結果を表3に示した。


    実施例16(参考例)


    上記実施例14において、追加撹拌の時間を表3に記載のとおりとし、塩素の供給を表3に記載の1段階供給としたほかは実施例14と同様にして反応を行った。 反応後の反応液のGC分析結果を表3に示した。


    上記実施例13~16を比較すると、塩素の供給開始時点が脱塩化水素反応が始まってからの時間が短いほど、その後の反応が早くなり、塩素供給開始からの反応時間が短くなり、且つ副反応が抑制され、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンの選択率が高くなることが分かる。 その上、脱塩化水素反応が始まってから24時間経過した場合、塩化アルミニウムは脱塩化水素触媒としてはほとんど働いていない。


    実施例17


    上記のように精製した純度99.5重量%の1,1,1,3−テトラクロロプロパン300gを水200gと混合し、分液ロートを用いて1,1,1,3−テトラクロロプロパンを取り出した。 この1,1,1,3−テトラクロロプロパンの水分は300ppmだった。


    200mL4つ口ナスフラスコ中に、この水分を300ppmを含む1,1,1,3−テトラクロロプロパン182g(全水分量3.0mmol)及び無水塩化アルミニウム(和光純薬工業(株)製)0.20g(1.5mmol)を仕込んだ。 塩化アルミニウムがこの量であれば、水分のすべてが塩化アルミニウムと反応して水酸化アルミニウムになったとしても、反応液中には0.5mmol相当の塩化アルミニウムが残存すると計算される。


    液温を20℃に設定し、1時間攪拌した。 液が青色になり、塩化アルミニウムの少なくとも一部が溶解したことを確認した。


    その後、液温を20℃に保ったまま、120mL/分の流速で塩素を供給した。 4時間後、塩素の供給を止め、反応液中に窒素を流通して塩素を追い出した。


    反応終了後の反応液をGCにて分析したところ、1,1,1,3−テトラクロロプロパンの転化率は100%であり、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンへの選択率は93%だった(収率93%)。


    比較例3(参考例)


    上記実施例17と同様に、200mL4つ口ナスフラスコ中に、この水分を300ppmを含む1,1,1,3−テトラクロロプロパン182g(全水分量3.0mmol)及び無水塩化アルミニウム(和光純薬工業(株)製)0.08g(0.6mmol)を仕込んだ。


    液温を20℃に設定して17時間攪拌した後、反応液をGCにて分析したところ、1,1,1,3−テトラクロロプロパンの1,1,3−トリクロロプロペンへの脱塩化水素反応は起こらず、その転化率は0%であった。


    上記の結果は、塩化アルミニウムが1,1,1,3−テトラクロロプロパン中の水と反応してすべて水酸化アルミニウムに変化してしまい、反応系中に実質的に塩化アルミニウムが存在しなくなったためであると考えられる。


    参考例1


    200mL4つ口ナスフラスコ中に、上記のように精製した純度99.5重量%の1,1,1,3−テトラクロロプロパン182g及び無水塩化アルミニウム(和光純薬工業(株)製)0.10gを仕込んだ。 液温を20℃に設定し、1時間攪拌した。 液が青色になり、塩化アルミニウムの少なくとも一部が溶解したことを確認した後、更に5時間撹拌を継続して反応を行った。


    その後、反応液中に窒素を流通して塩化水素を追い出した。


    反応液のGC分析によって1,1,1,3−テトラクロロプロパンの転化率を追跡したところ、1時間後に13%であり、3時間後に20%であり、そして5時間後に21%であった。


    実施例18


    (1)第1の変換工程 200mLの4つ口ナスフラスコ中に、上記のように精製した純度99.5重量%の1,1,1,3−テトラクロロプロパン182g及び無水塩化アルミニウム0.06gを仕込み、液温を20℃に設定して1時間攪拌した。 液が青色になり、塩化アルミニウムの少なくとも一部が溶解したことを確認した。


    次いで、塩素の供給を開始した。 先ず流速200mL/分で100分間、次いで100mL/分で40分間、さらに50mL/分で20分間供給した。 その後塩素の供給を止め、反応液中に窒素を流通して塩素を追い出した。


    反応液をGCにて分析したところ、1,1,1,3−テトラクロロプロパンの転化率は99%であり、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンへの選択率は96%であった。


    (2)第2の変換工程 この後、上記反応液を流速100mL/分の窒素で12時間パブリングした後、無水塩化アルミニウムを0.06g追加して、液温を100℃に設定して1時間加熱撹拌下に反応を行った。


    反応終了後の反応液をGCにて分析したところ、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンの転化率は98%であり、1,1,2,3−テトラクロロプロペンへの選択率は98%であった。


    実施例19


    (1)原料の製造工程 撹拌機、エチレン用ガス導入口、ガス排出口、四塩化炭素と鉄とのための添加口、リン酸エステルの添加口及び液体排出口を有するSUS製のオートクレーブ(内容積1,500mL)をエチレンで満たした。 このオートクレーブ中に四塩化炭素1,560g、リン酸トリエチル2.0g及びK100(JFEスチール(株)製、コークス還元鉄粉)4.0gを仕込み、温度を110℃に設定した後、気相の全圧が0.5MPa(abs)となるようにエチレンを供給して、四塩化炭素とエチレンとの付加反応を行った。 このとき、温度110℃、気相の全圧が0.5MPa(abs)になった時点から、リン酸トリエチルを0.02mL/分の速度で反応終了まで連続的に追加添加した。 なお、気相の全圧が0.5MPa(abs)となった直後の気相におけるエチレン分圧は0.25MPaであった。


    付加反応は、気相の全圧が0.5MPa(abs)を維持するようにエチレンを連続的に供給しつつ行った。 反応は、エチレンの消費速度(追加供給速度)をモニターしつつ行い、このエチレンの消費速度が四塩化炭素の初期量に対して0.1モル%/分(200mL/分)となった時点で反応が完了したものと判断し、反応を終了した。


    反応後の液を抜き出してGCで分析を行ったところ、四塩化炭素の転化率は97%であり、1,1,1,3−テトラクロロプロパンへの選択率は96%であった。


    (2)原料の製造工程後の精製工程 抜き出した反応液のうちの1,000gを1Lのフラスコに入れ、液温を90℃に設定し、圧力を10kPa(abs)に設定してバッチ蒸留を行った。 塔頂部に来た気体を冷却し、凝縮により910gの液体を回収した。 この回収液中には1,1,1,3−テトラクロロプロパンが約97重量%、四塩化炭素が約2重量%、その他の物質が約1重量%含まれていた。 回収液体中にリン酸トリエチルは検出されなかった。


    (3)第1の変換工程 200mL4つ口ナスフラスコ中に、1,1,1,3−テトラクロロプロパンを97重量%含有する上記回収液のうちの182g及び無水塩化アルミニウム(和光純薬工業(株)製)0.10gを仕込んだ。 液温を20℃に設定し、1時間攪拌した。 液が青色になり、塩化アルミニウムの少なくとも一部が溶解したことを確認した。


    その後、液温を20℃に保ったまま、流速120mL/分にて塩素の供給を開始し、反応を行った。 4時間後、塩素の供給を止め、反応液中に窒素を流通して塩素を追い出した。


    反応終了後の反応液をGCにて分析したところ、1,1,1,3−テトラクロロプロパンの転化率は100%であり、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンへの選択率は94%であった(第1の変換工程の収率94%)。


    なお原料の製造工程後と第1の変換工程後の四塩化炭素の量が計算上完全には合致しないが、これは四塩化炭素の蒸気圧が高いため完全には凝縮・回収しきれなかったことによる。 この差分は、排気トラップにおいて凝縮・回収された。


    実施例20


    実施例19と同様の方法により原料の製造工程を行い、1,1,1,3−テトラクロロプロパンを95重量%含有する反応液を得た。 この反応液のうちの1,000gを1Lのフラスコに入れ、圧力を10kPa(abs)に設定し、バッチ蒸留を行って1,1,1,3−テトラクロロプロパンより低沸点の物質及び高沸点の物質をいずれも取り除き、1,1,1,3−テトラクロロプロパンの純度を99.9重量%とした。 該1,1,1,3−テトラクロロプロパン中にはリン酸トリエチルは検出されなかった。


    この1,1,1,3−テトラクロロプロパンの182gを使用したほかは上記実施例19と同様にして、第1の変換工程を行った。


    反応終了後の反応液をGCにて分析したところ、1,1,1,3−テトラクロロプロパンの転化率は100%であり、1,1,1,2,3−ペンタクロロプロパンへの選択率は93%であった(第1の変換工程の収率93%)。

    発明の効果

    本発明の方法によれば、上記式(1)で示されるクロロプロパンを上記式(2)で示されるクロロプロパンへと変換する反応を1工程で行うことができる。 この工程は比較的低い反応温度で進行するから、反応に要するエネルギーが少なくてすむ。 しかも、目的のクロロプロパンの収率が高い。
    本発明の方法によれば、さらに、上記式(2)で示されるクロロプロパンを上記式(3)で示されるクロロプロペンへと変換する反応を、処理すべき廃液を実質的に生じずに行うことができる。 しかも、反応転化率及び目的生成物の選択率が高い。
    従って、本発明の方法は工業的に極めて有益である。

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