热词 | crti c50 crty w38a pbad puc v157a 酵素 異型 y81a | ||
专利类型 | 发明专利 | 法律事件 | |
专利有效性 | 有效专利 | 当前状态 | |
申请号 | JP2013519547 | 申请日 | 2012-06-08 |
公开(公告)号 | JP5987176B2 | 公开(公告)日 | 2016-09-07 |
申请人 | 国立大学法人 千葉大学; | 申请人类型 | 学校 |
发明人 | 梅野 太輔; 古林 真衣子; 三沢 典彦; 高市 真一; | 第一发明人 | 梅野 太輔 |
权利人 | 国立大学法人 千葉大学 | 权利人类型 | 学校 |
当前权利人 | 国立大学法人 千葉大学 | 当前权利人类型 | 学校 |
省份 | 当前专利权人所在省份: | 城市 | 当前专利权人所在城市: |
具体地址 | 当前专利权人所在详细地址:千葉県千葉市稲毛区弥生町1番33号 | 邮编 | 当前专利权人邮编: |
主IPC国际分类 | C12P5/02 | 所有IPC国际分类 | C12P5/02 ; C12N15/09 ; C12N9/00 ; C12N1/15 ; C12N1/19 ; C12N1/21 ; C12N5/00 ; C12P5/00 |
专利引用数量 | 0 | 专利被引用数量 | 0 |
专利权利要求数量 | 13 | 专利文献类型 | B2 |
专利代理机构 | 专利代理人 | 庄司 隆; 資延 由利子; 大杉 卓也; 曽我 亜紀; | |
权利要求 | 炭素数50のカロテノイドの製造方法であって、 変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子により形質転換された細胞を培地で培養し、培養後の培養物から炭素数50のカロテノイドを得ることを手段とし、 該変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子が、配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるフィトエン不飽和化酵素において変異が存する変異型フィトエン不飽和化酵素であって炭素数50のカロテノイド骨格化合物を不飽和化する活性の増強した変異型フィトエン不飽和化酵素をコードするよう変異が導入されたものであり、 ここで該変異は、少なくとも、配列番号1に記載のアミノ酸配列における304番目のアスパラギンのプロリンまたはセリンへの置換をもたらすものであることを特徴とする炭素数50のカロテノイドの製造方法。前記変異が、少なくとも、配列番号1に記載のアミノ酸配列における304番目のアスパラギンのプロリンまたはセリンへの置換をもたらす変異に加えて、配列番号1に記載のアミノ酸配列において339番目のフェニルアラニン、338番目のイソロイシン、395番目のアスパラギン酸、228番目のイソロイシンから選択されるいずれか1以上のアミノ酸の置換をもたらすものであることを特徴とする、請求項1に記載の炭素数50のカロテノイドの製造方法。前記変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子が、パントエア・アナナチス(Pantoea ananatis)由来のフィトエン不飽和化酵素遺伝子に変異を導入したことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の炭素数50のカロテノイドの製造方法。前記細胞が、大腸菌または酵母である、請求項1〜3のいずれか1に記載の炭素数50のカロテノイドの製造方法。変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子により形質転換された細胞がさらに、ゲラニルファルネシル二リン酸を二分子縮合することにより炭素数50のカロテノイド骨格化合物を合成する酵素をコードする遺伝子により形質転換されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1に記載の炭素数50のカロテノイドの製造方法。前記細胞がさらに、ファルネシル二リン酸および/またはゲラニルゲラニル二リン酸からゲラニルファルネシル二リン酸を合成する酵素をコードする遺伝子により形質転換されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1に記載の炭素数50のカロテノイドの製造方法。前記細胞がさらに、炭素数50のカロテノイド骨格化合物を不飽和化して得られた炭素数50の不飽和化カロテノイドの末端を環化する酵素をコードする遺伝子により形質転換されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1に記載の炭素数50のカロテノイドの製造方法。前記環化がβ環化であり、前記細胞がさらに、末端にβ環を有する炭素数50のカロテノイドにおいて、β環をヒドロキシル化する酵素および/またはβ環をケト化する酵素をコードする遺伝子により形質転換されていることを特徴とする、請求項7に記載の炭素数50のカロテノイドの製造方法。前記細胞がさらに、炭素数50のカロテノイド骨格化合物を不飽和化して得られた炭素数50の不飽和化カロテノイドを酸化する酵素をコードする遺伝子により形質転換されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1に記載の炭素数50のカロテノイドの製造方法。配列番号1に記載のアミノ酸配列で表されるフィトエン不飽和化酵素において変異が存する変異型フィトエン不飽和化酵素であって炭素数50のカロテノイド骨格化合物を不飽和化する活性の増強した変異型フィトエン不飽和化酵素をコードするような変異が導入された変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子であり、ここで該変異は、少なくとも、配列番号1に記載のアミノ酸配列における304番目のアスパラギンのプロリンまたはセリンへの置換をもたらすものであることを特徴とする、変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子。前記変異が、少なくとも、配列番号1に記載のアミノ酸配列における304番目のアスパラギンのプロリンまたはセリンへの置換をもたらす変異に加えて、配列番号1に記載のアミノ酸配列において339番目のフェニルアラニン、338番目のイソロイシン、395番目のアスパラギン酸、228番目のイソロイシンから選択されるいずれか1以上のアミノ酸の置換をもたらすものであることを特徴とする、請求項10に記載の変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子。請求項10または請求項11の変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子によりコードされていることを特徴とする、変異型フィトエン不飽和化酵素。請求項10または請求項11の変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子により形質転換されていることを特徴とする、炭素数50のカロテノイド骨格化合物を不飽和化して炭素数50のカロテノイドを製造し得る細胞。 |
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说明书全文 | 本発明は、変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子により形質転換された細胞を培地で培養する工程を含む、炭素数50のカロテノイドの製造方法に関する。 自然界には様々なカロテノイド(carotenoid)が存在する。現在までにおよそ750種類のカロテノイドが同定されており、その多くに、有用な生理機能や産業応用の可能性、例えば、抗酸化活性や抗腫瘍活性や、機能性色素分子としての用途が示されている。カロテノイドは、通常、炭素数が30または40のイソプレン骨格からなるテトラテルペンに分類される化合物である。自然界では基本となる炭素数30または40の直鎖状骨格の形成後に、環化などの種々の修飾が付与される。カロテノイドの構造多様性はかかる修飾の多様性に起因するものである。またカロテノイドは、修飾の多様性に基づく構造的差異により、生理活性が大きく変わることが知られている。 数多くのカロテノイドが、植物等の自然界からの単離・抽出や化学合成により得られているが、最近では、微生物発酵を利用した生産も行われている。自然界にごく微量にしか存在しない希少なカロテノイドや、自然界には存在が認められない非天然のカロテノイドの生合成経路を確立するため、多くの研究者によって研究がなされてきた(非特許文献1〜8、特許文献1)。非特許文献1〜6では、いわゆるコンビナトリアル生合成という手法に基づき合成することにより、種々の構造のカロテノイドが得られている。コンビナトリアル生合成とは、遺伝子工学的手法を用いて微生物の生合成経路を改変し、目的の化合物を微生物に生産させる技術である。種々の構造をカロテノイドに与える修飾酵素は、基質の一部のみを認識して作用するという「局所特異的(locally specific)な」特質を持つものであり、修飾基質のかかる特質に基づき、カロテノイドのコンビナトリアル生合成が行われている(非特許文献9)。一方、非特許文献7、8、11および特許文献1では、タンパク質工学を用いて創られた自然界には見いだされない酵素活性を使った代謝経路を構築するという方法で、種々の非天然カロテノイドの生合成を実現している。 前述のとおり、自然界に存在するカロテノイドは、炭素数30および炭素数40の骨格を持つ。前者は、ファルネシル二リン酸(C15PP)二分子を頭‐頭縮合させて合成される4,4'-ジアポフィトエンから派生するものである。後者は、ゲラニルゲラニル二リン酸(C20PP)二分子を頭‐頭縮合させて合成されるフィトエン(炭素数40のカロテノイド骨格化合物)から派生するものである。前者は、自然界に存在すると知られている10数種類のカロテノイドの生合成経路の要であり、後者は約700種類以上のカロテノイドの生合成経路の要となっている。 また、自然界には炭素数40よりも大きな炭素数50の骨格を持つカロテノイドが存在することも報告されている(特許文献2)。炭素数50の骨格を持つカロテノイドは、炭素数40のカロテノイドにイソプレンユニットを「あとづけ」で結合させて、総炭素数を45、50と増加させることにより合成される(非特許文献10)。炭素数40以上の骨格、例えば炭素数50や炭素数60の骨格の合成経路は、ゲラニルファルネシル二リン酸(C25PP)やヘキサプレニル二リン酸(C30PP)などを原料として合成される。炭素数40以上の骨格を持つカロテノイドは、従来とは異なる生理機能、色素機能などの多くの可能性が期待されるにも関わらず、自然界における合成経路についての詳細な報告はなく、人工的な生合成経路の報告もほとんどない。 本件の発明者の梅野は、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus:黄色ブドウ球菌)由来の炭素数30のカロテノイドの合成酵素(CrtM)を改変し、ゲラニルファルネシル二リン酸(C25PP)を二分子縮合して炭素数50のカロテノイド骨格化合物を合成する機能をもつ酵素を開発した。さらに梅野は、大腸菌(Escherichia coli)において当該酵素を適当な前駆体合成酵素とともに共発現させ、炭素数50のカロテノイド骨格化合物である16,16'-ジイソペンテニルフィトエンを生産させることに、世界で初めて成功した(非特許文献7)。しかし非特許文献7における合成経路では、炭素数50以外の炭素数30、炭素数40、炭素数45などの骨格を持つカロテノイドも共に合成されていた。この経路に野生型のフィトエン不飽和化酵素(フィトエンデサチュラーゼ)を追加しても、炭素数50のカロテノイド骨格化合物の約75%が不飽和化されずに残っており、合成効率の悪いものであった(非特許文献8)。 米国特許出願公開第2002/0051998号明細書 特開平7-132096号公開公報
Takaichi S. et al., Eur J Biochem 241, 291-6(1996) Yokoyama A. et al., Tetrahedron Lett. 39, 3709-12 (1998) Albrecht M. et al., Nat. Biotechnol. 18,843-6 (2000) Lee P. C. et al., Chem. Biol. 10, 453-462 (2003) Mijts B. N. et al., Chem. Biol. 12, 453-460 (2005) Umeno D. et al., Appl Environ Microbiol 69, 3573-3579 (2003) Umeno D. et al., J Bacteriol, 186, 1531-1536 (2004) Tobias A. V. et al., Biochim Biophys Acta, 1761, 235-246(2006) Umeno D. et al., Microbiol Mol Biol Rev 69, 51-78 (2005) Krubasik P. et al., Eur J Biochem 268, 3702-3708 (2001) Schmidt-Dannert C. et al., Nature Biotech. 18, 750-753(2000)
炭素数50のカロテノイドは炭素数40のカロテノイドに比べて、より大きな骨格を持つため、収容できる共役二重結合サイズが大きいという物質としての優位性を持つ。自然界における炭素数40カロテノイドの合成経路のように、炭素数50のカロテノイド骨格化合物を合成して不飽和化したものを得ることができれば、様々な修飾酵素と組み合わせることにより、多様な構造および生理活性を持つ炭素数50のカロテノイドを製造することができると考えられる。本発明の課題は、効率よく炭素数50のカロテノイド骨格化合物を不飽和化して、種々の炭素数50のカロテノイドを製造する方法を提供することである。 本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、フィトエン不飽和化酵素(フィトエンデサチュラーゼ:CrtI)に変異を導入した変異型フィトエン不飽和化酵素により、炭素数50のカロテノイド骨格化合物を効率よく不飽和化し得ることを見出し、変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子を導入した細胞を培養することにより、炭素数50のカロテノイドを効率よく簡便に合成し得ることに着目し、本発明を完成した。 即ち、本発明は以下に関する。 1.炭素数50のカロテノイドの製造方法であって、 変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子が、炭素数50のカロテノイド骨格化合物を不飽和化する活性の増強した変異型フィトエン不飽和化酵素をコードするよう変異が導入されたものであり、 変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子により形質転換された細胞を培地で培養し、培養後の培養物から炭素数50のカロテノイドを得ることを手段とする炭素数50のカロテノイドの製造方法。 2.変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子が、炭素数50のカロテノイド骨格化合物を不飽和化する活性の増強した変異型フィトエン不飽和化酵素をコードするような変異が導入されたものであり、該変異は、配列番号1に記載のアミノ酸配列において304番目のアスパラギン、339番目のフェニルアラニン、338番目のイソロイシン、395番目のアスパラギン酸、228番目のイソロイシンから選択されるいずれか1以上のアミノ酸に相当するアミノ酸の置換をもたらすものであることを特徴とする、前項1に記載の炭素数50のカロテノイドの製造方法。 3.変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子が、炭素数50のカロテノイド骨格化合物を不飽和化する活性の増強した変異型フィトエン不飽和化酵素をコードするような変異が導入されたものであり、該変異は、少なくとも、配列番号1における304番目のアスパラギンに相当するアミノ酸のプロリンまたはセリンへの置換をもたらすものであることを特徴とする、前項1または2に記載の炭素数50のカロテノイドの製造方法。 4.変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子が、炭素数50のカロテノイド骨格化合物を不飽和化する活性の増強した変異型フィトエン不飽和化酵素をコードするような変異が導入されたものであり、変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子が、パントエア・アナナチス(Pantoea ananatis)由来のフィトエン不飽和化酵素遺伝子に変異を導入したことを特徴とする、前項1〜3のいずれか1に記載の炭素数50のカロテノイドの製造方法。 5.前記細胞が、大腸菌または酵母である、前項1〜4のいずれか1に記載の炭素数50のカロテノイドの製造方法。 6.変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子により形質転換された細胞がさらに、ゲラニルファルネシル二リン酸を二分子縮合することにより炭素数50のカロテノイド骨格化合物を合成する酵素をコードする遺伝子により形質転換されていることを特徴とする、前項1〜5のいずれか1に記載の炭素数50のカロテノイドの製造方法。 7.前項1〜6のいずれか1に記載の細胞がさらに、ファルネシル二リン酸および/またはゲラニルゲラニル二リン酸からゲラニルファルネシル二リン酸を合成する酵素をコードする遺伝子により形質転換されていることを特徴とする、前項1〜6のいずれか1に記載の炭素数50のカロテノイドの製造方法。 8.前項1〜7のいずれか1に記載の細胞がさらに、炭素数50のカロテノイド骨格化合物を不飽和化して得られた炭素数50の不飽和化カロテノイドの末端を環化する酵素をコードする遺伝子により形質転換されていることを特徴とする、前項1〜7のいずれか1に記載の炭素数50のカロテノイドの製造方法。 9.前項8に記載の環化がβ環化であり、前項8に記載の細胞がさらに、末端にβ環を有する炭素数50のカロテノイドにおいて、β環をヒドロキシル化する酵素および/またはβ環をケト化する酵素をコードする遺伝子により形質転換されていることを特徴とする、前項8に記載の炭素数50のカロテノイドの製造方法。 10.前項1〜7のいずれか1に記載の細胞がさらに、炭素数50のカロテノイド骨格化合物を不飽和化して得られた炭素数50の不飽和化カロテノイドを酸化する酵素をコードする遺伝子により形質転換されていることを特徴とする、前項1〜7のいずれか1に記載の炭素数50のカロテノイドの製造方法。 11.炭素数50のカロテノイド骨格化合物を不飽和化する活性の増強した変異型フィトエン不飽和化酵素をコードするような変異が導入されたことを特徴とする、変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子。 12.炭素数50のカロテノイド骨格化合物を不飽和化する活性の増強した変異型フィトエン不飽和化酵素をコードするような変異が、配列番号1に記載のアミノ酸配列において304番目のアスパラギン、339番目のフェニルアラニン、338番目のイソロイシン、395番目のアスパラギン酸、228番目のイソロイシンから選択されるいずれか1以上のアミノ酸に相当するアミノ酸の置換をもたらすものであることを特徴とする、前項11に記載の変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子。 13.前項11または12に記載の変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子の変異が少なくとも、配列番号1における304番目のアスパラギンに相当するアミノ酸のプロリンまたはセリンへの置換をもたらすものであることを特徴とする、変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子。 14.前項11〜13のいずれか1に記載の変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子によりコードされていることを特徴とする、変異型フィトエン不飽和化酵素。 15.前項11〜13のいずれか1に記載の変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子により形質転換されていることを特徴とする、炭素数50のカロテノイド骨格化合物を不飽和化して炭素数50のカロテノイドを製造し得る細胞。 本発明の製造方法によれば、炭素数50のカロテノイド骨格化合物を効率よく不飽和化することができ、多様な構造を持つ炭素数50のカロテノイドを製造することができる。野生型フィトエン不飽和化酵素を含むいくつかの酵素では、炭素数50のカロテノイド骨格化合物に対して最大で数%程度の不飽和化効率しか示さなかったが、本発明の製造方法によれば飛躍的に不飽和化効率が上昇した。このため炭素数50の不飽和化カロテノイドを下流の修飾酵素に受け渡すことが可能となり、多様な炭素数50のカロテノイドが製造可能となった。 カロテノイドは、酸素等を含まない炭素数40(ある種の細菌では炭素数30)のカロテノイド骨格化合物が酸素添加等の種々の修飾を受けることにより多様な構造を獲得している。自然界の最も主要なカロテンはβ環をもつβ-カロテンであり、自然界にはβ環を修飾する種々の酵素が存在している。本発明の製造方法によれば、β環をもつ炭素数50カロテノイドを合成することが可能である。さらに種々のβ環を修飾する酵素を用いることにより、多様なカロテノイドの生産が可能になる。 本発明の製造方法により製造された炭素数50のカロテノイドは、従来カロテノイドに比べて抗酸化機能が向上している可能性や、色素としての色域が従来報告されていない範囲まで拡張したものである可能性、分解代謝されにくい性質を有する可能性などが期待される。 また本発明の製造方法によれば、培地や培養条件は一般的なものを用いることができるため、炭素数50のカロテノイドを簡便に合成することが可能である。 さらに本発明の製造方法を利用することにより、不飽和化C55カロテノイドや不飽和化C60カロテノイドなどの高効率な合成を実施することができる。 カロテノイド生合成に関連する酵素の機能と生合成経路を表す図である。各矢印の横に該当する反応を触媒する酵素の略称を示す。また、化合物名の後ろに括弧書きで示す数字は、図6のHPLC解析のピークの番号と対応している。 実施例1〜6および参考例1および2において使用したプラスミドのマップを示す図である。(a)は、pAC-fds Y81A,V157A-crtM F26A,W38A,F233Sである。pACmodベクターに lacプロモータ/オペレータ( lacPO)- crtM F26A,W38A,F233Sと lacプロモータ/オペレータ( lacPO)- fds Y81A,
V157Aを挿入することによって作製した。(b)は、pUC-pBAD-crtI *である。pUC18Nmベクターの lacプロモータ/オペレータを取り除き、 araC遺伝子/ araBADプロモータ配列(pBADHisAベクター由来)を挿入し、プロモータ下流に変異型 crtI( crtI *)を挿入することによって作製した。(c)は、pUC-pBAD-crtI *-crtYである。pUC-pBAD-crtI *の変異型 crtIの下流に crtYを挿入することによって作製した。(d)は、pUC-pBAD-crtI *-crtWZYである。pUC-pBAD-crtI *の変異型 crtIの下流に crtW、 crtZ、 crtYを挿入することによって作製した。(e)は、pUC-pBAD-crtI *-crtAである。pUC-pBAD-crtI *の変異型 crtIの下流に crtAを挿入することによって作製した。(f)は、pUC-fds Y81A,V157Aである。pUC18Nmベクターの lacPO下流に fds Y81A,V157A遺伝子を挿入することによって作製した。(g)は、pAC-crtM F26A,W38A,F233Sである。pACmodベクターのBamHIサイトに lacPO- crtM F26A,W38A,F233Sを挿入することによって作製した。(h)は、pAC-crtM F26A,W38A,F233S-idiである。pAC-crt MF26A,W38A,F233SのClaIサイト上流に lacPO- idiを挿入することによって作製した。 FDS Y81A, V157AとCrtM F26A, W38A, F233Sにより構築された代謝経路においてIdiを共発現させた場合の、C 50カロテノイド骨格化合物の合成量を示す(実施例1)。「 idiなし」および「 idiあり」は、各種遺伝子により形質転換した大腸菌について、アセトン抽出液のHPLC分析から得たC 35カロテノイド骨格を有する化合物(35)、C 40カロテノイド骨格を有する化合物(40)、C 45カロテノイド骨格を有する化合物(45)、C 50カロテノイド骨格を有する化合物(50)の合成量を表す。具体的には図3中、「35」は4-アポフィトエン、「40」はフィトエン、「45」は16-イソペンテニルフィトエン、「50」はC 50-カロテン(n=3)である。 炭素数50のカロテノイド骨格化合物を効率的に不飽和化し得る変異型フィトエン不飽和化酵素のスクリーニングについて示した図である(実施例2)。(a)はスクリーニング実験系の操作概略であり、(b)はスクリーニングの原理を示す。 スクリーニングにより得られた8個のコロニーのうち6個について、(a)アセトン抽出液の実際の色と、(b)アセトン抽出液の吸収スペクトルを表す図である(実施例3)。CrtEBIとはコントロールであり、パントエア・アナナチス( Pantoea ananatis)由来の crtE、 crtB、 crtIを含むプラスミドpAC-EBIにより形質転換した大腸菌である。WT(またはCrtIwt)は、野生型 crtIにより形質転換したもの、mut1、mut2、mut8、mut4、mut6は、各々CrtI-m1、CrtI-m2、CrtI-m8、CrtI-m4、CrtI-m6のコロニーの結果を示す。なお、これらの形質転換した大腸菌はリコペンを合成している。 pAC-fds Y81A,V157A-crtM F26A,W38A,F233Sと各種プラスミドにより大腸菌を共形質転換して培養した場合に製造されたカロテノイドについて、HPLC解析を行った結果を示す図である(実施例3〜6)。(a)〜(h)は各種プラスミドを導入した場合のHPLC解析から得られたクロマトグラムを示す図である。(i)は各ピークを形成する化合物の吸収スペクトルを示す図である。(i)において右端の数値はクロマトグラムのピークの番号に該当し、3桁の数値は最大吸収波長の値である。 CrtIとCrtYの協働によるβ環化カロテノイド合成結果を示す図であり、各種遺伝子が導入された細胞を0〜48時間培養したときのコロニー色を示す写真である(実施例4)。CrtIは、野生型 crtIを大腸菌に導入した場合であり、CrtIYは野生型 crtIと crtYの両方を大腸菌に導入した場合であり、CrtI 2は、CrtI-m2に由来する変異型 crtIを大腸菌に導入した場合であり、CrtI 2Yは、CrtI-m2に由来する変異型 crtIと crtYの両方を大腸菌に導入した場合である。なお各大腸菌にはpAC- fds Y81A,V157A- crtM F26A,W38A,F233Sが導入されている。 (a)CrtIとCrtW、CrtZ、CrtYの協働、および(b)CrtIとCrtAの協働によるカロテノイド合成結果を示す図である(実施例5)。(a)および(b)は、各種遺伝子により形質転換した大腸菌について、アセトン抽出液の吸収スペクトルを表す図であり、(c)は同様の場合について細胞ペレット(上段)とアセトン抽出液(下段)の実際の色を示す写真である。CrtI *はCrtI-m2に由来する変異型 crtIを大腸菌に導入したことを表す。 (a)C 50-カロテン(n=3)、(b)C 50-リコペン(n=15)、(c)C 50-β-カロテンの吸収スペクトルを示す図である(実施例3および4)。 CrtI-m2およびCrtI N304PによるC 50-カロテン(n=3)、C 50-リコペン、およびC 50-β-カロテンの合成量をHPLCによって解析した結果を示す図である(実施例7)。(a)、(b)、(c)、(d)、および(e)はそれぞれ、pUC-pBAD-CrtIで形質転換した大腸菌、pUC-pBAD-CrtI-m2で形質転換した大腸菌、pUC-pBAD-CrtI N304Pで形質転換した大腸菌、pUC-pBAD-CrtI-m2-CrtYで形質転換した大腸菌、およびpUC-pBAD-CrtI N304P-CrtYで形質転換した大腸菌についての結果である。(a)ではC 50-カロテン(n=3)のみが合成され、(b)および(c)ではC 50-カロテン(n=3)とC 50-リコペンが合成され、(d)および(e)ではC 50-カロテン(n=3)とC 50-β-カロテンが合成されている。 実施例8および9において使用したプラスミドのマップを示す図である。当該プラスミドは、ブレバンディモナス( Brevundimonas)属SD-212株由来のCrtWおよび/またはCrtZを含むものである。(i)は、pUC-pBAD-CrtI N304P-CrtY-CrtW BD-CrtZ BDである。(j)は、pUC-pBAD-CrtI-m2-CrtY-CrtW BDである。(k)は、pUC-pBAD-CrtI-m2-CrtY-CrtZ BDである。(l)は、pAC-crtM F26A,W38A,F233S-fds Y81A,V157A-idiである。 ブレバンディモナス属SD-212株由来のCrtWおよび/またはCrtZを含む各種プラスミドとpAC-crtM F26A,W38A,F233S-fds Y81A,V157Aとを大腸菌に形質転換して培養した場合に製造された、C50-ゼアキサンチン、C50-カンタキサンチン、およびC50-アスタキサンチンについて、HPLC解析を行った結果を示す図である(実施例8)。(a)、(b)、および(c)はそれぞれ、pAC-crtM F26A,W38A,F233S-fds Y81A,V157Aと、pUC-pBAD-CrtI-m2-CrtY-CrtZ BD、pUC-pBAD-CrtI-m2-CrtY-CrtW BD、およびpUC-pBAD-CrtI N304P-CrtY-CrtW BD-CrtZ BDとを形質転換した結果を示す。図中の数字1、2、および3はそれぞれC50-ゼアキサンチン、C50-カンタキサンチン、およびC50-アスタキサンチンのピークを示し、ダッシュ(プライム)のついた数字はそれらのシスピークを示す。 pUC-pBAD-CrtI N304P-CrtY-CrtW BD-CrtZ BDとpAC-crtM F26A,W38A,F233S-fds Y81A,V157Aとを形質転換した大腸菌におけるC50-アスタキサンチンの合成量が、idiを共発現させることにより著しく増加したことを示す図である(実施例9)。(a)はidiを共発現させなかった時の結果、すなわちpAC-crtM F26A,W38A,F233S-fds Y81A,V157AとpUC-pBAD-CrtI N304P-CrtY-CrtW BD-CrtZ BDとを形質転換した大腸菌におけるC50-カロテン(n=3)およびC50-アスタキサンチンの合成量を示す。(b)はidiを共発現させた時の結果、すなわちpAC-crtM F26A,W38A,F233S-fds Y81A,V157A-idiとpUC-pBAD-CrtI N304P-CrtY-CrtW BD-CrtZ BDとを形質転換した大腸菌におけるC50-カロテン(n=3)およびC50-アスタキサンチンの合成量を示す。 pUC-pBAD-CrtI N304P-CrtY-CrtW BD-CrtZ BDとpAC-crtM F26A,W38A,F233S-fds Y81A,V157Aとを形質転換した大腸菌において合成された化合物がC50-アスタキサンチンであることをNMR解析により同定した結果を示す図である(実施例10)。 実施例11において使用したプラスミドのマップを示す図である。当該プラスミドは、ブレバンディモナス属SD-212株由来のCrtWおよび/またはCrtZに加え、ブレバンディモナス属SD-212株由来のCrtGまたはパントエア・アナナチス由来のCrtXを含むものである。(m)は、pUC-pBAD-CrtI N304P-CrtY-CrtG-CrtZ BDである。(n)は、pUC-pBAD-CrtI N304P-CrtY-CrtG-CrtW BD-CrtZ BDである。(o)は、pUC-pBAD-CrtI N304P-CrtY-CrtX-CrtZ BDである。(p)は、pUC-pBAD-CrtI N304P-CrtY-CrtX-CrtW BD-CrtZ BDである。 カロテノイド生合成経路において、CrtGをさらに発現させることより、さらに多様なカロテノイドを生産できることを説明する図である(実施例11)。CrtGのさらなる発現により、C 50-アスタキサンチンからC 50-2-ヒドロキシアスタキサンチン(Hydroxyastaxanthin)およびC 50-2,3,2’,3’-テトラヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4'-ジオンが生産される。C 50-ゼアキサンチンからはC 50-カロキサンチン(Caloxanthin)およびC 50-ノストキサンチン(Nostoxanthin)が生産される。また、C 50-カンタキサンチンからC 50-2-ヒドロキシカンタキサンチン(Hydroxycanthaxanthin)およびC 50-2,2'-ジヒドロキシカンタキサンチン(Dihidroxycanthaxanthin)が生産される。 カロテノイド生合成経路において、CrtXをさらに発現させることより、さらに多様なカロテノイドを生産できることを説明する図である(実施例11)。CrtXのさらなる発現により、C 50-アスタキサンチンからC 50-アスタキサンチン-β-D-グルコシドおよびC 50-アスタキサンチン-β-D-ジグルコシドが生産される。C 50-ゼアキサンチンからはC 50-ゼアキサンチン-β-D-グルコシドおよびC 50-ゼアキサンチン-β-D-ジグルコシドが生産される。 C50-ゼアキサンチンおよびC50-アスタキサンチンを特異的に合成する大腸菌株へのCrtGまたはCrtXの追加発現により多様なカロテノイドを生産できたことを、コロニーーの色、細胞ペレットの色、およびカロテノイド抽出液の色により確認した結果を示す図である(実施例11)。 C50-ゼアキサンチンおよびC50-アスタキサンチンを特異的に合成する大腸菌株へのCrtGまたはCrtXの追加発現により得たカロテノイド抽出液の吸収スペクトルを測定した結果を示す図である(実施例11)。 C50-ゼアキサンチンを特異的に合成する大腸菌株へのCrtGまたはCrtXの追加発現により生産されたカロテノイドをHPLCによって解析した結果を示す図である(実施例11)。図中、(b)はCrtGの追加発現により、C50-カロキサンチン(C50-Caloxanthin、ピーク3)およびC50-ノストキサンチン(C50-Nostoxanthin、ピーク2)が生産されたことを示す。(c)はCrtXの追加発現により、C50-ゼアキサンチン-β-D-ジグルコシド(C50-Zeaxanthin-β-D-diglucoside、ピーク5)が生産されたことを示す 実施例12において使用したプラスミドのマップを示す図である。(q)は、pAC-hexPSである。(r)は、pAC-FDS I78G,Y81A-idiである。(s)は、pUC-CrtM F26A, W38A, F233Sである。 C 55カロテノイドおよびC 60カロテノイドを生合成した結果を示す図である(実施例12)。CrtM F26A,W38A,F233SとpAC-FDS I78G,Y81A-idiとを共発現した場合は、C 45およびC 50カロテノイドに加えてC 55カロテノイドを生産した。また、CrtM F26A,W38A,F233SとhexPSとを共発現した場合はC 60カロテノイドを特異的に合成した。一方で、CrtM F26A,W38Aを用いた場合は、C 55カロテノイドおよびC 60カロテノイドの生産がいずれも確認できなかった。 AC-FDS I78G,Y81A-idiまたはpAC-hexPSを、8種類のCrtM変異体(CrtM variants;pUC-CrtM変異体)と共発現させて、そのカロテノイド合成量を測定した結果を示す図である(実施例12)。FDS I78G,Y81A-idiおよびCrtM F26A,F233SまたはCrtM F26A,W38A,F233Sを共発現させた細胞で、C 55カロテノイドがより多く合成された。また、HexPSおよびCrtM W38A,F233SまたはCrtM F26A,W38A,F233Sを共発現させた細胞で、C 60カロテノイドがより多く合成された。
まずカロテノイドの生合成経路について説明する(図1参照)。カロテノイドは、自然界ではメバロン酸またはピルビン酸から生合成される。まず、メバロン酸経路または非メバロン酸経路(図1、MEP経路)によりイソペンテニル二リン酸(以下「IPP」とも称する)およびIPPが異性化した化合物であるジメチルアリル二リン酸(以下「DMAPP」とも称する)が合成される。次に、IPPと、DMAPPが縮合してゲラニル二リン酸(以下「C10PP」とも称する)が合成され、さらに2つのIPPが順次付加されることで、ファルネシル二リン酸(以下「C15PP」とも称する)やゲラニルゲラニル二リン酸(以下「C20PP」とも称する)が合成される。C15PPは、ファルネシル二リン酸合成酵素(ファルネシル二リン酸シンターゼ)により合成され、C20PPは、ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素により合成される。 炭素数40のカロテノイドを合成する経路では、フィトエン合成酵素(CrtB)により、二分子のC20PPが縮合されてフィトエンが合成され、これがカロテノイドの前駆物質(カロテノイド骨格化合物)となる。 フィトエンが、順次不飽和されることにより、フィトフルエン、ζ−カロテン、ニューロスポレン、リコペン、テトラデヒドロリコペン等が合成される。リコペンの末端が環化や酸化されて修飾を受けることにより、α‐カロテン、β‐カロテン、γ‐カロテン、δ‐カロテン、ε‐カロテン 、ルテイン、ゼアキサンチン、カンタキサンチン、フコキサンチン、アスタキサンチン、アンテラキサンチン、ビオラキサンチン等の種々のカロテノイドが合成される。なお、炭素と水素のみで構成されているカロテノイドはカロテン類、炭素と水素以外に酸素元素も含むものはキサントフィル類に分類される。 本発明は、自然界に存在するカロテノイドの生合成経路を改変して炭素数50のカロテノイドを製造することを可能としたものであり、変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子により形質転換された細胞を培地で培養し、培養後の培養物から炭素数50のカロテノイドを得ることを手段とする、炭素数50のカロテノイドの製造方法を対象とするものである。なお、本明細書においては「炭素数50」を単に「C50」と表す場合もあり、炭素数35、40、45、55、60等においても同様とする。 本明細書において「炭素数50のカロテノイド」は、変異型フィトエン不飽和化酵素により不飽和化される「炭素数50のカロテノイド骨格化合物」とは区別され、炭素数50のカロテノイド骨格化合物が不飽和化されて二重結合が1以上増加した化合物を指す。炭素数50のカロテノイドは、いかなる修飾を受けていてもよく、例えば末端にβ環やε環を有しているもの、ヒドロキシル基やケト基などの炭素と水素以外の元素を含む官能基を有するものも含まれる。また炭素数50のカロテノイドは骨格化合物に由来する炭素原子の数が50であればよく、例えば修飾によりメチル基やアセチル基などの炭素を含む官能基を付加された結果、総炭素数が50以上となったものも含まれる。 「炭素数50のカロテノイド骨格化合物」は、炭素数50のカロテノイドの前駆物質であり変異型フィトエン不飽和化酵素によって不飽和化され得るものである。炭素数50のカロテノイド骨格化合物は具体的には、C50-カロテン(n=3)(16,16'−ジイソペンテニルフィトエン)、および、C50-カロテン(n=3)において共役二重結合が1〜5個増加した化合物である。C50-カロテン(n=3)において二重結合が1〜5個増加した化合物とは具体的には、二重結合が1個増加したC50-カロテン(n=5)、2個増加したC50-カロテン(n=7)、図1中のC50-ζ-カロテン(n=11)、C50-ニューロスポレン(n=13)等である。なお本明細書において化合物の慣用名の後ろなどに記載しているnは、共役二重結合の数を表す。 本明細書においては、変異型フィトエン不飽和化酵素により不飽和化されているが、その後の修飾を受けていないものを、「炭素数50の不飽和化カロテノイド」と称する。炭素数50の不飽和化カロテノイドは直鎖状の化合物であり、骨格化合物に由来するもの以外の官能基を有さないものである。炭素数50の不飽和化カロテノイドは、炭素数50のカロテノイドに包含される。炭素数50の不飽和化カロテノイドは具体的には、C50-カロテン(n=3)において二重結合が1〜6個増加した化合物であり、C50-カロテン(n=3)自体は含まない。なお、C50-カロテン(n=3)において二重結合が6個増加したものは、C50-リコペン(n=15)である。 また本明細書において、炭素数50のカロテノイド、炭素数50のカロテノイド骨格化合物、炭素数50の不飽和化カロテノイドなどを全て含む概念として、「炭素数50のカロテノイド骨格を有する化合物」という用語を使用する場合もある。 炭素数50のカロテノイド骨格化合物を不飽和化する反応を触媒する変異型フィトエン不飽和化酵素は、野生型フィトエン不飽和化酵素(CrtI)に変異が導入されたものである。フィトエン不飽和化酵素(CrtI)は、炭素数40のフィトエンを不飽和化する酵素であり、自然界においては、3個の共役二重結合を包含するフィトエンを不飽和化して順次二重結合を導入し、11個の共役二重結合を包含したリコペンを合成する反応を触媒する。本発明における変異型フィトエン不飽和化酵素は、変異が導入されたことによって、C50のカロテノイド骨格化合物を不飽和化する活性が野生型フィトエン不飽和化酵素に比べて増強したものである。 本発明における変異型フィトエン不飽和化酵素は、変異によりC50のカロテノイド骨格化合物を不飽和する活性が増強されているものであれば、植物、細菌等を含むいかなる生物由来のものであってもよい。変異型フィトエン不飽和化酵素は、好ましくは微生物由来であり、さらに好ましくはパントエア(Pantoea)属(旧名エルビニア(Erwinia)属)に属する細菌由来であり、より好ましくはパントエア・アナナチス(Pantoea ananatis;旧名エルビニア・ウレドボラ(Erwinia uredovora)、イネ内穎褐変病菌)由来である。パントエア・アナナチス由来の野生型フィトエン不飽和化酵素(CrtI)のアミノ酸配列を、配列表の配列番号1に示す。 本発明において、変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子(crtI*)は変異型フィトエン不飽和化酵素をコードするものである。変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子における変異は、本発明の目的を達成するものであればいかなるものであってもよい。好ましくは当該変異は、配列番号1に記載のアミノ酸配列において304番目のアスパラギン、339番目のフェニルアラニン、338番目のイソロイシン、395番目のアスパラギン酸、228番目のイソロイシンから選択されるいずれか1以上のアミノ酸に相当するアミノ酸の置換をもたらすものであり、より好ましくは、少なくとも、配列番号1における304番目のアスパラギンに相当するアミノ酸のプロリンまたはセリンへの置換をもたらすものである。さらに好ましくは、少なくとも、配列番号1における304番目のアスパラギンに相当するアミノ酸のプロリンへの置換をもたらすものである。ここで「配列番号1におけるX番目のアミノ酸に相当するアミノ酸」とは、変異の対象となるアミノ酸が配列番号1においてN末端から数えてX番目であることを特定したものであるが、配列番号1に示すアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を有するフィトエン不飽和化酵素においては、X番目とはならず、異なる数値として表現されることを包含するものである。 変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子としては、具体的には、パントエア・アナナチス由来のフィトエン不飽和化酵素遺伝子(配列表の配列番号2に示す塩基配列)に、所望のアミノ酸置換をもたらす変異を導入した塩基配列が例示される。例えば変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子としては、配列番号2の塩基配列において911番目のアデニン(A)がグアニン(G)に置換している配列番号3の塩基配列を持つ遺伝子が例示される。当該911番目の塩基の置換により、配列番号1のアミノ酸配列の304番目のアスパラギンのセリンへの置換がもたらされる。なお配列番号2には、G1131A、A1476Tのノンシノニマス変異が入っている。また、例えば変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子としては、配列番号2の塩基配列において910〜912番目の塩基配列AACがCCT、CCC、CCA、CCG、より好ましくはCCTに置換している塩基配列を持つ遺伝子(配列表の配列番号28に示す塩基配列)が例示される。かかる塩基の置換により、配列番号1のアミノ酸配列の304番目のアスパラギンのプロリンへの置換がもたらされる(配列表の配列番号27に示すアミノ酸配列)。なお配列番号28には、G1131A、A1476Tのノンシノニマス変異が入っている。 変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子は、変異型遺伝子のライブラリを作製し、ライブラリから、目的の機能を持つ酵素をコードする遺伝子をスクリーニングし、塩基配列を決定することができる。スクリーニングは例えば実施例に記載の方法により行うことができる。塩基配列が一旦決定されれば、変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子は、化学合成、クローニングされたプローブを鋳型としたPCR、部位特異的突然変異誘発法等によって得ることができる。 本発明は、変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子により形質転換される細胞を培地で培養する工程を含むが、当該細胞はもともと他のカロテノイド生合成遺伝子を有するものであってもよいし、他のカロテノイド生合成遺伝子を形質転換されたものであってもよい。他のカロテノイド生合成遺伝子は、C50カロテノイド骨格化合物を不飽和化する反応の上流または下流の反応に関連するものである。上流の反応は、C50カロテノイド骨格化合物を供給する経路に該当し、下流の反応は、C50不飽和化カロテノイドをさらに修飾する経路に該当する。 C50のカロテノイド骨格化合物を供給する経路について説明する。IPP、DMAPP、C10PP、C15PP、C20PPは、多くの細胞、特に全ての微生物において、もともと合成が可能である。本発明における細胞は、C15PPおよび/またはC20PPからのゲラニルファルネシル二リン酸(以下「C25PP」とも称する)の合成、さらにC25PP二分子を縮合させることによるC50カロテノイド骨格化合物の合成を行うことができることが好ましい。さらに好ましくは本発明における細胞は、C15PPおよび/またはC20PPからC25PPを合成する酵素をコードする遺伝子、C25PPを二分子縮合させることによりC50のカロテノイド骨格化合物を合成する酵素をコードする遺伝子の少なくとも1以上により、形質転換されたものである。 C15PPおよび/またはC20PPからC25PPを合成する酵素をコードする遺伝子は、目的とする機能を有する遺伝子であればいかなるものであってもよい。かかる遺伝子として例えば、ゲオバチルス(Geobacillus)属の中度好熱性細菌であるゲオバチラス・ステアロサーモフィルス(Geobacillus stearothermophillus)由来のファルネシル二リン酸合成酵素(FDS)の変異型遺伝子が例示される(Ohnuma, S. et al., J Biol Chem 271,30748-30754 (1996)、特願2010-258989)。当該変異型遺伝子として、81番目のチロシンがアラニンに置換(Y81A)し、かつ157番目のバリンがアラニンに置換(V157A)しているFDSの二重変異体(FDSY81A, V157A)をコードする遺伝子が挙げられる(fdsY81A, V157A:配列表の配列番号4)。 C25PPを二分子縮合させることによりC50のカロテノイド骨格化合物を合成する酵素をコードする遺伝子は、目的とする機能を有する遺伝子であればいかなるものであってもよい。かかる遺伝子として例えば、C15PPを二分子縮合させてC30カロテノイド骨格化合物を合成する、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来のジアポフィトエン合成酵素(CrtM)の変異型遺伝子が例示される。当該変異型遺伝子として26番目のフェニルアラニンと38番目のトリプトファンがアラニンに置換(F26A、W38A)し、かつ233番目のフェニルアラニンがセリンに置換(F233S)しているCrtMの三重変異体(CrtMF26A,W38A,F233S)をコードする遺伝子が挙げられる(crtMF26A,W38A,F233S:配列表の配列番号5)。CrtMF26A,W38A,F233Sは、きわめて効率的にC50カロテノイド骨格化合物を合成することがわかってきている。 本発明の細胞に、C15PPおよび/またはC20PPからC25PPを合成する酵素をコードする遺伝子と、C25PP二分子からC50のカロテノイド骨格化合物を合成する酵素をコードする遺伝子の両方を形質転換させた場合は、C50カロテノイド骨格化合物を高効率で生産することができ、好ましい。さらに、これらの遺伝子に加えて、IPPをDMAPPに異性化する酵素(例えば、イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ(Idi))をコードする遺伝子(idi)により、本発明の細胞を形質転換してもよい。IPPをDMAPPに異性化する酵素をコードする遺伝子を細胞に形質転換することにより、C50カロテノイド骨格化合物の生産量と特異性をさらに向上させることができる。 C50不飽和化カロテノイドをさらに修飾する経路について説明する。C50不飽和化カロテノイドは、自然界におけるリコペンやテトラデヒドロリコペンに相当すると考えられ、リコペンの修飾に関連する種々の酵素によりC50不飽和化カロテノイドを修飾し得ると予測される。本発明における細胞は、C50の不飽和化カロテノイドの末端を環化する酵素をコードする遺伝子、および/またはC50の不飽和化カロテノイドを酸素添加して酸化する酵素をコードする遺伝子を含んでいてもよい。さらに本発明における細胞が、C50の不飽和化カロテノイドの末端を環化(特にβ環化)する酵素をコードする遺伝子を有する場合、当該細胞は、環状部分(特にβ環)をヒドロキシル化する酵素をコードする遺伝子、および/または環状部分(特にβ環)をケト化する酵素をコードする遺伝子により形質転換されていてもよい。なお、β環はβ-イオノン環と同義である。 C50の不飽和化カロテノイドの末端を環化する酵素をコードする遺伝子は、目的とする機能を有する遺伝子であればいかなるものであってもよい。かかる遺伝子として例えば、パントエア・アナナチス由来のリコペンからβ−カロテンを合成するリコペン環化酵素(CrtY)をコードする遺伝子(crtY)が例示される(Misawa N. et al., J Bacteriol 172, 6704-6712 (1990))。 末端がβ環化されたカロテノイドにおいて、β環をヒドロキシル化する酵素をコードする遺伝子、および/またはβ環をケト化する酵素をコードする遺伝子は、目的とする機能を有する遺伝子であればいかなるものであってもよい。かかる遺伝子として例えば、海洋細菌パラコッカス(Paracoccus)属N81106株(旧名アグロバクテリウム・アウランティアクム(Agrobacterium aurantiacum))由来、または、海洋細菌ブレバンディモナス(Brevundimonas)属SD-212株由来の、β-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼ(CrtZ)遺伝子(crtZ)、β-イオノン環-4-ケトラーゼ(β-イオノン環-4-オキシゲナーゼ)(CrtW)遺伝子(crtW)(Misawa N. et al., J Bacteriol 177, 6575-6584 (1995); Nishida, Y. et al., Appl Environ Microbiol 71, 4286-4296 (2005))が例示される。パラコッカス属N81106株由来のcrtZ、crtW、前述のcrtYの結合した塩基配列を、配列番号6に示す。β-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼは、β環の3位炭素をヒドロキシル化する反応を触媒するものであり、β-イオノン環-4-ケトラーゼは、β環の4位炭素に酸素添加してカルボニル基(ケト基)を形成する反応を触媒するものである。 C50の不飽和化カロテノイドを酸化する酵素をコードする遺伝子は、目的とする機能を有する遺伝子であればいかなるものであってもよい。かかる遺伝子として例えば、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphearoides)由来のスフェロイデンモノオキシゲナーゼ(CrtA)遺伝子(crtA)が例示される(配列番号7)。スフェロイデンモノオキシゲナーゼは、スフェロイデンに酸素原子を挿入してスフェロイデノンへと変換させる酸化反応を触媒する酵素である。 本発明の細胞は、製造するカロテノイドの種類に応じて、上記以外のC50不飽和化カロテノイド修飾経路に関連する種々の酵素をコードする遺伝子により形質転換されてもよい。例えば、ブレバンディモナス属SD-212株由来のβ−イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ(CrtG)遺伝子(国際公開WO2005/049643号公報においては「CrtV」と表記されている)(Nishida, Y. et al, Appl Environ Microbiol 71, 4286-4296, 2005)により、当該細胞を形質転換することにより、有機合成が困難とされるβ環の2位および2'位をヒドロキシル化したC50カロテノイドの生産なども可能になる。また、パントエア・アナナチス由来のゼアキサンチングルコシルトランスフェラーゼ(crtX)遺伝子(Misawa N, J Bacteriol 172, 6704-6712, 1990)により、当該細胞を形質転換することにより、β環の3位および3'位の水酸基がグリコシド化されたしたC50カロテノイドの生産なども可能になる。 本発明における、C50カロテノイドを製造し得る細胞は、適当な発現ベクターを選択し、公知の外来遺伝子の導入・発現法により製造することができる(例えば、Sambrook, J., Russel,D. W., Molecular Cloning A Laboratory Manual, 3rd Edition, CSHL Press, 2001)。形質転換により細胞に導入する遺伝子を、PCR法など常法により調製し、その遺伝子を宿主に適する発現ベクターに常法により組み込み、目的のベクターを選択し、そのベクターにより宿主細胞を常法により形質転換することにより得られる。二種類以上の遺伝子により細胞を形質転換する場合には、それら複数の遺伝子を同一の発現ベクターに組み込んで形質転換してもよいし、異なる発現ベクターに組み込んで共形質転換してもよい。 宿主となる細胞は、制限されないが、培養時間の短縮やクローニングの容易さを考え、大腸菌、枯草菌、酵母などの微生物が好ましい。特に大腸菌、酵母が好ましく、好適な大腸菌としては、Escherichia coli XL1-Blue(以下単に「大腸菌XL1-Blue」と表す。)のようなクローニング株、HB101やBL21などの発現株に加え、テルペン前駆体の合成量が豊富な遺伝子ノックアウト株、たとえばJW1750 ΔgdhA (glutamate dehydrogenase欠損)、JW0110 ΔaceE(pyruvate dehydrogenase欠損)(Baba,T. et al.; Mol Syst Biol 2, 2006 0008 (2006))等が挙げられ、好適な酵母としては、標準的な発芽酵母、INVSc1(invitrogen)、YPH499(stratagene)等が挙げられる。 遺伝子を組み込む発現ベクターは、特に制限はなく、一般に用いられているベクターでよい。例えば、宿主が大腸菌であるときは、pUC18、pACYC184などに由来するものが挙げられ、宿主が枯草菌であるときはpUB110、pE194、pC194、pHY300PLK DNAなどが、宿主が酵母であるときは、pRS303、YEp213、TOp2609等が挙げられる。 目的の遺伝子が宿主の細胞に導入されたか否かの確認は常法により行うことができ、例えば、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。 本発明のC50カロテノイドの製造方法は、上述のようにして得られた形質転換体である細胞を、培地で培養する工程を含む。培地は、C50カロテノイド骨格化合物の供給源となり得る物質を含むものであればよく、細胞の培養に一般的に用いられるような成分が含まれる培地でよい。C50カロテノイド骨格化合物が、IPPおよびDMAPPの代謝により合成される細胞においては、IPPおよびDMAPPの供給源となり得る炭素源が、培地に含まれていればよい。かかる炭素源としては、グルコース等の種々の糖類が例示される。 培養時の温度は特に限定されないが、18〜30℃とするのが好ましく、20〜30℃とするのがさらに好ましい。 培養時間も特に限定されないが、形質転換により導入した遺伝子の発現から12〜72時間培養することが好ましく、24〜48時間培養することがさらに好ましい。 培養後の培養物からのC50カロテノイドの回収は、微生物等の細胞から、カロテノイド等の生産物を得るのに常用される方法に従って行うことができる。培養物から細胞のみを分離して、細胞からカロテノイドを得てもよい。 なお本発明は、変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子、当該変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子によりコードされる変異型フィトエン不飽和化酵素、および変異型フィトエン不飽和化酵素遺伝子により形質転換されている、C50カロテノイド骨格化合物を不飽和化してC50のカロテノイドを製造し得る細胞も対象とするものである。 また、本発明は、不飽和化C55カロテノイドや不飽和化C60カロテノイドなどの高効率な合成にも利用することができる。例えば、ファルネシル二リン酸合成酵素(FDS)の78番目のイソロイシンがグリシンに置換(I78G)し、かつ81番目のチロシンがアラニンに置換(Y81A)しているFDSの二重変異体(FDSI78G,Y81A)(Ohnuma S et al., JBiol Chem 273, 26705-26713,1998)を用いて、本発明を利用することにより、C50カロテノイドに加えて不飽和化C55カロテノイドを高効率に製造することができる。また、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来のC30PP合成酵素(HexPS)(Shimizu N et al, J Bacteriol 180,1578-1581, 1998)を用いて、本発明を利用することにより、。これらFDSI78G,Y81AまたはHexPSをCrtM変異体と共発現させることにより、不飽和化C60カロテノイドを高効率に製造することができる。 以下、本発明を実施例に示して具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 (参考例1)C50カロテノイド骨格化合物の合成 (1)C50カロテノイド原料であるC25PPの供給 大腸菌(E. coli)内で効率よくC25PPを合成するために、変異型遺伝子のfdsY81A, V157Aを用いた。fdsY81A, V157Aは、ゲオバチラス・ステアロサーモフィルス由来のファルネシル二リン酸合成酵素(FDS)の変異体である。変異Y81AはOhnuma, S. et al., J Biol Chem 271,30748-30754 (1996)に由来している。また本発明者らは、特願2010-258989に記載のテルペン合成酵素遺伝子のスクリーニング方法を用いて、変異型遺伝子fdsY81Aにさらに変異を導入することにより、基質に対するサイズ特異性をさらにシフトさせた変異型酵素をコードするfdsY81A,V157Aを作製した。 (2)C50カロテノイド骨格化合物の合成 C25PPの二分子縮合によるC50カロテノイド骨格化合物(16,16'−ジイソペンテニルフィトエン)の合成には、変異型遺伝子のcrtMF26A,W38A,233Sを用いた。スタフィロコッカス・アウレウス由来のジアポフィトエン合成酵素(CrtM)は本来、C15PPを二分子縮合させC30骨格のカロテノイドを合成する酵素である。本発明者らは、基質に対するサイズ選択性の向上した酵素を作製するために、crtM遺伝子に変異を導入した(Umeno et al.,J Bacteriol 184, 6690-6699 (2002)、Umeno et al.,Nucleic Acids Res 31, e91 (2003))。F26A、W38Aの変異をもつCrtMの二重変異体にC25PPを与えると、わずかにC50カロテノイド骨格化合物を合成することがわかった(非特許文献7)。 さらに、F26A、W38Aに加えてF233S変異を導入したCrtMの三重変異体が、二分子のC25PPからC50カロテノイド骨格化合物を極めて効率的に合成すること、C30PPを与えるとわずかながらC60カロテノイド骨格化合物を合成することを見出した(古林真衣子,生悦住茉友,斎藤恭一,梅野太輔.非天然カロテノイト合成経路の活性進化,日本農芸化学会関東支部2010年度大会,2010年10月9日:梅野太輔,古林真衣子,生悦住茉友,方波見彰仁,李伶,梶原順.非天然生合成経路を創り,そして育てる,「細胞を創る」研究会3.0,東京大学生産技術研究所,2010年11月12日:Furubayashi M, Saito K, Umeno D, In-laboratory genetic drift of carotenoid synthase and its evolution of size specificity. The international chemical congress of Pacific basin societies, Hawaii, USA, 2010年12月17日:古林真衣子,生悦住茉友,斎藤恭一,梅野太輔.酵素変異体のコンビナトリアル発現による非天然カロテノイドの選択的合成,2011年度農芸化学会大会,2011年3月)。C25PPを供給するfdsY81A, V157Aと、crtMF26A,W38A,F233Sを大腸菌XL1-Blueに共発現させることにより、C50カロテノイド骨格化合物であるC50-カロテン(n=3)を効率よく(約61%)で生産することがわかった。 (3)なお、fdsY81A, V157AとcrtMF26A,W38A,F233Sによる大腸菌XL1-Blueの形質転換は、常法によりプラスミドpAC-crtMF26A,W38A,F233S(図2(g):配列番号8)およびpUC-fdsY81A,V157A(図2(f):配列番号9)を作製して行った。 pAC-crtMF26A,W38A,F233SはpACmodベクター(Claudia Schmidt-Dannert et al., Nat. Biotechnol., 18: 750-753(2000))のBamHIサイトにlacプロモータ/オペレータ(lacPO)-crtMF26A,W38A,F233Sを挿入することによって作製した。 pUC-fdsY81A,V157AはpUC18Nmベクター(Umeno D. et al, J Bacteriol 184, 6690-6699 (2002))のlacPO下流にfdsY81A,V157A遺伝子を挿入することによって作製した。 形質転換した大腸菌は、非特許文献7に記載の手法により、培養を行った。 製造されたカロテノイドについての解析も、非特許文献7に記載の方法によりHPLCを用いて行った。 (実施例1)C50カロテノイド骨格化合物の合成の改良 fdsY81A, V157Aと、crtMF26A,W38A,F233Sに加えて、イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ(Idi)をコードする遺伝子(大腸菌ゲノム由来)を大腸菌XL1-Blueにて発現させ、大腸菌を培養した。fdsY81A, V157AとcrtMF26A,W38A,F233Sによる大腸菌XL1-Blueの形質転換は、常法によりプラスミドpAC-crtMF26A,W38A,F233S-idi(図2(h):配列番号10)およびpUC-fdsY81A,V157A(図2(f):配列番号9)を作製して行った。pAC-crtMF26A,W38A,F233S-idiはpAC-crtMF26A,W38A,F233SのClaIサイト上流にlacPO-idiを挿入することによって作製した。pUC-fdsY81A,V157Aは参考例1と同様にして作製した。形質転換した大腸菌の培養、製造されたカロテノイドについての解析は参考例1と同様にして行った。 結果を図3に示す。Idiを導入した場合は、Idiを導入していない場合に比べて、C50カロテノイド骨格化合物であるC50-カロテン(n=3)の生産量が増加した。またIdiを導入していない場合は、C40カロテノイド骨格化合物であるフィトエンが多量に合成されていたが、Idiを導入した場合は、フィトエンの生産量が減少し、C50-カロテン(n=3)の生産の特異性が向上した。Idiを導入した場合は、C50-カロテン(n=3)の合成効率が向上することがわかった(約90%) (参考例2)野生型CrtIによるC50カロテノイド骨格化合物の不飽和化 本発明者らは、CrtI(配列番号2(G1131A、A1476Tのノンシノニマス変異の入ったもの)の塩基配列を有する遺伝子がコードするフィトエン不飽和化酵素)によってC50カロテノイド骨格化合物をもつカロテノイドが不飽和化することを見出した(非特許文献9)。しかしその生産量は極めて少なく、C50カロテノイド骨格化合物のうち25%が不飽和化されるに留まっていることがわかった(非特許文献8)。 一方、本発明者らは、lacプロモータ(lacP)などを用いた野生型CrtIの定常発現が細胞増殖を著しく阻害すること、また細胞の色素形成を著しく不安定化することを見出した。しかしながらC50カロテノイド骨格化合物の合成/蓄積までの経路を持つ細胞(例えば、参考例1や実施例1にて得られた細胞)では、明らかな細胞毒性は認められなかった。 本発明者らは、leakyな発現(誘導しなくても起こる低レベル発現)を低く抑えることのできるaraBADプロモータの下流に、crtIを連結して、大腸菌XL1-Blueにおいて発現させることを試みた。crtIの上流のカロテノイド生合成遺伝子群はlacPで定常的に発現させ、菌密度/菌数が十分量に達した後に、crtIの発現を誘導して、C50カロテノイド骨格化合物を不飽和化して色素形成させることを試みた。 用いたプラスミドは、pUC-pBAD-crtI(図2(b)のcrtI variant部分にcrtIが導入されたもの)である。pUC18Nmベクター(Umeno D. et al, J Bacteriol 184, 6690-6699 (2002))のlacプロモータ/オペレータ(lacPO)を取り除き、pBADHisAベクター(invitrogen)由来のaraC遺伝子/araBADプロモータ配列を挿入した。プロモータ下流のXhoI-ApaIサイトにcrtIを挿入した。crtIは、パントエア・アナナチス由来の野生型フィトエン不飽和化酵素をコードする遺伝子である(Misawa N. et al., J Bacteriol 172, 6704-6712 (1990))。 pUC-pBAD-crtIにより形質転換した大腸菌では、細胞毒性の問題は解消された。しかしながら、C50カロテノイド骨格化合物の不飽和化は、ほとんど確認できないほど極めて効率の低いものであった。 (実施例2)C50カロテノイド骨格化合物を不飽和化する変異型crtIの取得 フィトエン不飽和化酵素(CrtI)の進化工学に基づき、より効率よくC50カロテノイド骨格化合物を不飽和化する変異型crtIの取得を目指した。図4(a)に本実施例の操作の概略を示し、図4(b)にスクリーニングの原理を示す。 まず、野生型crtIを含むプラスミドpUC-pBAD-crtI(図4(b)中「pUC-I」と示す)をテンプレートとして、MnCl2を用いたエラープローンPCR法(Cadwellら:PCR Methods Appl 2, 28-33 (1992))によりcrtIにランダム変異を導入した。得られたPCR産物を制限酵素のXhoI、ApaIで消化し、pUC-pBADベクターのaraBADプロモータ下流のXhoI、ApaIの制限酵素部位にライゲーションした。ライゲーション産物を大腸菌XL10-Gold(Stragatene)に形質転換し、その一部をLB(Luria Bertani)固体培地に散布した。残りの形質転換体である大腸菌を、10 mL LB液体培地に加え、37℃で一晩培養後、2 mLからプラスミドを抽出し、これを「変異型crtIプラスミドライブラリ」とした。また、固体培地に形成したコロニー数から、形質転換された細胞数(ライブラリサイズ)を算出したところ、105 cfu/transformationであった。 こうして得たプラスミドライブラリによりプラスミドpAC-crtMF26A,W38A,F233S-fdsY81A,V157A(図4(b)中「pAC-C50」と示す:配列番号11)を持つ大腸菌XL1-Blueを形質転換し、ニトロセルロースフィルタを載せたLB固体培地(50μg/mL carbenicillin, 30μg/mL chloramphenicolを含む)に散布した。37℃で24時間、コロニーが形成するまで培養した後、室温でさらに48時間静置した。 コントロールとして、野生型crtIを含むpUC-pBAD-crtIにより大腸菌XL1-Blueを形質転換した。この場合、コロニーは肌色を示した。変異型crtIプラスミドライブラリを形質転換して得た約2000のコロニー群の中に、ひときわ強い赤紫色を呈する8個のコロニーを目視により検出した。それぞれのコロニーをCrtI-m1, m2, …, m8と名付けた。図4(b)に示すように、C50不飽和化カロテノイドであるC50-リコペン(n=15)は赤紫色を呈する色素であり、かかる化合物が効率よく合成された結果、コロニーが赤紫色を呈したものと考えられた。 各コロニーの菌株を、LB液体培地で37℃、12時間培養してプラスミドを抽出し、プラスミドに含まれる変異型crtIの塩基配列をダイデオキシ法によって解析した。解析した結果を以下の表1に示す。
CrtI-m2とCrtI-m8は同じ、304番目のアスパラギン(N)がセリン(S)に置換している変異(N304S)を有していることがわかった。また、CrtI-m1とCrtI-m4は、339番目のフェニルアラニン(F)がセリン(S)またはロイシン(L)へ置換している変異(F339S、F339L)を有しており、CrtI-m6とCrtI-m7は338番目のイソロイシン(I)がバリン(V)に置換している変異(I338V)を有していた。これらの変異により、変異型CrtIのC50カロテノイド骨格化合物の不飽和化能が高められたものと考えられた。 (実施例3)変異型CrtIによる不飽和化C50カロテノイドの合成 実施例2にて得られたコロニーのうち、野生型CrtIに比べて色素形成が増強されていたCrtI-m1, m2, m4, m6, m8について、C50カロテノイド骨格化合物の不飽和化能を確認した。 プラスミドpUC-pBAD-CrtI-m1, m2, m4, m6, m8のそれぞれにより、pAC-crtMF26A,W38A,F233S-fdsY81A,V157Aを持つ大腸菌XL1-Blueを形質転換し、ニトロセルロース(NC)膜をのせたLB寒天培地に散布して37℃で24時間培養した。プラスミドpUC-pBAD-CrtI-m1, m2, m4, m6, m8は、図2(c)pUC-pBAD-crtI*-crtYのcrtI*の部分に各種変異型遺伝子mut1、mut2、mut4、mut6、mut8が挿入されたものであり、mut2の挿入されたプラスミドの塩基配列を配列番号12に示す。 コロニーが形成した後、コロニーの乗った状態でNC膜を、0.2 % アラビノース(arabinose)を含むLB寒天培地上に乗せ換えて、室温で培養した。コロニーを2 mL LB培地(50μg/mL carbenicillin, 30μg/mL chloramphenicolを含む)に植菌して、37℃で一晩培養した。培養液300μLを30 mL TB培地(50μg/mL carbenicillin, 30μg/mL chloramphenicolを含む)に植菌し、30℃、200 rpmで震盪培養を行った。24時間、震盪培養した後、培養液に20 % アラビノースを最終濃度 0.2 %となるように添加し、さらに48時間、震盪培養(30℃)を行った。 培養液のOD600を測定して、細胞を遠心して集菌した。集菌して得たペレットを生理食塩水で洗浄し、10 mL アセトンで脂溶性画分を抽出した。抽出液から300μLを分取し、Spectra Max 384(Molecular Device社)を用いて吸光スペクトルを測定した。 結果を図5に示す。図5(a)は各アセトン抽出液の実際の色を示す写真である。mut2、mut8、mut1、mut4、mut6を発現する大腸菌では、野生型crtI(WT)を発現する大腸菌に比べて、アセトン抽出液の500〜600 nm付近の吸光度が増加していた(図5(b))。特にN304Sのある変異型CrtIを有するCrtI-m2およびCrtI-m8では、強い色・吸光度を示していた。これらの変異型CrtIを発現させた場合では、最も右側のピーク(肩)が約540 nmにあるが、これは6ステップ不飽和化された産物(15個の共役二重結合)が多量に含まれていることを示す。最もC50不飽和化カロテノイドの合成量の多かったのは、CrtI-m2またはCrtI-m8を導入した場合であった。 次にCrtI-m2の場合に合成されたカロテノイドについてHPLC解析を行った。アセトン抽出液に1 mLヘキサンおよび35 mL 10 % NaClを加えてヘキサン相にカロテノイド画分を抽出した。ヘキサン抽出液の75%を回収し、これにMgSO4を少量加えて水分を除いた。ヘキサン溶媒を窒素により除去し、最終的に100μLヘキサン中にカロテノイド画分を濃縮してカロテノイド抽出液を得た。得られたカロテノイド抽出液のうち、25μL(全量の75% x 25% = 19%、7.3mL培地相当)を、HPLC-photodiodearrayシステムにインジェクションした。HPLCではTakaichi, S. Photosynth Res, 65,93-99 (2000)の条件に従って分析した(カラム:Waters Spherisorb(R) 5.0μm ODS2 4.6 mm x 250 mm Column、溶出液:Acetonitrile/Tetrahydrofuran/Metanol (58:7:35) 2 mL/min、検出器:Photodiode array (190〜800 nm))。またHPLCによって分取したものについての質量分析は、M-2500型日立二重収束質量分析計(日立製作所)を用いて、フィールド・デソープション・モードで行った(Takaichi(1993) Org. Mass Spectrom. 28:785-788))。 その結果、CrtI-m2ではC50カロテノイド骨格化合物を6ステップ不飽和化した化合物(C50-リコペン:C50-lycopene)を多く合成していることがわかった(図6(b)ピーク3)。一方野生型CrtIにより形質転換した場合では、ほとんど不飽和化した化合物を合成してないことがわかった(図6(a))。 図6(b)のピーク2とピーク3についての解析結果を以下に示す。C50-カロテン(n=3):図6(b)のピーク2に該当する試料をHPLCにより分取し、質量分析を行った。HPLC溶出時間は、不飽和化された同サイズのカロテノイドより非常に遅かったため、C50カロテノイド骨格を有する化合物であると考えられた。吸収スペクトルは、n=3のフィトエンと同様であった。質量分析により得られた質量数は680であり、推定構造(図1の化合物番号2)と合致した。 C50-リコペン(n=15):図6(b)のピーク3に該当する試料をHPLCにより分取し、質量分析を行った。HPLC溶出時間は比較的早いものであった。吸収スペクトルはn=15の3,4,3',4'-テトラデヒドロリコペンの文献値(Karrer and Rutschmann (1945) Helv. Chim. Acta 28:793-795)に近く、吸収スペクトルは非環型カロテノイドの特徴を持つものであった。質量分析により得られた質量数は668であり、推定構造(図1の化合物番号3)と合致した。 (実施例4)不飽和化C50カロテノイドの環化 リコペンからβ−カロテノイドを合成するリコペンシクラーゼをコードするcrtY遺伝子を用いて、不飽和化C50カロテノイドであるC50-リコペン(n=15)の環化を行った。 crtY遺伝子の形質転換には、プラスミドpUC-pBAD-crtI/CrtI-m2-crtYを用いた。当該プラスミドは、pUC-pBAD-crtI/CrtI-m2のApaIサイトの後ろにSpeIサイトを挿入し、ApaI/SpeIサイトにcrtY遺伝子を挿入することにより作製した。crtY遺伝子は、パントエア・アナナチス由来のリコペン環化酵素をコードする遺伝子である(Misawa N. et al., J Bacteriol 172, 6704-6712 (1990))。なおプラスミド中のCrtI-m2の表記は、CrtI-m2に由来する変異型遺伝子crtIN304Sを挿入していることを意味する。pUC-pBAD-CrtI-m2-crtYの塩基配列を配列番号13に示す。 pUC-CrtI-m2-CrtYにより、pAC-crtMF26A,W38A,F233S-fdsY81A,V157Aを持つ大腸菌XL1-Blueに形質転換した。コントロールとして、crtI-m2の代わりに野生型crtIと共に、crtYを形質転換した。大腸菌をニトロセルロース(NC)膜をのせたLB寒天培地に散布して37℃で24時間培養した。コロニーが形成した後、コロニーの乗った状態でNC膜を0.2 %アラビノースを含むLB寒天培地に乗せ換え、室温で培養してコロニー色を観察した。 形質転換した大腸菌を0〜48時間培養した写真を図7に示す。CrtI-m2由来の変異型crtIの下流にcrtYがあるプラスミドを形質転換した大腸菌(図7中の「CrtI2Y」)では、非常に濃い赤色を示した。 また実施例3と同様の手法によりアセトン抽出液についてHPLC解析と質量分析を行った。 HPLC解析によって、502nmに吸収極大ピークを持つカロテノイドが検出された(図6(d)ピーク7)。CrtIが野生型の場合では、このピークは痕跡量確認されるに留まった(図6(c)ピーク5)。こうして得られたC50カロテノイドの推定構造と合成経路を図1に示す。なお、図1の各化合物の番号は、図6のクロマトグラムにおける番号と対応している。 C50-β-カロテン:図6のピーク7に該当する試料をHPLCにより分取し、質量分析を行った。HPLC溶出時間はC50-リコペンより遅かった。C40のカロテノイドにおいても同様の挙動を示すことが知られている。吸収スペクトルは化学合成したもの(Khachik and Beecher (1985) J. Chromatogr. 346:237-246)とほぼ一致した(図9(c))。吸収スペクトルは二環型カロテノイドの特徴を持つものと同様であった。質量分析により得られた質量数は668であり、推定構造(図1の化合物番号7)と一致した。 (実施例5)環状C50カロテノイド経路のさらなる修飾による拡張 実施例4にて確認した環状C50カロテノイドを合成する経路をさらに拡張することにより、オキソカロテノイドを合成した。 crtW、crtZ、crtYを含むプラスミドpUC-pBAD-crtI-crtWZY(図2(d):配列番号14)を用いた。当該プラスミドは、パラコッカス属N81106株のcrtW、crtZ、crtY(配列番号6)をプラスミドpAK32(Misawa N. et al.,J Bacteriol 177, 6575-6584 (1995))からPCRにより増幅した。得られたcrtW、crtZ、crtYを用いて、pUC-pBAD-crtI-crtWZYとpUC-pBAD-CrtI-m2-crtWZYを作製した。実施例4の手法と同様にして、作製したプラスミドをpAC-crtMF26A,W38A,F233S-fdsY81A,V157Aとともに大腸菌(XL1-Blue)に導入し、大腸菌を培養して、コロニー色を観察した。 その結果、pUC-pBAD-CrtI-m2-crtWZYを導入した系では、コロニーは鮮やかな赤色を呈した(図8(c)右から2列目:CrtI*のCrtWZY)。 実施例4と同様にアセトン抽出液のスペクトルを測定したところ、pUC-pBAD-CrtI-m2-crtWZYにより形質転換した場合は、508nmに強いピークを示した(図8(a)CrtI*-CrtWZY)。一方、野生型CrtIを用いた場合では、わずかな色素しか蓄積しなかった(図7(a)CrtI-CrtWZY)。実施例4と同様にHPLC解析したところ、502nmに吸収極大ピークをもつ新規な極性の高いカロテノイドがメジャーピークとして得られた(図6(f)ピーク9)。こうして得られたカロテノイドの推定構造と経路を図1に示す。なお、図1の各化合物の番号は、図5のクロマトグラムにおける番号と対応している。 (実施例6)不飽和化C50カロテノイドの酸化 ロドバクター・スフェロイデス由来のCrtAのアミノ酸配列をもとに、大腸菌用にコドンを最適化してcrtAを全合成した(配列番号7、DNA2.0社に委託)。合成した遺伝子を用いて、プラスミドpUC-pBAD-crtI-crtAおよびpUC-pBAD-CrtI-m2-crtAを作製した(図2(e):配列番号15)。 実施例5と同様の手法により、作製したプラスミドを大腸菌に形質転換し、大腸菌を培養し、コロニーの色を観察し、アセトン抽出液のスペクトルを解析した。 その結果、pUC-pBAD-CrtI-m2-crtAを形質転換した場合は、コロニーは鮮やかな色を呈しており(図8(c)右から1列目:CrtI*のCrtA)、またアセトン抽出液も、オキソカロテノイド特有に見られる、ブロードな吸収スペクトルを与えた(図8(b)CrtI*-CrtA)。野生型のCrtIと共にCrtAを発現させた場合は、ごくわずかな色しか示さなかった。実施例5と同様にHPLC解析したところ、極性の高い新規なカロテノイドがメジャーピークとして現れた(図6(h)ピーク11)。 (実施例7)C50カロテノイド骨格化合物を不飽和化する能力の高い変異型crtIの取得 実施例3および4において実現したC50-リコペンやC50-β-カロテンの生合成経路は、未だC50骨格(C50-カロテン(n=3))が残存しているという点で効率に改良の余地を認めた。そこで、よりC50骨格を不飽和化するようなCrtIの変異体の取得を目指した。実施例2で得られたCrtI変異体のうち、CrtI-m2がもっともC50骨格の不飽和化効率が高かった。そこで、CrtI-m2のもつアミノ酸置換N304Sに着目し、304番目のアミノ酸の部位特異的総置換を行い、より不飽和化効率の高い変異体を探索した。 まず、野生型CrtIを含むプラスミドpUC-pBAD-crtIをテンプレートとして、304番目のアミノ酸をランダム化(NNKコドン)したプライマーを用いてPCRおよびそれにつづくクローニングによりライブラリを作成した。得られたプラスミドライブラリを実施例2に記載した方法と同じ方法によりスクリーニングを行った。CrtI野生型よりも赤い色を示すコロニーを探索し、CrtI変異体のプラスミドを単離した。これらのCrtI変異体を再度スクリーニングし直したところ、グリシン(G)、セリン(S)、アスパラギン(N)、プロリン(P)、アラニン(A)に置換されたものが特に赤いコロニーを与え、とりわけP置換体(コドン:CCT)が最も赤いコロニーを与えた。P置換体を有するCrtIのアミノ酸配列を配列表の配列番号27に示し、また、該アミノ酸配列をコードする塩基配列を配列番号28に示す。 次いで、CrtI-m2およびCrtIN304PによるC50-リコペンの合成量をHPLCによって解析した。pAC-crtMF26A,W38A,F233S-fdsY81A,V157Aと共に、pUC-pBAD-crtI-m2またはpUC-pBAD-crtIN304Pを大腸菌XL1-Blueに形質転換し、コロニーが形成した後、コロニーの乗った状態でNC膜を、0.2 % アラビノース(arabinose)を含むLB寒天培地上に乗せ換えて、室温で培養した。コロニーを2 mL LB培地(50μg/mL carbenicillin, 30μg/mL chrolamphenicolを含む)に植菌して、37℃で一晩培養した。培養液300μLを30 mL TB培地(50μg/mL carbenicillin, 30μg/mL chrolamphenicolを含む)に植菌し、30℃、200 rpmで震盪培養を行った。36時間、震盪培養した後、培養液に20 % アラビノースを最終濃度 0.2 %となるように添加し、さらに36時間、震盪培養(30℃)を行った。実施例3に示す方法でHPLC解析を行った。 その結果を図10に示す。CrtIN304Pを用いた場合、細胞に蓄積するC50-リコペン合成量は殆ど増加しなかったが、C50-カロテン(n=3)の生産量が、CrtIm2に比べて明快に減少している。これはC50-リコペンの生合成量(C50カロテンの不飽和化効率)は高いが、C50-リコペンの細胞内での安定性が低く、その多くが分解されているのだと考えられる。 次に、CrtIN304Pを用いてよりC50-βカロテンが増加するかどうかを調べた。まずpUC-pBAD-crtIN304P-crtYプラスミドを作成した。このプラスミドおよびpUC-pBAD-crtI-m2-crtYを、pAC-crtMF26A,W38A,F233S-fdsY81A,V157Aと共に大腸菌XL1-Blueに形質転換し、上記項目と同様に培養・抽出・HPLC分析をおこなった。 その結果、CrtIN304Pを用いた場合は、CrtI-m2を用いた場合に比べ、C50-カロテン(n=3)が減少してC50-リコペンが増加した(図10)。 (実施例8)ブレバンディモナス属SD-212株由来のCrtW, CrtZの使用の検討 実施例5においては、C50-β-カロテンに加えてパラコッカス属N81106株由来のCrtWおよびCrtZを用いてC50-アスタキサンチンの生産を目指した。極性のピークはみられたが、C50-β-カロテンの多くはCrtWまたはCrtZによって修飾されずに残存した。そこでより効率の良いCrtWおよびCrtZを用いてC50-アスタキサンチン、およびその中間体のC50-ゼアキサンチンおよびC50-カンタキサンチンを合成することを目指した。 既報(Choi S.et al., Mar Biotechnol 7, 515-522 (2005), Choi S. et al., Appl Microbiol Biotechnol 72, 1238-1246 (2006))より、ブレバンディモナス属SD-212株由来のCrtWおよびCrtZはそれぞれ効率の良いβカロテンケトラーゼおよびβカロテンヒドロキシラーゼであることがわかっている。天然型(C40型)のアスタキサンチンを合成するに際して、この酵素が現在入手可能な最良の選択である。そこで、これらの遺伝子をDNA2.0社に委託して大腸菌にコドン最適化したものを全合成した。これらの遺伝子を用いて、pUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtWBD-CrtZBDを作成した。また、pUC-pBAD-CrtI-m2-CrtY-CrtWBDおよびpUC-pBAD-CrtI-m2-CrtY-CrtZBDも作成した。pUC-pBAD-CrtI-m2-CrtY-CrtWBD、pUC-pBAD-CrtI-m2-CrtY-CrtZBD、およびpUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtWBD-CrtZBDのプラスミドマップをそれぞれ図11の(i)、(j)、および(k)に示し、塩基配列をそれぞれ配列番号16、17、および18に示す。 これらのプラスミドをpAC-crtMF26A,W38A,F233S-fdsY81A,V157Aとともに大腸菌(XL1-Blue)に導入し、実施例3に示すような方法で培養および抽出を行った。得られたカロテノイド抽出液をHPLC-photodiodearrayシステムにインジェクションした。カラムはμBondapak column (100 × 8 mm, RCM-type, Waters)を用い、メタノールを溶出液として1 mL/minの流速で分析した。 その結果、pUC-pBAD-CrtI-m2-CrtY-CrtZBDでは特異的にC50-ゼアキサンチンを合成し(図12中、パネルa)、pUC-pBAD-CrtI-m2-CrtY-CrtWBDを用いた場合は特異的にC50-カンタキサンチンを合成した(図12中、パネルb)。また、pUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtWBD-CrtZBDを用いた場合は特異的にC50-アスタキサンチンを合成した(図12中、パネルc)。 (実施例9)idiの共発現によるC50-アスタキサンチンの増量 pAC-crtMF26A,W38A,F233S-fdsY81A,V157AおよびpUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtWBD-CrtZBDを用いて実施例8に記載の方法で大腸菌にC50-アスタキサンチンを合成させ、そのHPLCピーク面積から合成量を求めた。 その結果、288μg/gDCWのC50-アスタキサンチンを合成した(図13)。 ここにidiを共発現させるため、pAC-crtMF26A,W38A,F233S-fdsY81A,V157A-idiを作成し、pUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtWBD-CrtZBDと共に大腸菌(XL1-Blue)に形質転換させ、同様の方法でカロテノイド合成量を求めた。pAC-crtMF26A,W38A,F233S-fdsY81A,V157A-idiのプラスミドマップは図11の(l)に示し、塩基配列を配列番号19に示す。 その結果、884μg/gDCWのC50-アスタキサンチンを合成した(図13)。 (実施例10)実施例4で得られたC50-β-カロテンのピーク(図6中のピーク7)中の化合物、および実施例8で同定されたC50-ゼアキサンチン、C50-カンタキサンチン、C50-アスタキサンチンのピーク(図12のピーク1、2、および3)中の化合物の同定を行った。 C50-β-カロテンのピーク(図6中のピーク7)中の化合物の極大吸収波長は、メタノール中で467(肩)、501、 534nmであり、C50-リコペンよりも低波長側にピークシフトしていたことから、環構造をもつカロテノイドである(Takaichi, S. & Shimada, K. Methods Enzymol. 213, 374-385 (1992))。また、逆相HPLCにおける溶出時間が延びたことからも、環化は明らかである。モレキュラーマスは668であり、C50-β-カロテンに計算される値と同一であった。 50-アスタキサンチンのピーク(図12のピーク3)中の化合物では、メタノール中で512nmに極大吸収波長をもつ広い吸収スペクトルが得られた。728のモレキュラーマスはC50-アスタキサンチンの構造式から予想される値と一致した。さらに、既報(S. Takaichiら、Org. Mass Spdectroscopy, 28, 785-788 (1993) )に従い、化学誘導化による部分構造の決定を試みた。この化合物は、NaBH4による還元により、吸収スペクトルはC50-β-カロテンと等しくなり、モレキュラーマスは732へと増加した。このことから、4, 4'位に2つのカルボニル基が存在することが明らかとなった。NABH4処理前の化合物を、ジアセチルおよびジトリメチルシリル誘導体を作成したところ、そのモレキュラーマスはそれぞれ812および872となった。これはそれぞれ、アセチル基2つおよびトリメチルシリル基2つ分の分子量増加に相当する。こうして、2つの水酸基を持つことが明らかになった。一方、NABH4処理後の化合物を同じくジアセチルおよびジトリメチルシリル誘導体を作成したところ、そのモレキュラーマスはそれぞれ900および1020となった。つまり、4つのヒドロキシル基があることが確認できた。さらに、この化合物を精製してNMR解析を行ったところ、明快にC50-アスタキサンチンであると同定された(図14)。 C50-ゼアキサンチンのピーク(図12のピーク1)中の化合物は、モレキュラーマスが700であり、そのHPLC溶出プロファイルおよび吸収スペクトルは図12のパネル(a)に示す通りであり、その溶出ピークの極性側へのシフトなどを勘案して、C50-ゼアキサンチンであると断定した。 C50-カンタキサンチンのピーク(図12のピーク2)中の化合物は、モレキュラーマスが696であり、そのHPLC溶出プロファイルおよび吸収スペクトルは図12のパネル(b)に示す通りであり、その溶出ピークの極性側へのシフトなどを勘案して、C50-カンタキサンチンであると断定した。 (実施例11)CrtGおよびCrtXの追加発現による多様な構造のカロテノイドの製造 ブレバンディモナス属SD-212株由来のcrtG遺伝子(Nishida,Y. et al, Appl Environ Microbiol 71, 4286-4296, 2005)およびパントエア・アナナチス由来のcrtX遺伝子をさらに発現させることにより、合成されるカロテノイド構造のさらなる多様化を検討した。crtX遺伝子はゼアキサンチングルコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子である。 まず、ブレバンディモナス属SD-212株由来のcrtG遺伝子を用いて、pUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtG-CrtZBDおよびpUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtG-CrtWBD-CrtZBDを作成した。pUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtG-CrtZBDおよびpUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtG-CrtWBD-CrtZBDのプラスミドマップをそれぞれ図15の(m)および(n)に示し、塩基配列をそれぞれ配列番号20および21に示す。 pUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtG-CrtZBDとpAC-CrtMF26A,W38A,F233S-FDSY81A,V157Aとを大腸菌に共発現させて培養すると、ゼアキサンチンの2位および2'位が水酸化された、C50-カロキサンチン(Caloxanthin)およびC50-ノストキサンチン(Nostoxanthin)が合成できる(図16)。 pUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtG-CrtWBD-CrtZBDとpAC-CrtMF26A,W38A,F233S-FDSY81A,V157Aとを大腸菌に共発現させて培養すると、アスタキサンチンの2位および2'位が水酸化されたC50-2-ヒドロキシアスタキサンチン(Hydroxyastaxanthin)およびC50-2,3,2’,3’-テトラヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4'-ジオンが合成できる(図16)。 また、カンタキサンチンの2位および2'位が水酸化されたC50-2-ヒドロキシカンタキサンチン(Hydroxycanthaxanthin)およびC50-2,2'-ジヒドロキシカンタキサンチン(Dihidroxycanthaxanthin)の合成もできる(図16)。 次に、パントエア・アナナチス由来のcrtX遺伝子を用いて、pUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtX-CrtZBDおよびpUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtX-CrtWBD-CrtZBDを作成した。pUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtX-CrtZBDおよびpUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtX-CrtWBD-CrtZBDのプラスミドマップをそれぞれ図15の(o)および(p)に示し、塩基配列をそれぞれ配列番号22および23に示す。 pUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtX-CrtZBDとpAC-CrtMF26A,W38A,F233S-FDSY81A,V157Aとを大腸菌に共発現させて培養すると、ゼアキサンチンの3位および3'位の水酸基がグリコシド化されたC50-ゼアキサンチン-β-D-グルコシドおよびC50-ゼアキサンチン-β-D-ジグルコシドが合成できる(図17)。 pUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtX-CrtWBD-CrtZBDとpAC-CrtMF26A,W38A,F233S-FDSY81A,V157Aとを大腸菌に共発現させて培養すると、アスタキサンチンの3位および3'位の水酸基がグリコシド化されたC50-アスタキサンチン-β-D-グルコシドおよびC50-アスタキサンチン-β-D-ジグルコシドが合成できる(図17)。 実際に、pUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtG-CrtZBD、pUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtX-CrtZBD、pUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtG-CrtWBD-CrtZBD、またはpUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtX-CrtWBD-CrtZBDのいずれかを、pAC-CrtMF26A,W38A,F233S-FDSY81A,V157Aと共に大腸菌(XL1-Blue)に共発現させ、LB固体培地に散布してコロニーを形成させたところ、赤紫色のコロニーを形成した(図18)。 コロニーを2 mL LB液体培地に植菌して16時間培養したのち、これを30mL TB液体培地に1/100量植菌した。30℃にて200rpmで回転させながら36時間培養後、最終濃度0.2% (v/v)となるようにL-アラビノースを加え、さらに36時間培養した。培養液から2mLを集菌回収し、生理食塩水で洗浄後、1 mLアセトンを加えてカロテノイド画分を抽出した。細胞ペレットおよびアセトン抽出液を図18に示す。また、それぞれの抽出液の吸収スペクトルを図19に示す。 次に、pUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtX-CrtZBDまたはpUC-pBAD-CrtIN304P-CrtY-CrtG-CrtZBDおよびpAC-CrtMF26A,W38A,F233S-FDSY81A,V157Aを大腸菌(XL1-Blue)に形質転換した。この細胞コロニーを2 mL LB液体培地に植菌して16時間培養したのち、これを30 mL TB液体培地に1/100量植菌した。30℃にて200 rpmで回転しながら36時間培養後、最終濃度0.2% (v/v)となるようにL-アラビノースを加え、さらに36時間培養した。培養液を遠心集菌し、生理食塩水で洗浄した。細胞ペレットにアセトン10 mLを加えカロテノイド画分を抽出した。アセトン抽出液に1 mLクロロホルムおよび35 mL 10 % NaClを加えてクロロホルム相にカロテノイド画分を抽出した。クロロホルム抽出液をすべて回収し、これにMgSO4を加えて水分を除いた。クロロホルム溶媒を窒素により除去し、最終的にメタノール/THF(1:1, v/v)100 μLにカロテノイド画分を濃縮してカロテノイド抽出液を得た。得られたカロテノイド抽出液のうち、10 μL(全量の10%、3 mL培地相当)を、HPLC-photodiodearrayシステムにインジェクションした。HPLCではNishida, Y. et al, Appl Environ Microbiol, 71, 4286-4296 (2005)の条件に従って分析した(カラム:TSK gel ODS-80Ts column (4.6-mm inner diameter by 150 mm; Tosoh Co.)、溶出液:溶出液A (Methanol/Water, 95:5)を5分,溶出液Aから溶出液B(Methanol/Tetrahydrofuran,7:3)を5分,溶出液Bを15分,1 mL/min、検出器:Photodiode array (190〜800 nm))。 その結果、C50-ゼアキサンチンにCrtXを共発現させたものでは、より溶出時間の短いところに新規なピークが1つ現れた(図20のピーク5)。これはC50-ゼアキサンチンと同一の吸収スペクトルをもつこと、極性がC50-ゼアキサンチンより高いことから、C50-ゼアキサンチン-β-D-ジグルコシドであると考えられる。 また、C50-ゼアキサンチンにCrtGを共発現させたものでは、新規ピークが2つ現れた(図20のピーク2および3)。C50-ゼアキサンチンと同じ吸収スペクトルをもつこと、極性の高いものであること、などから、それらは、C50-カロキサンチン(図20のピーク3)およびC50-ノストキサンチン(図20のピーク2)だと考えられる。 (実施例12)C55およびC60カロテノイドの生合成 FDSにI78GおよびY81Aの変異が入った変異体(FDSI78G,Y81A)は、C25PPおよびC25PPに更にC5ユニットが足されたプレニル二リン酸(C30PPやC35PPなど)を合成する(Ohnuma S et al., JBiol Chem 273, 26705-26713,1998)。また、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来のC30PP合成酵素(HexPS)はC30PPを合成する(Shimizu N et al, J Bacteriol 180,1578-1581, 1998)。これらFDSI78G,Y81AまたはHexPSをCrtM変異体と共発現させることにより、C50骨格よりも大きいカロテノイド骨格の生合成を目指した。 まず、pAC-hexPS、pAC-FDSI78G,Y81A-idi、およびpUC-CrtMF26A,W38A,F233Sを作成した。pAC-hexPS、pAC-FDSI78G,Y81A-idi、およびpUC-CrtMF26A,W38A,F233Sのプラスミドマップをそれぞれ図20の(q)、(r)、および(s)に示し、塩基配列をそれぞれ配列番号24、25、および26に示す。 pAC-FDSI78G,Y81A-idiまたはpAC-hexPSを、それぞれpUC-CrtMF26A,W38AまたはpUC-CrtMF26A,W38A,F233Sと共に大腸菌(XL1-Blue)に形質転換した。細胞の培養および生産されたカロテノイドの解析は参考例1と同様にして行った。 結果を図21に示す。CrtMF26A,W38A,F233Sを用いた場合は、pAC-FDSI78G,Y81A-idiとを共発現させるとC45およびC50カロテノイドに加えてC55カロテノイドを生産した。また、hexPSを共発現させるとC60カロテノイドを特異的に合成した。一方で、CrtMF26A,W38Aを用いた場合は、C55カロテノイドおよびC60カロテノイドの生産がいずれも確認できなかった。よって、C55カロテノイドおよびC60カロテノイドの生産には、CrtMのF233S変異が必須である。 つぎに、pAC-FDSI78G,Y81A-idiまたはpAC-hexPSを、8種類のCrtM変異体(pUC-CrtM変異体)と共発現させて、そのカロテノイド合成量を同様の方法で調べた。その結果を図22に示す。C55骨格をより多く合成したのは、FDSI78G,Y81A-idiとCrtMF26A,F233SまたはCrtMF26A,W38A,F233Sとを共発現させた細胞であった。C60骨格を効率的に合成したのはHexPSとCrtMW38A,F233SまたはCrtMF26A,W38A,F233Sとを共発現させた細胞であった。 以上説明したとおり、本発明の製造方法は、高効率で不飽和化C50カロテノイドを合成することができ、種々のC50カロテノイドを合成可能とする。C50カロテノイドは、自然界においてほとんど確認されておらず、合成された例も皆無といってよい。カロテノイドは、抗酸化作用等の生理活性を有することが知られているが、C50カロテノイドはこれまでにない新たな作用を発揮することや、従来のカロテノイドに比較して顕著に活性が増強していることが期待される。例えばC50カロテノイドは、高い抗酸化活性を持つ可能性、抗腫瘍活性等の生理活性物質の新規シーズとしての用途、機能性色素分子としての利用などが期待される。また、本発明の製造方法は、不飽和化C55カロテノイドや不飽和化C60カロテノイドなどの高効率な合成にも利用することができる。さらに本発明の製造方法は、イソプレノイド合成経路を強化した細胞(Klein-Marcuschamer Dら:Trends Biotechnol 25,417-424 (2007), Kirby Jら:Nat Prod Rep 25, 656-661 (2008))等の従来技術と組み合わせることにより、合成可能なカロテノイドの種類を飛躍的に増大させるものと考えられる。 |