膵癌に特異的な集積性を有するペプチド及びその使用 |
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申请号 | JP2016081287 | 申请日 | 2016-10-21 | 公开(公告)号 | JPWO2017086090A1 | 公开(公告)日 | 2018-09-13 |
申请人 | 国立大学法人 新潟大学; | 发明人 | 近藤 英作; 齋藤 憲; | ||||
摘要 | 本発明は、膵癌細胞及び組織に直接作用し、特異的な集積性を有する新規ペプチドを提供する。本発明は、以下の(a)又は(b)のペプチドである。(a)配列番号1、2、3、4のいずれかで表される配列を含むアミノ酸配列からなるペプチド、(b)配列番号1、2、3、4のいずれかで表される配列と同一性が60%以上である配列を含むアミノ酸配列からなり、且つ、膵癌に特異的な集積性を有するペプチド | ||||||
权利要求 | 以下の(a)又は(b)のペプチド。 (a)配列番号1、2、3、4のいずれかで表される配列を含むアミノ酸配列からなるペプチド、 (b)配列番号1、2、3、4のいずれかで表される配列と同一性が60%以上である配列を含むアミノ酸配列からなり、且つ、膵癌に特異的な集積性を有するペプチドL−アミノ酸からなるペプチドである請求項1に記載のペプチド。請求項1又は2に記載のペプチドをコードすることを特徴とする核酸。請求項3に記載の核酸を含むことを特徴とするベクター。請求項1又は2に記載のペプチドを含むことを特徴とするキャリア。さらに、標識物質又は修飾物質を備える請求項5に記載のキャリア。前記標識物質が、安定同位体、放射性同位体又は蛍光物質である請求項6に記載のキャリア。前記修飾物質が、糖鎖又はポリエチレングリコールである請求項6又は7に記載のキャリア。請求項5〜8のいずれか一項に記載のキャリアと生理活性物質とを備えることを特徴とする医薬組成物。膵癌治療用又は診断用である請求項9に記載の医薬組成物。 以下の(a)又は(b)のペプチド。 (a)配列番号2、3、4のいずれかで表される配列を含むアミノ酸配列からなるペプチド、 (b)配列番号2、3、4のいずれかで表される配列と同一性が80%以上である配列を含むアミノ酸配列からなり、且つ、膵癌に特異的な集積性を有するペプチドL−アミノ酸からなるペプチドである請求項1に記載のペプチド。請求項1又は2に記載のペプチドをコードすることを特徴とする核酸。請求項3に記載の核酸を含むことを特徴とするベクター。請求項1又は2に記載のペプチドを含むことを特徴とするキャリア。さらに、標識物質又は修飾物質を備える請求項5に記載のキャリア。前記標識物質が、安定同位体、放射性同位体又は蛍光物質である請求項6に記載のキャリア。前記修飾物質が、糖鎖又はポリエチレングリコールである請求項6又は7に記載のキャリア。請求項5〜8のいずれか一項に記載のキャリアと生理活性物質とを備えることを特徴とする医薬組成物。膵癌治療用又は診断用である請求項9に記載の医薬組成物。 |
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说明书全文 | 本発明は、膵癌に特異的な集積性を有するペプチド及びその使用に関する。 本願は、2015年11月19日に、日本に出願された特願2015−226228号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。 膵癌(特に、浸潤性膵管癌)は、平均生存期間が診断後約6か月前後であり、悪性腫瘍の中でも難治であることが知られている。厚生労働省発表の人口動態統計によると、膵悪性腫瘍による年間死亡者数は年々増加し、平成21年(2009年)統計では26,791人である。また、膵癌による死亡は全癌死の9%を占め、肺癌、胃癌、大腸癌、肝癌についで第5位である。 全国膵癌登録調査報告(1999年度)によると、膵癌の切除できた症例は、全症例の39%である。さらに、5年生存率は13%と低い。 膵癌の治療が困難な理由として、早期の状態では自覚症状が少ないため、早期発見が大変難しいことが挙げられる。癌が進行することで、腹痛、体重減少、黄疸等の症状が現れて、発見されることが多いため、大多数の症例において、明らかな症状発現による発見時にはすでに手術適応が無いか、又は姑息的手術に限定された進行癌の状態である。 また、治療が困難な別の理由として、膵癌は早期から浸潤又は転移しやすい性質を有する点が挙げられる。その他の理由としては、放射線治療において、膵臓は後腹膜に位置し多くの腹腔内臓器の背側にあるため、膵臓患部のみに放射線照射することが難しい点が挙げられる。そのため、放射線治療は、重篤な副作用を惹起する可能性が高く、治療選択の適用外となることがある。 現在、膵癌の検査又は診断法としては、例えば、血液生化学的検査、腹部超音波検査、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(Endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)検査、造影剤を併用したコンピューター断層撮影法(Computed Tomography:CT)、核磁気共鳴画像法(Magnetic resonance imaging:MRI)、陽電子放射断層撮影(Positron Emission Tomography:PET)法(特に、フルオロデオキシグルコース(fluorodeoxy glucose:FDG)−PET法)等の検査方法が挙げられる。 ところで、ペプチドをバイオマテリアルとして活用した医療分野での動向において、Tat、penetratin、polyarginine等の細胞膜透過性(細胞吸収性)ペプチドが着目されている。 しかしながら、これらのペプチドは、正常細胞又は正常組織と腫瘍細胞又は腫瘍組織との区別なく広汎且つ非選択的に吸収されるため、標的選択的な薬剤輸送を要求する悪性腫瘍の治療DDS(Drag Delivery System)ツールに応用することは、重篤な副作用を惹起する点で利用困難である。特に、世界的に実験系で汎用されているTat等の細胞膜透過性(細胞吸収性)ペプチドは、肝臓に集積を引き起こす性質が知られている(例えば、非特許文献1参照)。 これに対して、cyclic RGDは、唯一医薬化されているペプチドである。cyclic RGDは、新生血管あるいは既存血管を構成する血管内皮細胞(及び一部の腫瘍細胞)で高発現することが報告されているαvβ3インテグリンを標的としており、血管透過性亢進にその作用点を持っているため、単独でなく他の医薬との同時併用の形でイメージング剤やDDS剤として応用されている(例えば、特許文献1参照。)。 特許第5721140号公報
Vives E., et al., A Truncated HIV-1 Tat Protein Basic Domain Rapidly Translocates through the Plasma Membrane and Accumulates in the Cell Nucleus, J. Biol. Chem., 272, 16010-16017, 1997.
膵癌は、がん医療分野では現在も依然として根治的治療が困難で多系統の悪性腫瘍の中でも最も予後不良な腫瘍のひとつとして非常に良く認識されており、生存率改善に直結する効果的な治療方法が求められている。 また、上述の膵癌の検査及び診断方法では、検査結果の判断基準が異常陰影の判定である。陰影判定には病変の拡がりを含めて精度上の限界が存在する。 また、特許文献1に記載のcyclic RGDは、腫瘍細胞及び腫瘍組織そのものを標的とするペプチドではないため、がんを直接捕捉する性能を持つペプチドという点で新規であり、効率的ながん制御を必要とする制がん医療技術の面で未だ改良の余地があった。 本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、膵癌細胞及び組織に直接作用し、特異的な集積性を有する新規ペプチドを提供する。 すなわち、本発明は、以下の態様を含む。 [1]以下の(a)又は(b)のペプチド。 (a)配列番号1、2、3、4のいずれかで表される配列を含むアミノ酸配列からなるペプチド、 (b)配列番号1、2、3、4のいずれかで表される配列と同一性が60%以上である配列を含むアミノ酸配列からなり、且つ、膵癌に特異的な集積性を有するペプチド。 [2]L−アミノ酸からなるペプチドである[1]に記載のペプチド。 [3][1]又は[2]に記載のペプチドをコードすることを特徴とする核酸。 [4][3]に記載の核酸を含むことを特徴とするベクター。 [5][1]又は[2]に記載のペプチドを含むことを特徴とするキャリア。 [6]さらに、標識物質又は修飾物質を備える[5]に記載のキャリア。 [7]前記標識物質が、安定同位体、放射性同位体又は蛍光物質である[6]に記載のキャリア。 [8]前記修飾物質が、糖鎖又はポリエチレングリコールである[6]又は[7]に記載のキャリア。 [9][5]〜[8]のいずれか一つに記載のキャリアと生理活性物質とを備えることを特徴とする医薬組成物。 [10]膵癌治療用又は診断用である[9]に記載の医薬組成物。 本発明によれば、膵癌に特異的な集積性を有する新規ペプチドを提供することできる。 また、生体内で、転移巣を含めた膵癌病変を簡便、高感度且つ選択的に検出することができる。 試験例1における各種ペプチドを添加した各種膵癌細胞、その他癌細胞及び各種組織由来の正常細胞の蛍光顕微鏡写真である。 試験例1における各種ペプチドを添加した各細胞で検出された蛍光を定量化し、ヒト不死化正常膵管上皮細胞株であるHPNE細胞で検出された蛍光を1.0としたときの各細胞で検出された蛍光強度の割合を示すグラフである。 試験例1におけるヒト不死化正常膵管上皮細胞株であるHPNE細胞で検出された蛍光を1.0としたときの各種ペプチドを添加したBxPC3細胞で検出された蛍光強度の割合を示すグラフである。 試験例2におけるヒト膵癌細胞であるPanc1細胞を腹腔内に移植し、Peptide1を静脈内注射したマウスの各種組織の明視野及び暗視野の蛍光顕微鏡写真である。 試験例2におけるヒト膵癌細胞であるPK−8細胞を腹腔内に移植し、Peptide1を静脈内注射したマウスの各種組織の明視野及び暗視野の蛍光顕微鏡写真である。 試験例3におけるヒト膵癌細胞であるBxPC3細胞を膵臓に移植し、Peptide4を静脈内注射したマウスの各種組織の明視野及び暗視野の蛍光顕微鏡写真である。 試験例3におけるPeptide4を静脈内注射したマウスで検出された蛍光を定量化し、正常膵臓で検出された蛍光を1.0としたときの各種組織で検出された蛍光強度の割合を示すグラフである。
[膵癌に特異的な集積性を有するペプチド] 一実施形態において、本発明は、以下の(a)又は(b)のペプチドを提供する。 (a)配列番号1、2、3、4のいずれかで表される配列を含むアミノ酸配列からなるペプチド、 (b)配列番号1、2、3、4のいずれかで表される配列と同一性が60%以上である配列を含むアミノ酸配列からなり、且つ、膵癌に特異的な集積性を有するペプチド。 本実施形態のペプチドは、膵癌に特異的な集積性を有する新規のペプチドである。 本発明者らは、in vitro virus(IVV)法により、膵癌に特異的な集積性を有する新規ペプチドを見出し、本発明を完成するに至った。 IVV法では、mRNAの3’末端にPEG(ポリエチレングリコール)スペーサーを介して抗生物質の一種のピューロマイシンを結合し、それを鋳型として無細胞翻訳反応を行うことにより、タンパク質とmRNAとがピューロマイシンを介して共有結合した単純なmRNA−タンパク質連結分子IVVが構築される。本発明者らは、IVVを独自に作製することにより、IVVライブラリーを構築した。この構築されたIVVライブラリーの中からベイト(餌)と結合するタンパク質を含むIVVをin vitroで釣り上げた後、そこに連結しているmRNAを逆転写反応し、PCRで増幅し、塩基配列を解読することによって、相互作用するタンパク質群を、ごく微量(質量分析法の千倍以上の感度)で同定できる。 本実施形態のペプチドは、下記(a)のペプチドを含む。 (a)配列番号1、2、3、4のいずれかで表される配列を含むアミノ酸配列からなるペプチド。 上記(a)における配列番号1、2、3又は4で表されるアミノ酸配列は、下記のアミノ酸配列で表される配列である。 GYRRTTPSYWRMWLR (配列番号1) ARRYTWIRA (配列番号2) RAWRQCRWR (配列番号3) RRPTTWHKP (配列番号4) 上記(a)のペプチドは、膵癌に特異的な集積性を有する。また、本実施形態のペプチドは、配列番号1、2、3、4で表されるアミノ酸配列のみからなるペプチドであっても、膵癌に特異的な集積性を有する。 本明細書において、「膵癌」とは、膵臓から発生した腫瘍を意味し、膵臓癌とも言う。 膵臓は、膵液を産生する腺房、膵液を運ぶ膵管、及び内分泌腺であるランゲルハンス島などからなっており、癌はいずれの組織からも発生しうるが、それぞれ全く異なる性質を示す腫瘍となる。膵癌の種類としては、例えば、浸潤性膵管癌、膵内分泌腫瘍、膵管内乳頭粘液性腫瘍、粘液性嚢胞腫瘍、腺房細胞癌、漿液性嚢胞腺癌、転移性膵癌等が挙げられる。中でも、浸潤性膵管癌は膵臓にできる腫瘍性病変の80〜90%を占めている。 上記(a)のペプチドは、上述した全ての種類の膵癌に対して、特異的な集積性を有するため、後述するように上記(a)のペプチドをキャリアとして使用することで、全ての種類の膵癌を高感度且つ選択的に検出することができる。さらに、全ての種類の膵癌を治療することができる。また、中でも、膵臓にできる腫瘍性病変として代表的なものであることから、浸潤性膵管癌に対して適用することが好ましい。 本明細書において、「膵癌に特異的な集積性」とは、生体内正常組織及び他の系統の腫瘍細胞と比較して、膵癌細胞内に高度に吸収され、集積する性質を意味する。 本実施形態のペプチドは、上記(a)のペプチドと機能的に同等なペプチドとして、下記(b)のペプチドを含む。 (b)配列番号1、2、3、4のいずれかで表されるアミノ酸配列と同一性が60%以上であるアミノ酸配列からなり、且つ、膵癌に特異的な集積性を有するペプチド。 上記(a)のペプチドと機能的に同等であるためには60%以上の同一性を有する。係る同一性としては、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上が更に好ましく、90%以上が特に好ましく、95%以上が最も好ましい。 さらに、前記(b)のペプチドは、膵癌に特異的な集積性を有する。 ここで、基準アミノ酸配列に対する、対象アミノ酸配列の配列同一性は、例えば次のようにして求めることができる。まず、基準アミノ酸配列及び対象アミノ酸配列をアラインメントする。ここで、各アミノ酸配列には、配列同一性が最大となるようにギャップを含めてもよい。続いて、基準アミノ酸配列及び対象アミノ酸配列において、一致したアミノ酸の数を算出し、下記式(1)にしたがって、配列同一性を求めることができる。 「配列同一性(%)」 = [一致したアミノ酸の数]/[対象アミノ酸配列のアミノ酸の総数]×100 (1) 上記(a)又は(b)のペプチドは、環状構造であってもよい。環状構造であることにより、膵癌細胞内にのみ吸収されやすくなる。また、上記(a)又は(b)のペプチドは、L−アミノ酸、D−アミノ酸、又はこれらの組み合わせからなるものであってもよく、L−アミノ酸からなるペプチドであることが好ましい。 L−アミノ酸は、天然に存在するアミノ酸であり、D−アミノ酸は、L−アミノ酸残基のキラリティーが反転しているものである。また、膵癌に特異的な集積性を高めるために、又は他の物性を最適化するために化学的修飾を受けていてもよい。 上記(a)又は(b)のペプチドは、さらに、N末端及びC末端にシステイン残基を備えることが好ましい。具体的には、下記配列番号3で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。 CGYRRTTPSYWRMWLRC (配列番号5) CARRYTWIRAC (配列番号6) CRAWRQCRWRC (配列番号7) CRRPTTWHKPC (配列番号8) 本実施形態のペプチドは、N末端及びC末端にシステイン残基を備えることで、システイン残基が有するチオール基同士のジスルフィド結合を利用して環状化形態をとることができる。 [ペプチドをコードする核酸] 一実施形態において、本発明は、上述したペプチドをコードする核酸を提供する。 本実施形態の核酸によれば、膵癌に特異的な集積性を有するペプチドを得ることができる。 上記のペプチドをコードする核酸としては、例えば、配列番号9、10、11、12のいずれかで表される塩基配列からなる核酸、又は、配列番号9、10、11、12のいずれかで表される塩基配列と80%以上、例えば85%以上、例えば90%以上、例えば95%以上の同一性を有し、膵癌に特異的な集積性を有するペプチドの構成分となる各アミノ酸をコードする組み合わせの塩基配列のいかなるものも含めた核酸等が挙げられる。なお、配列番号9で表される塩基配列は、上記の配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする核酸の塩基配列であり、配列番号10で表される塩基配列は、上記の配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする核酸の塩基配列であり、配列番号11で表される塩基配列は、上記の配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする核酸の塩基配列であり、配列番号12で表される塩基配列は、上記の配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする核酸の塩基配列である。 ここで、基準塩基配列に対する、対照塩基配列の配列同一性は、例えば次のようにして求めることができる。まず、基準塩基配列及び対象塩基配列をアラインメントする。ここで、各塩基配列には、配列同一性が最大となるようにギャップを含めてもよい。続いて、基準塩基配列及び対象塩基配列において、一致した塩基の塩基数を算出し、下記式(2)にしたがって、配列同一性を求めることができる。 「配列同一性(%)」 = [一致した塩基数]/[対象塩基配列の総塩基数]×100 (2) [ペプチドをコードする核酸を含むベクター] 一実施形態において、本発明は、上述した核酸を含むベクターを提供する。 本実施形態のベクターによれば、膵癌に特異的な集積性を有するペプチドを得ることができる。 本実施形態のベクターは、発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターとしては特に限定されず、例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13等の大腸菌由来のプラスミド;pUB110、pTP5、pC194等の枯草菌由来のプラスミド;pSH19、pSH15等の酵母由来プラスミド;λファージ等のバクテリオファージ;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス、肝炎ウイルス等のウイルス;及びこれらを改変したベクター等を用いることができる。 上述の発現ベクターにおいて、上述のペプチド発現用プロモーターとしては特に限定されず、例えば、EF1αプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、HSV−tkプロモーター等の動物細胞を宿主とした発現用のプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーター、REF(rubber elongation factor)プロモーター等の植物細胞を宿主とした発現用のプロモーター、ポリヘドリンプロモーター、p10プロモーター等の昆虫細胞を宿主とした発現用のプロモーター等を使用することができる。これらプロモーターは、上述のペプチドを発現する宿主に応じて、適宜選択することができる。 上述の発現ベクターは、さらに、マルチクローニングサイト、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、複製起点等を有していてもよい。 [キャリア] 一実施形態において、本発明は、上述したペプチドを含むキャリアを提供する。 本実施形態のキャリアによれば、目的物質を膵癌まで簡便且つ効率よく運搬することができる。 本実施形態のキャリアは、さらに、標識物質又は修飾物質を備えることが好ましい。また、本実施形態のキャリアは、標識物質及び修飾物質両方を備えていてもよい。標識物質又は修飾物質は、上述のペプチドと、直接又はリンカーを介すことで、物理的又は化学的に結合されていてよい。具体的には配位結合、共有結合、水素結合、疎水性相互作用、物理吸着であってよく、何れも公知の結合、リンカー及び結合方法を採用することができる。また、結合位置は、上述のペプチドのN末端又はC末端いずれでもよい。 標識物質としては、例えば安定同位体、放射性同位体、蛍光物質、陽電子放射断層撮影(Positron Emission Tomography:PET)用核種、単一光子放射断層撮影(Single photon emission computed tomography:SPECT)用核種、核磁気共鳴画像法(Magnetic resonance imaging:MRI)造影剤、コンピューター断層撮影法(Computed Tomography:CT)造影剤、磁性体等が挙げられる。中でも、安定同位体、放射性同位体又は蛍光物質が好ましい。上記標識物質を備えることで、目的物質が膵癌に運搬されたか否かを簡便且つ高感度に確かめることができる。 安定同位体としては、例えば13C、15N、2H、17O、18Oが挙げられる。放射性同位体としては、例えば3H、14C、13N、32P、33P、35Sが挙げられる。標識物質が安定同位体又は放射性同位体である場合、安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸を用いて、上述のペプチドを作製してもよい。安定同位体又は放射性同位体で標識されるアミノ酸としては、20種類のアミノ酸(アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、チロシン、バリン、トリプトファン、システイン、アスパラギン、グルタミン)であって、上述のペプチドに含まれるアミノ酸であれば特に限定されない。また、アミノ酸はL体であってもD体であってもよく、必要に応じて適宜選択することができる。 安定同位体標識又は放射性同位体標識された上述のペプチドは、上述のペプチドをコードする核酸を含む上述のベクターを安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸の存在する系で発現させることにより調製することができる。安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸の存在する系としては、例えば安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸の存在する無細胞ペプチド合成系や生細胞ペプチド合成系等を挙げることができる。すなわち、無細胞ペプチド合成系において安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸に加えて安定同位体非標識アミノ酸又は放射性同位体非標識アミノ酸を材料としてペプチドを合成させることや、生細胞ペプチド合成系において、上述のペプチドをコードする核酸を含む上述のベクターで形質転換した細胞を安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸存在下で培養することにより、上述のペプチドをコードする核酸を含む上述のベクターから安定同位体標識又は放射性同位体標識された上述のペプチドを調製することができる。 無細胞ペプチド合成系を用いた安定同位体標識又は放射性同位体標識された上述のペプチドの発現は、上述のペプチドをコードする核酸を含む上述のベクターや上記の安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸の他に、安定同位体標識又は放射性同位体標識された上述のペプチドの合成のために必要な安定同位体非標識アミノ酸又は放射性同位体非標識アミノ酸、無細胞ペプチド合成用細胞抽出液、エネルギー源(ATP、GTP、クレアチンホスフェート等の高エネルギーリン酸結合含有物)等を用いて行うことができる。温度、時間等の反応条件は、適宜最適な条件を選択して行うことができ、例えば温度は20〜40℃、好ましくは23〜37℃であり、また反応時間は1〜24時間、好ましくは10〜20時間である。 本明細書において、「無細胞ペプチド合成用細胞抽出液」とは、リボソーム、tRNA等のタンパク質合成に関与する翻訳系、又は、転写系及び翻訳系に必要な成分を含む植物細胞、動物細胞、真菌細胞、細菌細胞からの抽出液を意味する。具体的には、大腸菌、小麦胚芽、ウサギ網赤血球、マウスL−細胞、エールリッヒ腹水癌細胞、HeLa細胞、CHO細胞、出芽酵母等の細胞抽出液を挙げることができる。かかる細胞抽出液の調製は、例えばPratt,J.M.ら、Transcription and trasnlation−a practical approach(1984)、pp.179−209に記載の方法に従い、上記の細胞をフレンチプレス、グラスビーズ、超音波破砕装置等を用いて破砕処理し、タンパク質成分やリボソームを可溶化するための数種類の塩を含有する緩衝液を加えてホモジナイズし、遠心分離にて不溶成分を沈殿させることによって行うことができる。 また、無細胞ペプチド合成系を用いた安定同位体標識又は放射性同位体標識された上述のペプチドの発現は、例えば、小麦胚芽抽出液を備えたPremium Expression Kit(セルフリーサイエンス社製)、大腸菌抽出液を備えたRTS 100,E.coli HY Kit(Roche Applied Science社製)、無細胞くんQuick(大陽日酸社製)等市販のキットを適宜使用して行ってもよい。発現させた安定同位体標識又は放射性同位体標識された上述のペプチドが不溶性の場合、グアニジン塩酸塩、尿素等のタンパク質変性剤を用いて適宜可溶化させてもよい。安定同位体標識又は放射性同位体標識された上述のペプチドは、さらに分画遠心法、ショ糖密度勾配遠心法等による分画処理や、アフィニティーカラム、イオン交換クロマトグラフィー等を用いた精製処理により調製することもできる。 生細胞ペプチド合成系を用いた安定同位体標識又は放射性同位体標識された上述のペプチドの発現は、生細胞に上述のペプチドをコードする核酸を含む上述のベクターを導入し、かかる生細胞を栄養分や抗生物質等の他、上記の安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸、安定同位体標識ペプチド又は放射性同位体標識ペプチドの合成のために必要な安定同位体非標識アミノ酸又は放射性同位体非標識アミノ酸等を含む培養液中で培養することにより行うことができる。ここで生細胞としては、上述のペプチドをコードする核酸を含む上述のベクターを発現させることができる生細胞であれば特に限定されず、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞等の哺乳類細胞株や、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞等の生細胞を挙げることができ、簡便性や費用対効果の面から考慮すると、大腸菌が好ましい。上述のペプチドをコードする核酸を含む上述のベクターの発現は、遺伝子組換え技術により、それぞれの生細胞で発現できるように設計された発現ベクターへ組み込み、かかる発現ベクターを生細胞へ導入することにより行うことができる。また上述のペプチドをコードする核酸を含む上述のベクターの生細胞への導入は、使用する生細胞に適した方法で行うことができ、例えば、エレクトロポレーション法、ヒートショック法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、パーティクル・ガン法、ウイルスを用いた方法や、FuGENE(登録商標) 6 Transfection Reagent(ロシュ社製)、Lipofectamine 2000 Reagent(インビトロジェン社製)、Lipofectamine LTX Reagent(インビトロジェン社製)、Lipofectamine 3000 Reagent(インビトロジェン社製)等の市販のトランスフェクション試薬を用いた方法等を挙げることができる。 生細胞ペプチド合成系により発現させた安定同位体標識又は放射性同位体標識された上述のペプチドは、安定同位体標識又は放射性同位体標識された上述のペプチドを含む生細胞を破砕処理や抽出処理することにより調製することができる。破砕処理としては、例えば凍結融解法、フレンチプレス、グラスビーズ、ホモジナイザー、超音波破砕装置等を用いた物理的破砕処理等を挙げることができる。また抽出処理としては、例えばグアニジン塩酸塩、尿素等のタンパク質変性剤を用いた抽出処理等を挙げることができる。安定同位体標識又は放射性同位体標識された上述のペプチドは、さらに分画遠心法、ショ糖密度勾配遠心法等による分画処理や、アフィニティーカラム、イオン交換クロマトグラフィー等を用いた精製処理等により調製することもできる。 蛍光物質としては、例えば公知の量子ドット、インドシアニングリーン、5−アミノレブリン酸(5−ALA;代謝産物プロトポルフィリンIX(PP IX)、近赤外蛍光色素(例えば、Cy5.5、Cy7、AlexaFluoro等)、その他公知の蛍光色素(例えば、GFP、FITC(Fluorescein)、TAMRA等)等が挙げられる。蛍光物質標識された上述のペプチドは、蛍光物質及び上述のペプチドをコードする核酸を含む上述のベクターを、安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸を使用せずに、上述の無細胞ペプチド合成系又は生細胞ペプチド合成系により調製すればよい。 PET用核種、SPECT用核種として好ましくは、例えば11C、13N、15O、18F、66Ga、67Ga、68Ga、60Cu、61Cu、62Cu、67Cu、64Cu、48V、Tc−99m、241Am、55Co、57Co、153Gd、111In、133Ba、82Rb、139Ce、Te−123m、137Cs、86Y、90Y、185/187Re、186/188Re、125I、又はそれらの錯体、或いはそれらの組み合わせ等が挙げられる。PET用核種又はSPECT用核種で標識された上述のペプチドは、上述のペプチドをコードする核酸を含む上述のベクターを、上述の無細胞ペプチド合成系又は生細胞ペプチド合成系により調製すればよい。 MRI造影剤、CT造影剤及び磁性体としては、例えばガドリニウム、Gd−DTPA、Gd−DTPA−BMA、Gd−HP−DO3A、ヨード、鉄、酸化鉄、クロム、マンガン、又はその錯体、若しくはそのキレート錯体等が挙げられる。MRI造影剤、CT造影剤又は磁性体で標識された上述のペプチドは、MRI造影剤、CT造影剤又は磁性体と上述のペプチドとを直接又はリンカーを介すことで、物理的又は化学的に結合させて調製すればよい。具体的には配位結合、共有結合、水素結合、疎水性相互作用、物理吸着であってよく、何れも公知の結合、リンカー及び結合方法を採用することができる。 修飾物質としては、例えば糖鎖、ポリエチレングリコール(PEG)等を挙げることができる。上記の修飾物質を備えることで、目的物質が膵癌細胞内に簡便且つ効率よく吸収されやすくなる。修飾物質で修飾された上述のペプチドは、修飾物質と上述のペプチドとを直接又はリンカーを介すことで、物理的又は化学的に結合させて調製すればよい。具体的には配位結合、共有結合、水素結合、疎水性相互作用、物理吸着であってよく、何れも公知の結合、リンカー及び結合方法を採用することができる。また、結合位置は、上述のペプチドのN末端又はC末端いずれでもよい。 本実施形態のキャリアにおいて、目的物質としては、用途に応じて適宜選択することができ、例えば膵癌のイメージングのために使用する場合においては、後述するとおり、上述の標識物質を目的物質として備えることができ、また、膵癌の治療又は診断用途で使用する場合においては、後述するとおり、生理活性物質を目的物質として備えることができる。目的物質は、上述のペプチドと、直接又はリンカーを介すことで、物理的又は化学的に結合されていてよい。具体的には配位結合、共有結合、水素結合、疎水性相互作用、物理吸着であってよく、何れも公知の結合、リンカー及び結合方法を採用することができる。また、目的物質と上述のキャリアとの結合位置は、必要に応じて適宜選択できる。 また、本実施形態のキャリアにおいて、目的物質がタンパク質である場合、目的物質と上述のペプチドとを含む融合タンパク質は、例えば次のような方法により作製することができる。まず、融合タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを用いて、宿主を形質転換する。続いて、当該宿主を培養して融合タンパク質を発現させる。培地の組成、培養の温度、時間、誘導物質の添加等の条件は、形質転換体が生育し、融合タンパク質が効率よく産生されるよう、公知の方法に従って当業者が決定できる。また、例えば、選択マーカーとして抗生物質抵抗性遺伝子を発現ベクターに組み込んだ場合、培地に抗生物質を加えることにより、形質転換体を選択することができる。続いて、宿主が発現した融合タンパク質を適宜の方法により精製することにより、融合タンパク質が得られる。 宿主としては、融合タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを発現させることができる生細胞であれば特に制限されず、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞等の哺乳類細胞株や、ウイルス(例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス、肝炎ウイルス等のウイルス等)、細菌(例えば、大腸菌等)等の微生物、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞などの生細胞が挙げられる。 さらに、本実施形態のキャリアにおいて、上述の融合タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを膵癌細胞又は組織に直接導入し、発現させてもよい。 [医薬組成物] 一実施形態において、本発明は、上述のキャリアと生理活性物質とを備える医薬組成物を提供する。 本実施形態の医薬組成物によれば、膵癌(特に、浸潤性膵管癌)を選択的に治療することができる。 本明細書において、「生理活性物質」としては、膵癌の治療に有効なものであれば、特別な限定はなく、例えば抗癌剤等の薬剤、核酸、膵癌に特異的に結合する抗体、抗体断片、アプタマー等が挙げられる。 「生理活性物質」としては、膵癌選択的な細胞障害活性を有する分子標的薬が好ましいが、上述のキャリアにより、膵癌選択的に蓄積されるため、従来の抗癌剤として用いられているサイトトキシック薬でもよい。 また、生理活性物質は、上述のキャリアと、直接又はリンカーを介すことで、物理的又は化学的に結合されていてよい。具体的には配位結合、共有結合、水素結合、疎水性相互作用、物理吸着であってよく、何れも公知の結合、リンカー及び結合方法を採用することができる。また、生理活性物質と上述のキャリアとの結合位置は、必要に応じて適宜選択できる。また、本実施形態の医薬組成物において、上述のキャリアは上述の標識物質又は修飾物質を含んでいてもよい。 核酸は、例えば、siRNA、miRNA、antisense、又はそれらの機能を代償する人工核酸等が挙げられる。 抗体は、例えば、マウス等のげっ歯類の動物に膵癌由来のペプチド等を抗原として免疫することによって作製することができる。また、例えば、ファージライブラリーのスクリーニングにより作製することができる。抗体断片としては、Fv、Fab、scFv等が挙げられる。 アプタマーとは、膵癌に対する特異的結合能を有する物質である。アプタマーとしては、核酸アプタマー、ペプチドアプタマー等が挙げられる。膵癌に特異的結合能を有する核酸アプタマーは、例えば、systematic evolution of ligand by exponential enrichment(SELEX)法等により選別することができる。また、膵癌に特異的結合能を有するペプチドアプタマーは、例えば酵母を用いたTwo−hybrid法等により選別することができる。 本実施形態の医薬組成物は、膵癌診断、膵癌治療効果診断、病態解析、膵癌治療、又は膵癌を伴う疾患の診断、病態解析、治療、治療効果診断のために用いることができる。本実施形態の医薬組成物を用いた診断方法としては、例えばPET、SPECT、CT、MRI、内視鏡による診断、蛍光検出器による診断等が挙げられる。 <投与量> 本実施形態の医薬組成物は、被検動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重、症状、治療方法、投与方法、処理時間等を勘案して適宜調節される。 例えば、本実施形態の医薬組成物を注射剤により静脈内(Intravenous:i.v.)注射する場合、被検動物(好ましくはヒト)に対し、1回の投与において1kg体重当たり、5mg以上のペプチドの量を投与することが好ましく、5mg以上15mg以下のペプチドの量を投与することがより好ましく、5mg以上10mg以下のペプチドの量を投与することが特に好ましい。 投与回数としては、1週間平均当たり、1回〜数回投与することが好ましい。 投与形態としては、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、鼻腔内的、腹腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、又は経口的に当業者に公知の方法が挙げられ、静脈内注射又は腹腔内的投与が好ましい。 <組成成分> 本実施形態の医薬組成物は、治療的に有効量の上述のキャリア及び生理活性物質、並びに薬学的に許容されうる担体又は希釈剤を含む。薬学的に許容されうる担体又は希釈剤は、賦形剤、稀釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味料、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤、添加剤等が挙げられる。これら担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤、又はシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。 また、担体としてコロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、ペプチドの生体内安定性を高める効果や、特定の臓器、組織、又は細胞へ、ペプチドの移行性を高める効果が期待される。コロイド分散系としては、ポリエチレングリコール、高分子複合体、高分子凝集体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル、リポソームを包含する脂質を挙げることができ、特定の臓器、組織、又は細胞へ、ペプチドを効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞が好ましい。 本実施形態の医薬組成物における製剤化の例としては、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤として経口的に使用されるものが挙げられる。 又は、水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用されるものが挙げられる。さらには、薬理学上許容される担体又は希釈剤、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化されたものが挙げられる。 錠剤、カプセル剤に混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤が用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記の材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。 注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。 注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO−50と併用してもよい。 注射用の油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液等)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン等)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノール等)、酸化防止剤等を配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。 注射剤である場合、上記のような水性又は非水性の希釈剤、懸濁剤、又は乳濁剤として調製することもできる。このような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤等の配合により行うことができる。注射剤は、用事調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法などによって、無菌の固体組成物とし、使用前に注射用蒸留水又は他の溶媒に溶解して使用することができる。 <治療方法> 本発明の一側面は、膵癌の治療のための上述のキャリアと生理活性物質とを備える医薬組成物を提供する。 また、本発明の一側面は、治療的に有効量の上述のキャリア及び生理活性物質、並びに薬学的に許容されうる担体又は希釈剤を含む医薬組成物を提供する。 また、本発明の一側面は、前記医薬組成物を含む、膵癌の治療剤を提供する。 また、本発明の一側面は、膵癌の治療剤を製造するための上述のキャリア及び生理活性物質の使用を提供する。 また、本発明の一側面は、上述のキャリア及び生理活性物質の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、膵癌の治療方法を提供する。 [膵癌をイメージングするための方法] 一実施形態において、本発明は、膵癌をイメージングするための方法であって、上述のキャリアを用いる方法を提供する。 本実施形態の方法によれば、膵癌を簡便、高感度且つ選択的に検出することができる。 本実施形態の方法において、上述のキャリアは標識物質を備えることが好ましい。さらに、修飾物質を備えていてもよい。標識物質及び修飾物質としては、上述したものと同様のものが挙げられる。 例えば、標識物質を備える上述のキャリアを膵癌細胞に添加する場合において、標識物質を備える上述のキャリアの添加量は培養液中1μM以上4μM以下が好ましい。また、添加後、30分以上3時間以下後には膵癌細胞内に集積されているか否かについて評価することができる。 また、例えば、標識物質として蛍光物質を備える上述のキャリアを注射剤により静脈内(Intravenous:i.v.)注射する場合、被検動物(好ましくはヒト)に対し、1回の投与において1kg体重当たり、5mg以上のペプチドの量を投与することが好ましく、5mg以上15mg以下のペプチドの量を投与することがより好ましく、5mg以上10mg以下のペプチドの量を投与することが特に好ましい。 また、例えば、標識物質として安定同位体、PET用核種又はSPECT用核種を備える上述のキャリアを注射剤により静脈内(Intravenous:i.v.)注射する場合、使用する安定同位体、PET用核種又はSPECT用核種の種類に応じた放射線量から投与量を決定すればよい。 本実施形態の方法において、標識物質を備える上述のキャリアの検出方法としては、例えばPET、SPECT、CT、MRI、内視鏡による検出、蛍光検出器による検出等が挙げられる。 以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。 [実施例1]ペプチドの合成 独自に作製した、ピューロマイシン(puromycin)を介在して表現型としての9アミノ酸残基ペプチド又は15アミノ酸残基ペプチドとそれに対応する遺伝子型としてのmRNAコード配列を有するprotein−RNAキメラ型ランダムペプチドライブラリー(in vitro virus library; IVVL)を用いて、公知のIVV(in vitro virus)法に準じて、下記表1に示す各ペプチド(Peptide1〜4)を分離及び同定した。また、IVVL由来の同定された各ペプチドは、FITC(Fluoresceinisothiocyanate)ラベルで合成し、塩酸塩処理を施したものである。また、r9(9残基連続D−アルギニン)は、現在汎用されている非選択的膜透過性ペプチドである。 これらは、いずれもシグマアルドリッチジャパン(ジェノシス事業部)への委託合成により入手した。
また、以下の試験例1〜2に使用した各種細胞の細胞株と由来は下記表2示したとおりである。これらは、発明者が研究室において、継代培養して維持しているものである。
膵癌細胞、HPNE細胞は、5%FBS含CS−C培地キットを用いて培養した。KYN−2細胞、HaCaT細胞、NHDF細胞、MMNK−1細胞、Liver細胞については、10%FBS含有RPMI1640培地(RPMI1640 medium)を用いて培養した。Kidney細胞は、正常ヒト腎臓上皮細胞用増殖培地(RenaLife Comp Kit)を用いて培養した。NuLi−1細胞は、BEGM培地(Bronchial Epithelial Growth Medium, Serum−free)を用いて培養した。TIME細胞は、EBM−2−MV Bullet kit(Endothelial Cell Basal Medium−2 Bullet kit)を用いて培養した。 [試験例1]ペプチドの膵癌細胞、その他癌細胞及び各種組織由来の正常細胞での集積性の確認試験 表2に示した各種膵癌細胞、KYN−2細胞及び各種組織由来の正常細胞に、実施例1において作製したPeptide1、2、3及び4、並びにr9ペプチドをそれぞれ、培地中に終濃度2μMとなるように添加した。それらの細胞を37℃で2時間培養した。続いて、ペプチド含有培地を取り除くために、培地で3回洗浄した。続いて、倒立型蛍光顕微鏡で生細胞における各ペプチドの取り込みを視覚的に評価した。検鏡の前にペプチドを添加した培養上清を除去し1×PBS(−)で3回洗浄後、トリプシン処理し接着細胞を剥離してただちに新しい96穴プレートに移入して新しい培養液に再懸濁後、検鏡を行った。結果を図1に示す。 図1から、Peptide1、2、3及び4について、KYN−2細胞及び各種組織由来の正常細胞ではほとんど蛍光が検出されず、各種膵癌細胞において強い蛍光が検出されることが明らかとなった。 また、図2Aのグラフは、試験例1において、各細胞で検出された蛍光を定量化し、ヒト不死化正常膵管上皮細胞株であるHPNE細胞で検出された蛍光を1.0としたときの各細胞で検出された蛍光強度の割合を示すグラフである。 図2Aから、Peptide1〜4を添加したBxPC3細胞において、その他の細胞よりも強い蛍光が検出されることが確かめられた。 図2Bは、ヒト不死化正常膵管上皮細胞株であるHPNE細胞で検出された蛍光を1.0としたときの各種ペプチドを添加したBxPC3細胞で検出された蛍光強度の割合を示すグラフである。 図2Bから、Peptide1及び2は、正常膵管上皮細胞への吸収を1.0とした時に、標的である膵癌細胞であるBxPC3細胞への吸収比(S/N比:Signal/noise ratio)が約6倍であった。さらに、Peptide3及び4は、標的である膵癌細胞であるBxPC3細胞においてS/N比が10倍以上と強い蛍光シグナルが検出された。 [試験例2]ヒト膵癌細胞移植マウスでの各種組織におけるペプチドの集積性の評価試験 ヒト膵癌細胞であるPanc1細胞又はPK−8細胞をそれぞれ1×106個ずつ腹腔内に移植したNOD−SCIDマウス(日本クレア社より購入した6週齢雌マウス)をヒト膵癌細胞移植マウスとして作製した。ヒト膵癌細胞の移植から30日後に、マウス体重20gに対して300μgの実施例1で作製したPeptide1を静脈内(i.v.)注射した。投与後30分で開腹して新鮮摘出状態で腫瘍病変と正常臓器群におけるペプチドの分布及び蛍光強度を蛍光実体顕微鏡下で観察した。結果を図3A及び図3Bに示す。図3A及び図3Bにおいて、「Bright Field」とは明視野において撮影した画像であり、「FITC」は暗視野において488nm波長緑色蛍光励起条件下で撮影した画像である。 図3A及び図3Bにおいて、腫瘍及び転移巣で、FITCの強い蛍光が検出された。このことから、Peptide1は、膵癌に特異的な集積性を有することが確かめられた。 [試験例3]ヒト膵癌細胞移植マウスでの各種組織におけるペプチドの集積性の評価試験 ヒト膵癌細胞であるBxPC3細胞1×106個を膵臓に移植したNOD−SCIDマウス(日本クレア社より購入した6週齢雌マウス)をヒト膵癌細胞移植マウスとして作製した。ヒト膵癌細胞の移植から30日後に、マウス体重20gに対して150μgの実施例1で作製したPeptide4を静脈内(i.v.)注射した。投与後30分で開腹して新鮮摘出状態で腫瘍病変と正常臓器群におけるペプチドの分布及び蛍光強度を蛍光実体顕微鏡下で観察した。結果を図4に示す。図4において、「Bright Field」とは明視野において撮影した画像であり、「FITC」は暗視野において488nm波長緑色蛍光励起条件下で撮影した画像である。また、図4において、brainは脳、heartは心臓、kidneyは腎臓、liverは肝臓、lungは肺、muscleは骨格筋、pancreasは膵臓、spleenは脾臓、tumorは悪性腫瘍を意味し、surfaceは各種臓器の表面、transectionは各種臓器の横断切片を意味する。 図4において、腫瘍及び腎臓で、FITCの強い蛍光が検出された。 また、図5は、正常膵臓で検出された蛍光を1.0としたときの各種組織で検出された蛍光強度の割合を示すグラフである。 図5から、Peptide4は、正常膵臓への吸収を1.0とした時に、標的である悪性腫瘍(ヒト膵癌細胞)へのS/N比が約9倍であった。また、腎臓において、S/N比が約11倍であったが、これはPeptide4が腎臓の細胞内に吸収されて蓄積されているわけではなく、静脈内注射したPeptide4の一部が利尿作用としての体外への排尿経路として腎静脈から尿管へ移行しているためである。また、表面からの撮影画像における骨格筋の両末端の部分の蛍光は、付属する腱の持つ自家蛍光によるもので、骨格筋の横断割面では蛍光は消失していた。 以上のことから、Peptide4は、膵癌組織にin vivoで特異的な集積性を有することが確かめられた。 本発明によれば、膵癌に特異的な集積性を有する新規ペプチドを提供することできる。 また、生体内で、転移巣を含めた膵癌病変を簡便、高感度且つ選択的に検出することができる。 |