【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、株式売買注文データ表示用チャートに関し、特に、ある銘柄に関する日中の株式売買注文に基づいた売買気配値の分布を視覚的に認識し易い態様で提示することが可能な株式売買注文データ表示用チャートに関する。

【０００２】

【従来の技術】株式の売買取引は、株式を売りたい投資家（以下、「売り手」という）と株式を買いたい投資家（以下、「買い手」という）との間で、値段が合意したときに成立する。 周知の通り、投資家がある銘柄の株の売買注文を行う場合、売り（株式売却）と買い（株式買付）の別と、注文株数（注文数量）と、値段を指定する。 投資家が売り（又は買い）の値段を指定して行う注文を「指値（さしね）注文」という。 一方、投資家が値段を指定せず、売買の成立を優先させたい場合に行う注文を「成行（なりゆき）注文」という。

【０００３】例えば、今「Ａ電気株式会社」という銘柄について、直近に商いの成立した値段が４００円だとする（この値段は「現在値（げんざいね）」あるいは「時価」と呼ばれる）。 ここで、この銘柄の株を指値４０２
円で売りたい売り手がいるとき、この４０２円を「売り気配値」と呼ぶ。 一方、指値３９７円で買いたい買い手がいるとき、この３９７円を「買い気配値」と呼ぶ。 株式市場においては、これら売買気配値と同時に値段毎の株数がデータとして公表されている。 例えば、４０２円で売りたいとする売り注文の株数が「８０００株」、３
９７円で買いたいとする買い注文の株数が「１２０００
株」、といったデータである。 今、「Ａ電気株式会社」
の株に買い注文を出す場合を考えると、８０００株までならば４０２円の値段で直ちに買えることになる。 一方、４０１円以下で買うためには、その値段での売り手の出現を待たなければならない。 なお、現実の証券取引においては、指値の異なる複数の売り（又は買い）注文があり、指値毎の株数も千株単位のものから１０万株単位、それ以上のものまで広い幅を持っている。 こうした株式の売買注文データは「板（いた）」と呼ばれ、従来証券取引所内部あるいはその会員である証券会社内部のコンピュータシステム上で公開されているに過ぎなかったが、時代の流れにつれて一般投資家向けに公開されつつある。

【０００４】

【発明が解決しようとする課題】図５に示すように、従来の「板」の表示方式は、ある１つの銘柄に関する売買未成立の売り注文株数と及び買い注文株数とを左右に振り分けて値段順に並べ、現在値とともに１つの画面上に表示する方式しか存在しなかった。

【０００５】図６は、見たい複数の銘柄Ａ，Ｂ，Ｃ，Ｄ
があり、それら銘柄に関する板が時刻Ｔ１，Ｔ２，Ｔ３
とともに変化する様子を、画面５１に表示された板５２
によって説明したものである。 従来の表示方式では、１
つの画面に１つの銘柄の現在の板しか表示できなかったため、１つの銘柄に関する売買気配値の時系列的の分布の変化を即座に読み取ったり、複数の銘柄に関する売買気配値を次々と見て現在の「場」の雰囲気を直感的に読み取ることは相当困難であった。

【０００６】そこで、本発明の目的は、このような問題点を解消し、ある銘柄に関する日中の株式売買注文に基づいた売買気配値の分布を視覚的に認識し易い態様で提示可能な株式売買注文データ表示用チャートを提供することにある。 また、本発明の他の目的は、一つの銘柄に関する時系列的な売買気配値の分布の変化を一度に提示し、又は複数の銘柄に関する売買気配値の分布を一度に提示することが可能な株式売買注文データ表示用チャートを提供することにある。

【０００７】

【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明に係る株式売買注文データ表示用チャートは、一つの銘柄の株式に関し、日中のある時刻での現在値と、投資家から指値で出され未だ売買が成立していない売り注文又は買い注文の値段及びその値段における株数を表示するチャートであって、縦軸方向に値段、横軸方向に株数を表示するよう構成し、現在値を表す１つの現在値プロットと売り注文又は買い注文の値段を表す１
つ又複数の指値プロットとを縦軸方向に結合した線分からなる値幅部と、値幅部上の指値プロットを始点としてその値段における株数に応じて横軸方向に延びる株数表示部とからなることを特徴とする。 この場合、株数表示部は、売り注文の場合は横軸の負の方向に延び、買い注文の場合は横軸の正の方向に延びることが好ましい。

【０００８】本発明に係る他の実施形態によれば、１つの銘柄に関し、上記の株式売買注文データ表示用チャートを時系列的に複数作成し、１つの画面上又はシート上に並べて表示する。 また、本発明に係る別の実施形態によれば、複数の銘柄毎に請求項１の株式売買注文データ表示用チャートを作成し、１つの画面上又はシート上に並べて表示する。

【０００９】なお、本発明に係る株式売買注文データ用チャートは、例えば、所望のチャート作成処理をコンピュータに実行させるようプログラムされたソフトウェアをそのコンピュータにインストールし、通信回線等を介して得た日中のある時刻での現在値と、投資家から指値で出され未だ売買が成立していない売り注文又は買い注文の値段及び該値段における株数を入力し、プログラムを実行させることによって、コンピュータ画面上に表示させ、又はシートとして出力させることができる。

【００１０】

【発明の実施の形態】以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面に基づき説明する。 なお、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した技術思想の範囲内において種々の変更が可能なのはいうまでもない。

【００１１】図１は、本発明の一実施形態に係る株式売買注文データ表示用チャートの説明図である。 ある一つの銘柄の株式に関し、日中のある時刻での現在値と、投資家から指値で出され未だ売買が成立していない売り注文又は買い注文の値段及びその値段における株数を表示している。 図１において、縦軸方向は値段、横軸方向は株数を表示している。

【００１２】本チャートは、現在値プロット１と、値幅部１０と、複数の株数表示部２０を有している。 現在値プロット１は、日中のある時刻での現在値を表している。 値幅部１０は、上記現在値プロット１と、その時刻での指値による売り注文の値段を表す複数の指値プロット２ａ，２ｂ，２ｃ，２ｄ及び指値による買い注文の値段を表す複数の指値プロット３ａ，３ｂ，３ｃ，３ｄ
を、縦軸方向（垂直方向）に結合した線分４からなる。
ここで、現在値プロット１は、線分４と明確に区別可能な白丸として表示されているのに対し、指値プロット２
ａ，２ｂ，２ｃ，２ｄ，３ａ，３ｂ，３ｃ，３ｄは、線分４中に完全に包含されており、独立した「点」としては表示されていない。

【００１３】株数表示部２０は以下のように表されている。 値幅部１０上の１つの指値プロット２ａを参照すると、指値プロット２ａを始点としてその値段における売り注文株数に応じた長さだけ負の横軸方向に延びる１本の線分５ａと、線分５ａの終点と値幅部１０の最上点９
ａを結ぶ１本の斜線７ａが設けられている。 同様にして、指値による売り注文の値段を表す他の指値プロット２ｂ，２ｃ，２ｄについても、線分５ｂ，５ｃ，５ｄと斜線７ｂ，７ｃ，７ｄが設けられている。 これにより、
それぞれの指値プロットに関し、値段と売り注文株数よってその形状を変える直角三角形からなる株数表示部２
０を形成している。

【００１４】指値による買い注文の値段を表す指値プロット３ａ，３ｂ，３ｃ，３ｄについても、上記の場合と同様に、その値段における買い注文株数に応じた長さだけ横軸方向に延びる線分６ａ，６ｂ，６ｃ，６ｄが設けられている。 しかしながら、線分６ａ，６ｂ，６ｃ，６
ｄは正の横軸方向に延びており、しかも斜線８ａ，８
ｂ，８ｃ，８ｄは各線分の終点と値幅部１０の最下点９
ｂとを結んでいる。 この結果、買い注文に関する株数表示部と売り注文に関連する株数表示部とは、現在値を中心とした点対称の位置関係に類似した位置関係に置かれることがわかる。

【００１５】本実施形態に係るチャートによれば、指値プロットから延びる線分のレベル（縦軸上の位置）によって、指値による売り（買い）注文の値段、すなわち売り気配値（買い気配値）を表し、また、線分の長さ及びその延びる方向の違いが、注文株数と「売り」「買い」
の別を表している。 従って、売り気配値（買い気配値）
及びその値段における株数の分布状況を、まとまりのある１つの図形によって直感的に読み取ることが可能である。

【００１６】本実施形態に係るチャートは、以上のような表示形態を採ることにより、従来の「板」に対応する株式売買注文データを視覚的に容易に認識可能な態様で提示できる他に、次のような利点を有する。 図２は、複数の銘柄Ａ，Ｂ，Ｃ，Ｄ，Ｅ，Ｆ，Ｇ，Ｈについて、ある時点での株式売買注文データに基づき、本実施形態に従いチャート処理した結果を、１つの画面上に並べて表示した例である。 「売り」の勢力の強い銘柄（Ｃ，Ｄ，
Ｇ）、「買い」の勢力の強い銘柄（Ｅ，Ｆ）、といった銘柄毎の気配の特徴を、１つの画面によって見る者にわかり易く提示可能なことがわかる。

【００１７】図３は、ある１つの銘柄Ａについて、時刻Ｔ１から時刻Ｔ４に至るまでの株式売買注文データ及び現在値の推移を、本実施形態に従いチャート処理し、結果を１つの画面上に並べて表示した例である。 この例によれば、見る者は、時系列的に変化する「売り」と「買い」の需給状況をビジュアルに掴むことができる。 この例について以下説明する。

【００１８】［時刻Ｔ１］時刻Ｔ１において、現在値（時価）はＪ１であり、Ｕ１，Ｕ２，Ｕ３を指値とする売り注文と、Ｋ１，Ｋ２を指値とする買い注文が売買未成立で存在している。

【００１９】［時刻Ｔ１から時刻Ｔ２にかけて］Ｕ１の売り注文が消化され（売買成立し）、株価がＪ１からＪ
２に値上がりしたことがわかる。 同時にＵ４，Ｕ５の新規の売り注文が入り、Ｋ１の買い注文が取り消され、Ｋ
２の株数が若干増え、Ｋ３という新規の買い注文が入ったことがわかる。

【００２０】［時刻Ｔ２から時刻Ｔ３にかけて］Ｕ２，
Ｕ３，Ｕ４の売り注文が次々と消化され、株価はＪ３まで値上がりした。 Ｊ３には更にＫ５の買い注文が残っている状態であるが、Ｕ６，Ｕ７，Ｕ８の新規の売り注文も大きく入ってきた（「上値が重い状態」とも呼ばれる）。

【００２１】［時刻Ｔ３から時刻Ｔ４にかけて］ここでＪ３の株価で売ってもよいと考える投資家が出て来て、
Ｋ５がなくなったが、売りの株数の方が多かったようで、Ｕ９が未消化で残った。 成行注文かＫ４の指値注文かはわからないが、Ｋ４の買い注文も株数の半分ほどが消化され現在値はＪ４である。

【００２２】図３によれば、一つの銘柄に関する時系列的な売買気配値の分布の変化を一度に提示することができる。

【００２３】本発明に係る株式売買データ表示用チャートは、図１の形式に限定されるものではなく、図４に例示したような各種の形式でもよい。 すなわち、図４
（Ａ）は、株数表示部３０を、指値プロットを始点としてその値段における注文株数に応じた長さだけ横軸方向に延びる１本の線分のみ（すなわち「棒」）とした例、
図４（Ｂ）は、株数表示部４０を、値段の方向に所定の幅を有した帯とした例であり、いずれの形式でも、売り気配値（買い気配値）及びその値段における株数の分布状況を、まとまりのある１つの図形によって直感的に読み取ることができる。

【００２４】なお、図１、図２、図３及び図４において、現在値プロット１を白丸と黒丸の２通りで表示している。 これは、現在値が直前の株価から値上がりした場合白丸で表示し、逆に値下がりした場合黒丸で表示することで、現在値が直前の株価との関係で「上げ」に推移したものか「下げ」に推移したものか容易に区別可能にしたものである。

【００２５】また、値幅部１０は、表示させたい最高の売り気配値から所定の値段だけ高い値段に相当する位置に最上点があり、最低の買い気配値から所定の値段だけ低い値段に相当する位置に最下点があるようにその長さを選ぶことが好ましいが、これに限定されるものではない。 例えば、現在値を中心とする一定の値幅（この値幅は、現在値上下１０％等任意に設定できる）に固定する、いわゆる「制限値幅」を基準として設定する、売り注文株数と買い注文株数がバランスするまで制限値幅内で上下に伸ばす、又は表示時点までの日中の株価変動の大小に応じて設定する等は任意である。

【００２６】１つの銘柄に関する株数表示部は、証券会社等から提供される売買気配値データ全てに対応させて多数表示する場合のみならず、一定の基準でその数を制限してもよい。 例えば、現在値の近傍の売り気配値と買い気配値（より売買が成立し易い気配値ということができる）をそれぞれ３つに限定して表示するようなことも可能である。

【００２７】また、注文株数には大きな幅があり、例えば、１千株単位から１万株、１０万株、１００万株単位のように、１つの銘柄に関し桁違いの株数の取扱いが問題となる。 また、複数の銘柄に関するチャートを表示しようとするときも、同様に桁違いの株数の取扱いが問題となる。 このような場合、本チャートの株数表示部を、
株数に比例して横軸方向に単純に延ばす代わりに、株数表示部の相対的な大小関係がわかるように大きい株数の横軸方向縮尺スケールを適宜決めて表示することができる。 更に、必要に応じて株数表示部の表示色を変える、
若しくは模様その他の装飾を施すことにより、株数が桁違いであることを識別可能とすることができる。

【００２８】また、本チャートには、補助的なデータとして、指値の値段若しくは注文株数又はその両方を、株数表示部の近傍に数字により表示することも当然考えられる。

【００２９】

【発明の効果】以上説明したように、本発明による株式売買注文データ表示用チャートは、一つの銘柄の株式に関し、日中のある時刻での現在値と、投資家から指値で出され未だ売買が成立していない売り注文又は買い注文の値段及びその値段における株数を表示するチャートであって、縦軸方向に値段、横軸方向に株数を表示するよう構成し、現在値を表す１つの現在値プロットと売り注文又は買い注文の値段を表す１つ又複数の指値プロットとを縦軸方向に結合した線分からなる値幅部と、値幅部上の指値プロットを始点としてその値段における株数に応じて横軸方向に延びる株数表示部とからなるので、ある銘柄に関する日中の株式売買注文に基づいた売買気配値の分布を視覚的に認識し易い態様で提示可能である。
また、株式売買データに基づく情報を１つのまとまりのある図形で提示できるので、一つの銘柄に関する時系列的な売買気配値の分布の変化を一度に提示し、又は複数の銘柄に関する売買気配値の分布を一度に提示することへの応用が簡単に行える利点がある。 従って、株式投資分析の１つの判断要素として株式売買注文データを利用したい一般投資家等に対し、有用な視覚資料を提供できるものであり、産業界に与える意義は極めて大である。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明の一実施形態に係る株式売買注文データ表示用チャートの図。

【図２】複数の銘柄に関するチャートを１つの画面上に並べて表示した例を示す説明図。

【図３】１つの銘柄に関する時系列的なチャートを１つの画面上に並べて表示した例を示す説明図。

【図４】本発明の他の実施形態に係る株式売買データ表示用チャートの図。

【図５】従来の「板」の表示方式を示す図。

【図６】複数の銘柄に関する板が時刻とともに変化する様子を示す説明図。

【符号の説明】

１ 現在値プロット ２ａ，２ｂ，２ｃ，２ｄ，３ａ，３ｂ，３ｃ，３ｄ
指値プロット １０ 値幅部 ２０ 株数表示部